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女公爵クルシェ嬢 父の帰宅と共に弟を迎える

アレックス殿下には、早々にお帰り頂いた。

身分ある方への対応として、自分に駄目出しをしたい気分だが、殿下が居る限り終わらないのだから仕方の無い事として理解してもらいたい。

そして気合を入れ直す。

客人を帰して取り掛かってもまだなのかと、思われるのも癪だ。

集中力と気合の甲斐あってか、比較的早く書き終わる。

良くやった私と心で称賛しながら、もうペンも紙も見たくないと執務室を後にする。


本来人気の無いこの階の対が騒がしい。アレックス殿下が来た時の様では無さそうだが、気になる。

客室の扉が開いている。覗き込めば、荷物が運び込まれているところだ。


「ねぇ?  何をしているの?」

「まぁ、お嬢様! お仕事はお済みになったのですか?」

「えぇ、ようやく終わったの」


それで?  と聞いてみる。


「お客様の荷物が届きましたので、お迎えの準備をしております」

「お客様?」

「詳しくは知らされて無いのですが、一月前に旦那様から本邸の客室を用意しておく様にとご連絡かありまして、先程その荷物が届いたのですが…何方かは聞いていないのです。申し訳ございません」


ならダリル兄様に聞くと、下階へ向かう。エントランスにその姿を見付けて呼び掛ける。


「何方かいらっしゃる? なら、身支度を整えないといけないわよね?」

「必要は無いとおもいますが。お嬢様が気になさるのでしたら、お支度をなさいますか?」


執事業中のダリル兄様の口調は固い。


「気にするわ。特に昼間のアレは、私にとって汚点よ!  と言うか、殿下が来るって思ってもいなかった自分にも腹が立つわ」


申し訳無いと、頭を下げるダリル兄様。

…アレックス殿下を、止められなかったからね。


「で、何方がいらっしゃるの?」

「ハロルド様が間もなくお帰りになるそうです。お客様も御一緒だと、連絡を受け取りました」


お父様がお連れするお客様?  本邸に部屋を用意するというのは、レイナード関係?  お父様の個人的な方なら、別邸の方に案内する筈なのだけれど…。

お父様が家を空けていたのは仕事。

国内南部の視察から、そのまま隣国に外交に出た。外交の一団は、二週間前に帰国しているのだけれど、お父様は単独でその隣のルーキンスに行った。

ルーキンスのハレス公爵家。お母様が再婚して嫁いだ家。

其方に寄ってから帰ると頼りが来たのは、二ヶ月前の事だ。

寄り道しないで帰って来て欲しかったと思うのは今更だ。

だからと言って、お客様がハレスの母と義父で無い事は承知している。母は今妊娠していて、体の為、馬車で長距離の移動なんて無理なのだから。

ならばその帰国の道、同行しての我が家へのお客様とは誰なのだろう?。

あえて首を傾げる。


「クロイス様です」

「クロイスが?  全然聞いて無いよ?」


クロイス・レイナード・ハレス。お母様が再婚して産まれた私の異父弟。


「ハロルド様から客室をと連絡がありましたのは一月前です。七日前に、クロイス様を連れてハレス家を出たと知らせが届きました」


届いた…私、聞いて無いよ?  兄様ってレイナードの執事ですね?  お父様の執事じゃ無いですよね?  私、この数日家にいましたよ?

くんっと唇を尖らせる。

そうです!  私は拗ねてます。

王都から王都への移動。馬車で凡そ十五日から十七日の距離を、8歳のクロイスがやって来る。そんな弟を迎える為にも、教えておいてくれてもいいじゃ無いか。


「申し訳ございません。クロイス様から、内緒にと言付けがありましたので…」


クロイスは、レイナードの相続権を持っている。お父様で無く、クロイスに言われたならと思えばいいのだろうか?  それでも、当主は私なのです。把握くらいはいておきたかった。

自問自答に沈んでいると、小さなベルの音がした。

屋敷の門を、馬車が通った合図。来客を知らせるもの。


「お着きになった様ですね」


本当に?  まだ着替えして無いよ?

ダリル兄様は、テキパキとした動作で玄関の扉を開ける。

直ぐそこに馬車。速度が落ちて、そして停る。

馬車の扉が開くと、ピョコンと光沢のあるグレーの髪が飛び出す。私と同じレイナードの色。向けられる瞳はハレスの新緑。クロイスだ。


「姉上!!」


クシャリと笑顔になったとたん、駆け出し、私へと両手を伸ばす。


「お会いしたかった!!」


触れる直前、クロイスは勢いを削ぐ為に止まったが、止まりきれなかった体が、ドンと、胸へと振動を伝える。

暑さを感じ始めたこの頃。馬車での移動は快適とは言えなかったのだろう。当り前の事だが、額や項に汗で髪が張り付いている。軽装であるが、シャツの襟はよれている。

抱きしめられ抱きしめ返す。

少し下に見えるクロイスの旋毛にキスをして、「私も会いたかった」と声を出す。


「クロイス。早く私に代わってくれ!」


クロイス同様に、くたびれているお父様がいた。

何時もはキッチリと撫で付けている髪が、ボサボサしていて、額に影を落としている。ヨレヨレでもかっこいいです。


「少し待て。ハロルドは一緒に暮らしているんだ、僕に譲れ!」

「私も半年ぶりだ!」


ふわりと抱き上げられる。

ずるいぞと、お父様を睨み上げるクロイス。


「私が話している間に、サッパリしたらいいだろう? その後は好きにすればいい」


ハッと目を見開いた後、私を見上げるクロイス。


「姉上!  ここはハロルドに譲ります。ですが、今夜はずっと一緒です!  淑女の部屋に僕がお邪魔する訳にはいかないので、僕の所で一緒に寝ましょう!  そして明日は一緒に寝坊するのです!!」


