女公爵クルシェ嬢 朝の一時を幸せと思う
クスクスと、とても囁かな笑い声が近くで聞こえる。
小さな身動きが、小さな波を届ける。
随分と久しぶりの感覚に、起きる事を促される。
側に誰かが居る。とても楽しくて幸せな気分。
ちょんと鼻の頭に何かがふれたので、目を開けた。
クフフとさらに楽しさを含んだ笑い声。
「おはよう。クロイス」
悪戯の成功に、クロイスの口元は弧を描いている。
「おはようございます。姉上」
起き抜けの髪は、寝ぐせでくりくりと跳ね上がってるのが可愛い。
「ところでクロイス?」
「はい、姉上」
「私達、予定通り寝坊出来たのかしら?」
「ごめんなさい。僕が姉上を起こしてしまったから…」
「それはいいの。だけどクロイス、寝坊したかったのよね?」
「したかったです。でもそれは、遅くまで起きてて起きられなかったというのをしたかったのです」
失敗したと眉を寄せる。
「なら起きる? お腹空いてない?」
クロイスは首を傾げてから横に振る。
「予定通り二度寝する?」
いっそう眉を顰める。
「ゴロゴロしたままおしゃべりをする?」
「はいっ!! おしゃべりします」
コロンとうつ伏せに寝転がり直したクロイス。私は、背に枕を当てて、少しだけ体を起こした。
ぶらぶらとさせた足は楽しそうだ。
「クロイス? 体とか痛くない?」
「だるく感じるのはあるけど、痛い所は無いです」
「なら良かった」
そう言いながら窓を見る。何時もと同じくらいの時間だろう。
「ねぇ、クロイス。お父様と色々相談してたらしいけど何時頃から?」
「年明けの後。母上に赤ちゃんが出来たって分かったのが最初。お祝いに来れなくなるからどうしようって。そしたらハロルドが、迎えに行くから、父上達の許可を取れって!」
許可を得るのには大変だったろう。クロイスは、気軽に国外へ出られる子供では無い。身分的に。
「お母様もお義父様もお困りではなかったの?」
我儘を言ったのでは無いの? と含みを持たせて聞いてみる。
「そんな事無いです。父上達だって、赤ちゃんの事が無ければお祝いに来る予定だったのだし、僕一人だって問題ない筈じゃ無いですか!」
「お母様の赤ちゃんだってお祝い事よ?」
「それはそれです!」
ぷっと頬が膨らむ。
「もう僕は、姉上の所に来ちゃいたした。僕は、母上からのプレゼントです!」
「プレゼント? クロイスが?」
「そうです。母上と約束したんです。プレゼントの僕が姉上に沢山良い事をしてあげて、そのお話を母上へのプレゼントにするって!」
「まぁ。私へのプレゼントが、お母様へのプレゼントになるの?」
とても素敵と、クロイスを抱きしめる。
「ですが、最初のお祖母様を連れて来られませんでした…」
しょんぼりと体の力が抜ける。
「クロイスが来たわ。最初のプレゼントよ!」
「嬉しいですか?」
「もちろんよ」
クスクスと私の笑い声がこぼれる。
お祖母様を連れて来れなかったと、肩を落とすクロイスだけれど、二日の日程を短縮する為に、ずっと馬車の中で過ごしていた事をクロイスが眠った後に詳しく聞いた。
昼は普通に馬車は進む。夜は人の足並み程度だが確実に先へと、沢山の護衛と明かりを灯し進んで来た。食事は馬車の中。辛いとは言わなかったと、聞いた。クロイスの口から出るのは、早く辿り着きたいというのと、何をしようかという事だけだったと…。
クロイスの言う通り、クロイスがプレゼントだ。
私はクロイスをいっそう抱きしめて、二人で笑いあった。
騒げば、部屋の扉が開かれるのは当り前。
ダリル兄様とレミーネの二人。
ずるいとベットに上がるレミーネと、三人でくすぐり合うように転がったのを、ダリル兄様が止める頃には、笑い過ぎてお腹が痛くなっていた。
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