朝焼けの街
デルファレが消えた後、俺たちはシルファリオンの門番の所まで動けないラフィールレーンを担ぎながら歩いて行ったんだが、初めは俺たちを警戒していた彼女たちだったが、事の経緯を話すとすんなりと受け入れてくれたようで、今はラフィールレーンの城で接待を受けていた。
「俺、霊人って肉は食べないのかと思ってたんだが、意外といけるものなんだな。」
俺は肉の旨味を噛み締めながら言うとアルテノンは渋い顔をしながら言う。
「うーん…やっぱり、肉は苦手だなぁ…お姉さん、パプルカのサラダとトトマのサラダをちょうだい!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
霊人のメイドが丁寧にお辞儀をして奥へと消える。
アルテノンがふと思い出した様に俺の傍までやって来て耳元で言う。
「そう言えば、リアたちは私たちの王と戦ったんよね?あれね、一応王への危害って事になるから、王宮からは出ない方がいいよ。私もそうだけど、彼女たちは王を敬愛し、溺愛してるからね。」
若干、脅す様な口調に聞こえたのは多分気のせいではないのだろう。
俺は霊人たちの怒りを買う事は避けたいし、断る理由もないのでそのまま了承する。
「まあ、何か欲しいものがあったら、ここのメイドに言うか、僕に言ってね。すぐに用意してあげるから。」
「お、おう。わかったぜ。」
あの後、夜まで続いた宴が終わり、俺は近くに居たメイドの霊人にこの国について知ってる事を教えてもらった。
俺は風呂の後でこの国について聞いた事をまとめるがてら、夜風に当たろうと城のベランダに出て、夜景を眺めていた。
「あら?貴方は…」
俺は声が聞こえて、そちらを振り返ると見るからにこの絢爛豪華な城には不釣り合いな格好の少女が居た。
俺が何かを言おうとする前に少女が言う。
「貴方がリアね…私はノワールよ。よろしくね。」
ノワールと名乗る少女はニコニコと微笑みながら、俺の隣に並ぶ。
俺は少女に見た目相応とは言い難い何かを感じていたが気にしない事にした。
「俺の事を知ってるって事は監視役か何かか?」
少女は楽しそうにクスクス笑って言う。
「面白い人ね。私はそんなんじゃないわ…ただあの人を倒した人がどんな姿なのか気になっただけよ。」
あまり感情が顔に出てないが、その声には純粋に楽しんでると言うのがハッキリと出ていた。
「そうか…」
それっきり少女との会話は無かったが、しばらくの間一緒に夜景を眺め、割り当てられた部屋で眠る。
翌日の早朝…
まだ夜も明けてない時間…
ふと何かを感じで俺は目覚めた。
「なんだこの感じ…」
目を開けると少女の顔があった。
俺は思わず飛び起きたが少女は安心した様に眠っていた。
「こいつは確か…」
俺は寝ぼけた頭をフル回転させて昨日の事を思い出す。
「そうだ。こいつはノワールだ。なんでここに…」
俺がそんな事を言ってるとノワールの瞼がピクリと動く。
「うーん…」
ノワールの目が開く。
「あら…リア、早いのね…」
ノワールはニコニコと微笑みながら言う。
「あ、あぁ…ふと何かを感じたものでな…その正体はノワールだったが…」
「ふふっ…貴方は本当に面白い人ね…貴方みたいな人は好きよ。」
ノワールは楽しげにそんな事を言う。
「そうか…それは褒め言葉として受け取っておくぜ。」
俺はベッドの横の窓を見る。
朝焼けの綺麗な街並みが美しい。
例えるなら、高級ダイヤの輝きにも勝る美しさを感じる。
ノワールが少し誇らしげに言う。
「美しい街でしょう?私もこの景色が凄く好きなの。」
「あぁ…こんなに綺麗な街は初めてだ…"スマホ"があれば"写真"撮ってるな…」
「スマホ?写真?」
ノワールが不思議そうに聞く。
俺はノワールのその言葉で自分が何を言ったのかを理解した。
だが、思い出せない。
「スマホ…写真…どっかで聞いた気がするんだが…」
ノワールは何かを思い出した様子で言う。
「そう言えば、前に異世界人が転移してきた時に謎の力で動く不思議な板を持っていたわね。確か彼はそれを"スマホ"と呼んでいたと思うわ。」
ノワールが俺の部屋から出る。
多分、その"スマホ"を持って来るつもりなのだろう。
「やっぱ、朝は冷えるな…」
俺は昨日アルテノンに頼んで買ってきてもらった上着を着る。
しばらくして、ノワールがスマホと思われる板を持ってきて言う。
「これがそのスマホ?ってやつだと思うわ。今は動かないけど…」
俺はそれをノワールから受け取る。
そうだ!
