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第二王子アレックス殿下 自覚と力不足を痛感する

行くのはいい。行くのは構わないんだ。

好きだと他人に認めてしまえば、なる程好きなのだと納得する。逢いたいと思うと、募る何かが有るのもこの二日で理解した。可愛いと思った姿を思い出すと胸がほわほわとする。背中に触れた感触を思い出せば、そのまま抱き込みたくて、我に帰れば空の腕の中が虚しく感じる。

自分でもどうかしてると思う。

だから、何でも理由を付けて逢う事が出来るなら、それがどんな事でも構わない筈なのだが…。

…行先は、彼女の父親の元。

先触れを出し、訪問の許可を得た。

敢えてハロルド・アーデンテスの住まう別邸の扉を叩いた。

なのに通されたのは、彼女の言う「家族の食卓」。カフェの様な作りで、テラスと中庭のあるこの場所。

逢いたい彼女がそこに居る。

なのに何故だ…何故こんな彼女を見なくてはならないのか?

騎士の膝に座った彼女を見た時はただ唖然としただけで、その騎士は兄だと知れば仲が良いなくらいだった。

だが今は、自覚と共に許せないと思う自分が居る。

彼女の膝に頭を預け、彼女の髪を弄ぶこの男。

この見たくも無い状況を回避するには、この男を彼女から引き離す事が重要だ。馬鹿だが、俺は真剣にそう考えている。


「ハロルド殿。訪問の許可を頂きありがとうございます。早速ですが教えを乞いたい事がありますので、是非ご教授願いたい」

「来てもいいって確かに返事をしたけど、陛下に教えて貰えば済む事なんだよね? その前に、聞くまでの事?」

「私のルーキンス行きは、ハロルド殿からの要望ですよね。なら、幾通りかの思惑や狙いがある筈。それを読み間違える前に私の役割を教えて頂きたいのです」

「ん゛~」

「お父様。訪問を受け入れておいてきちんとしないのは失礼ですわ」

「だってクルシェ。今退いたら、クロイスに取られちゃうでしょ?」

「そんなお父様は嫌いです」

「え? 私はクルシェが大好きなのに?」

「なら、お父様大好きと言わせて下さい」


仕方が無いなと起き上がる。


「あ~っと、アレックス殿下?」

「はい」

「何で黙ってるのかな?」

「教えを乞う為に来ましたので」

「そんな目をして?」


どんな目だ?

だが、咄嗟に答える事は出来なかった。

恐らく自分は挑発されていたのだろう。


「分かった。なら移動しよう」


そう言いながら娘であるクルシェ嬢に向き直した父である彼は、彼女の頭を引き寄せると、彼女の鼻の頭にチュッとキスをして「お父様仕事してくる」と言って立ち上がった。

キョトンとした彼女が可愛らし過ぎる。


「お父様には冷たいの。殿下には元気が出るの。用意してってレミーネに言っといて」


本当に父親か? 年の離れた恋人同士の様で胸がジグジグと疼いた。







別邸のハロルドの執務室か応接室に連れて行かれるかと思っていたら、鍛錬場だった。

その場に居た者に、 顔と指先だけで支持を出し、模擬剣を渡される。

移動が多いと言っても「文官」と高を括るには、場馴れした感じがする。俺も騎士の訓練に参加する事もあるが、秀でている訳では無いのが口惜しい。力試し…力量をはかられるだろう自分に自信が持てない。


「何処まで分かってるかな? …取り敢えずおいで」


言われて俺は剣先を上げた。

型に従って一振り二振りするも受け流される。


「素直だね」


クスッと笑われた気がしてカッとくる。


「今度はこっちが行くよ」


型をそのまま返された。俺よりも早い剣筋。


「クロイスは、レイナードを継ぐ気で居るけど、無理なんだよね。ルーキンスの継承三位。国外に出れる訳が無い。理由はわかるかい? かと言って、クルシェがこのままレイナードに囚われるのも嫌なんだ」


どんどんとスピードが上がっていく。

なのに、息を切らす事も無い。


「それで、別の話。今、ルーキンスにはビデディアの王子が来てる。クロイスの上は、王女二人」


剣を下ろして止まる。

話しながら動いているのに、息も切らさない。


「クルシェは女公爵。ハレスの嫡男は継承三位。北方伯領の北はビデディア。欲しいものを確実にするには、どうする、殿下?」


息が上がる間際の頭の中に、並べられる情報。


「さぁ、今度は型でなく本気で」


言われて目を見開けば、剣先が下から煌めいて掠めていった。

避けるのに、大きく身を引く。


かいた汗が目に入り、視界が怪しくなる頃…ハロルドから「止め」の声が上がった。

が、彼は頬が上気した程度。落ちた前髪をかきあげるのが不適だ。


「騎士としても行けるんじゃ無いですか?」


口惜しい気持ちを誤魔化す様に、俺は膝に手を付き息をする。


「え? 無理無理 私には覚悟が無いからね」

「だからって隙がないです。自分の力不足以前の問題が痛い」

「だから殿下は素直だね? こんなの、移動中の暇潰し程度の腕」


模擬剣を返すと、先に戻っておくように言われる。

鍛錬場に居る護衛達の方へ足を向ける背中を見送る。

着いてきていたイヴァンが近寄る。


「王宮の文官と違って、移動の体力勝負で動いてる人は凄いな。対抗するつもりは無くても、付いていこうと思ったら変則な動きに慣れないと駄目だな」


課題は山盛りだ。

クルシェ嬢に惹かれてる事はハロルド殿にバレてる。

この男に認めて貰えないと、彼女の近くへは行けない…。








戻る様に言われて戻ってみたが、戸口で立ち止まる。

ハロルド殿は、彼女をどうしたいと考えているのだろう? 彼女はレイナードに囚われていると言った。

広い屋敷に使われていない部屋。兄妹に囲まれながら、独りぼっちの女公爵。

ハロルド殿が居た場所に、彼が言った様に弟のクロイスが居る。 その側には異母妹のレミーネが寄り添う。楽しそうに微笑み合う姿。

彼女の住まう本邸への廊下を振り返る。

寂しいと言ったのは、彼女の本心だろう。ハレス家の話で、少し躊躇していた姿。しっかりしてると思っても、頼りなさそうな仕草を見せる。

初めから惹かれた。一目惚れとは違うが、初めから…。


「入らないの?」


後から声が掛かる。


「殿下は、コレをどう見る?」


聞かれた事の意図は何だろう?

仲が良くて良いと言えばいいのか?

囚われている…。彼女は囚われている…。


「…檻」


主が居なければ、少ない使用人だけの屋敷。


「なら、あれは?」


切り取られた様に囲まれた空間。


「箱庭?」


フッと笑われた。

俺の横でたちどまった彼は、改めて娘達の姿を目にすると、とろける様な笑顔で歩き出す。


「レミーネ。お父様に冷たいのを」


その声にレミーネが立ち上がり、彼女が俺を見る。

好きと言うのは、俺の自由。

好きなって貰うのは、彼女の心次第。

求めるままに求められる程、彼女の中に入り込みたい。そう思うのに、時間はかからなかった。


明日は、舞踏会。

ルーキンスへの出立は四日後。








誤字脱字の報告に、ようやく気付きました。教えて下さりありがとうございます。書いて上げるのに夢中で、他を見る事をしていなかった自分が恥ずかしいです。

読んで下さりありがとうございます。

勢いで書き始めました。設定も、ゆるゆるがたがたです。ですが、完結まで、キチンと向き合おうと思っています。

どうかよろしくお願いします。

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