一気に話すとぺこりと頭を下げ、ダリル兄様を従えて行ってしまった。

小さい嵐だ。

その姿を見送り、改めてお父様と向き合う。


「お帰りなさい、お父様」

「あぁ、今帰った!」


抱き上げられたまま、私達は応接室へ足を向けた。


「クルシェ?」

「はい」

「悪かった」

「私の方こそ、申し訳ありませんでした。騒ぎになってしまいました…」


血の繋がりなんて無いと、お父様からの便りは受け取っていた。

何故、否定も肯定もしなかったのか。お父様自身でエリアナと話をすると言われてあったからだ。あの時、あの場で「貴女はお父様の子供では無い!!」と言うのは簡単だっただろう。だからと言って、私の言葉で納得したかどうかは疑問だ。


「本当にお父様の子供ではありませんの?」


この事に関して嘘を言わないと分かっていても、文面でなく、言葉が欲しい。


「そんな者など知らないとは言わないが、子供が出来る様な関係は持って無い」


応接室に入ると、お父様はそのまま座ってしまったので、私はお父様の膝の上だ。


「そうですか…」

「私は、誰かと共有する趣味は無い。タチの悪い男と付き合ってると聞いた覚えはあった」


だから気になったのだと力の無い声音。


「お父様はお優しい」

「いいや。粗雑に扱って、クルシェに嫌われたく無かった。だが、裏目に出てしまった。すまなかった」

「これからどうなさいますの?」

「その娘を見ないと何とも…。この後、アーデンテスに行って来る」


お父様は私の両手を握っては撫でるをしている。

くすぐったいです。


「それよりも、王子が絡んだと聞いたが…大丈夫なのか?」

「抜かり無しです」


そう答えると 「我が家の女公爵様は頼もしい…」と、うっとりと微笑まれた。私にそんな顔しても無意味ですよ?

それよりもと、予定より二日早い帰宅の理由を聞いた。

びっくりだ!!

ルーキンス国からクロイスを連れ、レイナード領でお祖母様を拾って王都に帰ろうと予定していたのだが、事の知らせを受け取ると、一大事とお祖母様をすっ飛ばし、護衛を借りるだけ借り、馬を替え、御者を替え、宿に泊まる事無く昼夜移動してきたという。

それに8歳のクロイスを付き合わせのかと思うと…。

ヨレヨレ具合いからも、大変だったのだろうと感じたが、それ以上の事だった。

お父様にとってクロイスは預かり子なのに、何かあったらどうするつもりなのか?。それでも無理を通したお父様。それを受け入れて無茶をするクロイス。

私を思ってなのだろうけど、自身を大切にして欲しい。

もちろん嬉しいのだけれど…。私だって、心配するのです。




お父様とは、レミーネと会ってからアーデンテスに行って下さいねと念押しして別れた。クロイスの様子が心配だったからだ。

元気そうでも、疲労から体が弱って病気になる事だってある。


クロイスの部屋へと向かうと、ダリル兄様の他にクロイス自身の従者のヨシュと侍女のマーナがいた。二人共、無理な移動に付き合ったというのに甲斐甲斐しくクロイスの世話をしていた。

二人に、今日はこのまま休む様に言ったのだが、なかなか「はい」とは言わ無い。

クロイス自身が、「後はダリルに任せる」と言うと、渋々下がって行った。


「姉上?  王子に苛められたと聞きました」


誰から?  父からだろう。

寝転がったクロイスは、気遣う様に私を見上げる。


「苛めで無いわよ?  ただ面倒臭い事になっただけよ」

「でも、嫌な思いはしたんですよね?」

「そうね…でも、些細な事よ?」


だから心配無いわと、クロイスの髪をすく。


「それよりも、来てくれた事が嬉しいの」

「当り前です。姉上のお披露目ですよ? ハロルドと色々と考えたのですが、お祖母様を連れて来れなかった事が残念です」


いったいあの父と、何を取り決めたのだろう?


「何を考えてくれてたの?」

「初めての舞踏会のドレスですよ? それを着た姉上と、お祖母様の前で踊ろうとか…」


声の力が小さくなっていく。


「…姉上?」

「なあに?」

「ごめんなさい。僕、寝ちゃいそうです」

「お休みしていいのよ?」


クロイスの瞼を擦る手を止める。


「今寝たら、早く起きてしまいます」

「二度寝すればいいとおもうの」

「…姉上?」

「大丈夫。一緒に居るわ」


もうクロイスの瞳は閉じられている。


「約束で…よ…」


声が途切れ、規則正しく胸が上下する。




止まると動かない。動き出すと止まらない。困った現象が起きてます。

前話は止まって進めなかったのですが、今回はチュルンと行けました。

その分、ちゃんと書けたが不安です。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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