スマホだ!俺も使ってたやつだ!
確かこいつには付属の充電器があるはずだが…
いや、待てよ…
電気を起こして充電すれば…
俺は雷の魔力を意識する。
多分少しで大丈夫だろう。
それをスマホの充電端子に流す。
スマホが点灯し、充電中のマークが出る。
「凄いわね…ちょっと触っただけであっさりついちゃったわ。」
俺はスマホについて軽く説明する。
「こいつはスマートホンって言ってな。異世界の通信機器なんだ。こいつは雷の魔力で発生させた電気で動くんだ。今は充電が無いから起動はしないが、しばらくすれば使える様になるはずだぜ。」
「そうなのね。じゃあ、私たちには使えないわね。魔力は使えないもの。」
ノワールは少ししょんぼりとして言う。
「いや、電気を発生させるだけなら、実は簡単な事なんだ。」
「そうなの?!」
ノワールの声が一瞬で期待値MAXな声になる。
「あぁ…電気は物を擦った時に発生するんだ。それと同じ原理で俺は魔力を擦り合わせて電気を発生させたんだ。つまり、発生した電気をこいつのこの充電端子と言う穴に流す事が出来れば充電が可能なんだ。」
ノワールはまるで初めてものを見る子供の様に楽しそうに言う。
「それなら、私にも使えるのね!やっぱり、貴方って本当に凄いわ!」
顔にはほとんど出てないが声はまさに凄いものを見て楽しんでいるのがわかるものだった。
「まあ、こいつはある程度の電気が無いと動かないが充電する時に電気を流し過ぎても使えなくなるんだ。そうなったら、もう二度と使えないものになると思う。」
「そうなのね…じゃあ、それは貴方にあげるわ。私には加減が分からないもの。」
ノワールは諦めの混じった声で言う。
俺はノワールの手を取って言う。
「なら、俺が教えてやるよ。こうやるんだぜ。」
俺はノワールにも分かるように力の加減を教える。
ノワールは飲み込みが早く、すぐにスマホをちょうどいい電力で充電する事が可能になった。
「凄いわ…これで私にもスマホが使える様になるのね…!」
コンコンと部屋の扉がノックされ、扉が開かれる。
ノワールが一瞬イタズラのバレた子供のような表情をした。
「ノワール様?!何をなさっておられるのですか?!」
入ってきたメイドが驚いた様子でノワールに言う。
「…ん?ノワール様って事は…」
ノワールはバレちゃったと言わんがばかりに舌を出して言う。
「私はラフィールレーンの娘、シルファリオンの姫のノワール・シルファリオンよ。内緒にしててごめんねっ♪」
俺が呆気に取られてポカーンとしてると、ノワールが嬉しそうにメイドに言う。
「アリーシャ、聞いてよ!リアったら、凄いのよ!この板の使い方を持っただけでわかったの!」
「ひえぇ…国宝を勝手に持ち出すなんて…」
アリーシャと呼ばれたメイドは青ざめて倒れてしまった。
俺はとてつもなく嫌な予感がした。
あっという間に俺の部屋の前に人が集まり始め、大騒ぎになる。
「君はとんでもない事をしでかしたねぇ…」
この城の騎士と思われる霊人が呆れた様に言う。
王との謁見の間に連れてこられた俺はラフィールレーンの前で立たされていた。
「リアよ…貴様は私の娘を部屋に引き込み、さらには我が国の国宝にまで手を出したと言うのは本当か?」
ラフィールレーンが頭を抱えて言う。
「いや、確かに俺はノワール姫がラフィールレーン王の娘とは知らずに一緒にいたが、寝て起きたらいつの間にかベッドに居たんだ。国宝に手を出したと言うのは国宝とは知らなかったが、使い方をノワール姫に教えていたんだ。」
周りの騎士たちがガヤガヤと騒がしくなる。
「静粛に!」
ラフィールレーンがそう言うと騎士たちは一瞬で静かになる。
ラフィールレーンは大きくため息をついて言う。
「リアよ、貴様の言い分は分かった。しかし、その罪は重いぞ?覚悟は出来ておるな?」
ラフィールレーンが威圧する様に俺を見る。
その時である。
王との謁見の間の入口が騒がしくなる。
「いけません!ノワール様っ!」
「そこをどきなさい!私のせいなのにリアが裁かれるのは納得が行かないわ!」
入口の方でノワールと門番の騎士が言い争う声が聞こえる。
ラフィールレーンが大きなため息をついて言う。
「そこのもの。ノワールの入室を許可します。通しなさい。」
門番が道をあけ、ノワールが肩で息をしながら言う。
「お母様!悪いのは全て私よ!私が身分を隠して、リアの部屋に侵入し、国宝の板を宝物庫から持ち出したの!リアは何も悪くないわ!罪を償わせるなら、私が全て引き受けるわ!」
ノワールがハッキリと今までに見せた事がないような必死な表情で言う。
「待てよ!それじゃ、お前が…」
「リアは黙っていてください!今は私がお母様に話しています!」
俺はノワールの気迫に押されて黙りこむ。
「はぁ…追って裁きを下すから、それまで二人とも牢で大人しくしているように。」
「お母様!」
俺とノワールの後ろにアリーシャが立って言う。
「リア、ノワール様、王の命令です。どうか大人しくついてきてください。」
俺たちは地下の冷たい牢屋に入れられた。
「王の答えが出れば牢から出して差し上げます。それまではどうか大人しくそこにいてください。ノワール様もです。もし脱獄をしようとすれば、お連れ様の命の保証は無くなりますので…」
アリーシャは静かにそう言って上へと戻る。
「リア…私のせいで貴方にはとんでもない事をしてしまいました…」
ノワールはそう言うと涙を流して俯く。
俺は自分の着ていた上着をノワールにかける。
「リア…」
ノワールは俺の顔を見る。
「俺さ…転生者でさ…今は転生前の事はほとんど忘れちまったけど、一日のほとんどを薄暗い部屋の硬い椅子に座って仕事をしていたんだ。それでさ、SNS…あー…皆で文通したりして、こうして直接人と話す事なんて無かったし、昼も夜もわからない様な生活をずっとしてたんだ。エアコンつけても冬は凍える様な寒さ、夏は地獄の様な灼熱の部屋だったんだ…でもさ、こっちはエアコンも無いのに夏でも涼しいし、冬も暖かいところばっかりだった。そして、仲間が出来て人と話す事も増えた。今のまま転生前に戻れと言われたら、もう戻れはしないだろうな…それほど今が楽しいし、これからもアイツらと楽しんで生きていければと思っている。」
ノワールは俺の体から顔を逸らして言う。
「そう…ですよね…私があんな事さえしなければ、今頃貴方たちは自由の身ですものね…」
俺は目頭が熱くなるのを感じながら、ノワールの頭を撫でて言う。
「そうかもしれねぇな。でも、俺はお前と会って、綺麗な景色を見ながら話をして盛り上がった事は後悔しないよ。ラフィールレーンには悪いけど、あの時お前が来てくれて嬉しかったぜ。それにさ、こっちで初めて元いた世界のものを見て内心テンション上がってたし、ノワールと電気の話をして盛り上がったりしてさ…だから、そんな悲しそうな顔するなよ。人は笑顔が一番だぜ。」
気づけば俺は涙を流していた。
ノワールは涙を拭いてクスクスと笑いながら言う。
「リアってば…貴方が泣きながら言ったって説得力無いわよ。」
俺も涙を拭いて笑って言う。
「ははっ!ちげぇねぇ!」
どのくらい時間がたっただろうか…
ふと、ノワールが寂しげに言う。
「死にたくないなぁ…」
「そうだな…」
コツコツコツと軽い足音が響く。
俺とノワールは牢からまっすぐ見える階段を見る。
階段からアリーシャが降りてきて言う。
「リア、ノワール様、王がお呼びです。ついてきてください。」
俺たちはアリーシャの後ろをついて行く。
そして、王との謁見の間に連れられる。
「よく来たな。貴様らに下す裁きが決定した。これから言う事は速やかに実行される。大人しく聞くように。」
ラフィールレーンの目の下にはうっすらと泣き跡の様なものがあった。
「それでは、貴様らに下す裁きの内容を言い渡す。貴様らは顔も見とうない!故に明日の朝までにこの国を出て行け。そして、二度と我の国に足を踏み入れるな…以上!」
ラフィールレーンはそう言うと玉座から立ち上がり、国宝のスマホを箱から出してノワールに手渡す。
「良いかノワールよ…お前の物はお前が管理するようにしろ…それが私の…ラフィールレーンの親としての最後の命令だ…さよなら…愛しき娘よ…達者でな…」
「お母様…」
ラフィールレーンは再び玉座に座って言う。
「これにて裁きの儀は終わりじゃ。各自の持ち場に戻るが良い。そして、リア、ノワール、貴様らは出ていく支度をしなさい。リアの仲間には城門の外の小屋で待機する様に言いつけておるから、そこに寄るのを忘れんようにな…」
俺たちは部屋に戻り、出ていく準備をする。
ノワールは俺にスマホを預けて、自分の部屋で準備をすると言って一旦別行動になった。
コンコンと控えめな音で扉がノックされる。
「失礼します。」
扉を開けて入ってきたのはアリーシャだった。
アリーシャは俺が持っているスマホを見て言う。
「王は…何も言ってませんが、それは王にとって自分の命の次に大事な思い出でした。異世界の者と旅をしていた大切な思い出なのだそうです。ですから、どうか大切にする様、ノワール様にも言い聞かせてくださいね…では…」
アリーシャはそう言って部屋を出る。
俺は電源のついた圏外表示のスマホを見る。
「ちょっとだけサプライズしてやるか…」
俺はスマホをこの世界用に改造する事にした。
まず所有者の魔力でロックを解除出来る様にし、魔力によって通信も可能にした。
そして、同じものを2台作って通信のテストをした。
計3台の異世界スマホの完成だ。
俺は動作確認の為に全てのスマホで全ての動作を確認する。
ロック解除に写真撮影、動画撮影に簡単なLIINの様なものも起動させてみる。
そして、テスト用メッセージと動画、写真を送る。
リィン!と通知の音もバッチリだ。
そして、スマホのライト機能をテストし、全ての動作が出来ることを確認する。
「まあ、こんくらい使えれば良いだろ。さすがにソシャゲとかは俺には作れねぇからな。」
俺は3台のスマホのロック情報をリセットする。
「これで後は所有者の魔力を自動で検知して所有者にしか開けないものになるな。」
コンコンと小さな音がする。
扉を開けて入ってきたのはノワールだった。
「リア、また一緒に寝ても良いかな…」
ノワールは想像してたよりうんと小さなバックに薄い桜色のワンピースを着ていた。
「良いぜ。それとちょっとスマホをこの世界対応にしてみたんだけど、どうかな?」
ノワールにノワールのスマホを渡す。
ノワールは魔力検知の制度の高さやLIINの使いやすさに驚いていた。
写真や動画も楽しげに撮っていた。
ノワールは嬉しそうに言う。
「これで私たちはいつでも一緒ね!」
「喜んでもらえたようで何よりだよ。」
翌日、俺たちは夜明け前の街をバックにツーショットを撮った。
「これでずっと今日の事を忘れないで居られるねっ!」
「そうだな。大事な俺たちの思い出だもんな。」
俺たちは部屋を出る。
「そろそろお迎えにあがろうとしていたのですが、不要だったようですね。」
アリーシャが少し震えた声で言う。
「アリーシャ、勝手な事をしてごめんね…それと、お母様にもごめんねと伝えててもらえるかしら。」
「ノワール様の最後の言伝、このアリーシャが確かに承りました。」
アリーシャは丁寧にお辞儀をする。
俺はアリーシャの目の前に歩いて行って言う。
「アリーシャ、こいつをラフィールレーン王に渡してやってくれないか?」
俺はスマホの入った箱をアリーシャに渡す。
「中を確認してもよろしいですか?」
「そいつの中身は"思い出"さ…あんたなら中身がわかるんじゃないか?」
「左様でございますか…」
アリーシャは少しだけ嬉しそうに目を細めた。
きっとこの場に居る誰もが気づいてないだろうと思いつつも、この少女の計らいは王の心に深くささるだろうと言う思いを胸に"僕"はある決意をする。
ノワールは長い廊下を歩きながら、楽しそうな声で言う。
「それじゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。ノワール様。」
アリーシャは二人を城の門まで見送る。
そして、背中の小さくなった二人を見ながらポツリと呟く。
「リア…ノワール様を頼みましたよ…」
朝焼けの光に照らされた彼女の目には今にも零れそうな雫が輝いていた。




