2話 そもそも始まってすらいなかった
「いや、待ってほしい。折衷案はあるはず」
「うむ。気が早いのではあらぬか? 我らはこれからだろう」
慌てた2人が口々に止めようとしてくる。しかし、しかしだ。オレには思うところがあった。
それはさっきの話し合いが話し合いになっていない事が気に入らない、わけではない。むしろこうなったのは当然だろう。なぜなら。
「オレたち、先週知り合ったばっかじゃん?」
「そうだね」
「ふっ」
入学おめでとうレクリエーションがあったあの日、流れでチームを組み、そのままチュートリアルを終えて実戦へという流れを経ての今だ。つまりは驚くほどの初対面。知り合いと言えるかすらまだ怪しいレベル。
「なら方向性合わないし、もう解散しちゃって新しいチーム探した方がいいんじゃねーの?」
「一理ある」
「ふむ……」
2人が納得したのを見て、オレはすぐに動き出した。決まったなら早く動いたほうがいい。
「なあ、チームに入れ――」
『無☆理』
『もうフルメンなんだよね』
『え、えと、ごめんなさい!』
『ヴァカめ!』
『とりあえず今のチームでやってみんとな』
「……駄目だった」
「こっちもだね」
「ふっ、ふっ……」
机に突っ伏すように倒れ込む。ユウトは空中で指を動かし何かしており、リューガは壁を背に寄りかかりながら悲しげな鳴き声を発していた。どうやら結果は全員同じだったようだ。
「いや、まあ、わかる。わかるんだよ。やる気あるやつはもうとっくにチーム組んでるし、そうじゃないやつはチーム戦じゃなくてソロのほうやるしよー」
「基本的にソロのほうが気楽だからね。チームは競技性が強くなるから」
「ではどうする? とりあえずこのチームで継続するか?」
腕を組み考える。続けるか、続けないか。そもそもオレはどうしたいのか。
そう考えると、意外なほど簡単に答えは出た。
「やる気、出ね〜……」
「ん?」
「ふぅん?」
そうなのだ。そもそもの話しオレはこのゲーム、ライドブレイクに対してそこまでやる気がないのだ。
「誘われたからお試し感覚でやっただけだからなー」
「……なるほど」
「ふっ。自身に潜む果て無き闘争心をみて見ぬふりするか。それもよかろう」
「まあ、だから一旦解散してそれぞれで活動していけばいいんじゃねーかなと」
一瞬の沈黙の後、ユウトが切り出した。
「そのことを責める気も引き留める気もないんだけども」
「おう」
「しかし、やる気が出ないのはライドブレイクが楽しくなかったから?」
「あー、まあ、そうだな。そうだ」
「ふむ。それならば!」
「俺が、このゲームの面白さをプレゼンしよう!」
目をキランと光らせ、空中に指を高速で躍らせたかと思えば目の前に大量のウインドウが展開された。パット見確認できる内容は[第三回夏季大会決勝][珍プレー好プレー集][文化祭で起きた伝説のイベント戦! 2対100、はたして勝ったほうは!?]など。他にも様々な動画や記事が並んでいた。
「は? ん? あ、ああ。おう」
少しは責められるかと考えていたため、思った方向とは別の流れに困惑しながらも床に正座する。ついでに無言でフェードアウトしようとしていたリューガも捕まえて座らせた。
「まずこのゲームの目玉はなんといっても変形機構だろう! 自分の相棒を身に纏い装着できる! いわば男のロマンだっ!」
「お前って堅実派じゃなかった?」
「それはそれ、これはこれえ! わかるよな、リューガっ!」
「あ、はい。そうですね」
「もちろんそれだけではない!」
聞いといてこっちを見ることは一切なく、話は更に加速する。
「乗り物状態のドライブモードで走行することによりエネルギーを充電し装着するライゼモードだが、ドライブモードに比べ最高速度以外の全てが上回るこのモードでずっといられるわけがなく、敵の攻撃や動くだけで減っていくエネルギー残量を見極め攻めるか逃げるかを常に考え続け――――」
長い。
ひたすら長い。
オレは語られる魅力を右から左へ聞き流しつつ、せっかくだから展開されているウインドウを弄る。[便利な小技3選][ライドエネルギーの効率的な稼ぎ方 実践編][最強!? チーム全員ロケットランチャー装備で突撃してみた!][18歳、ライダーです pt72]など他にも色々と。
様々な実用的そうな情報から明らかにネタ目的のやつなど幅広いものが並ぶ中、1つだけ目に留まるものがあった。
「……これは」
「――――また、ゲームは学業と密接に関わっており、テストの点数や成績により付与されたゲーム内通貨を使えば、それは今SNSで話題になってるやつだな。なんでも全中陸上の優勝経験者がなぜかVRの高校に入学しただとかで。武器や乗り物の見た目を好きなように改変してもらったり、性能を改造して特殊なギミックの追加とかができたりして――――」
「さすがだ。軽く説明して即座に話題を戻している。我でなければ聞き逃していた」
[ライドブレイクに超期待の新星現る!]
そうタイトルが付けられた動画のサムネイルには満面の笑みの、少女にしか見えない女の子の顔面ドアップが映っていた。
「その童女が気になるか?」
「……ん、いや、少し引っかかっただけだ」
「ふむ……そやつなら我も深淵の知識を覗き見、多少は知っていることがある」
「SNSのことか?」
「[噂の新星とバトった! すげー速さで横を駆け抜けたかと思えば、気づけば撃破されてたんだ。その時のリプレイ見た感じ何をされたかと言うと(1/2)]と」
「SNSのことだな。しかも肝心なとこ見てねーし」
「勝手に更新して消えてな。わざわざ調べるほどでもなかったゆえ」
動画を再生する。そこにはサムネイルと変わらず、心底楽しそうな少女が画面内を駆け回り、相対する相手が何かする前にあっという間に倒す動画だった。人によってはつまらないと言いそうなほど一方的な展開。
それを見て、見てしまって、思わず目を背ける。
背けた先には負けないくらい楽しそうな笑みを浮かべたユウトが目の前にいた。
「うわぁ……」
「多少はゲームに興味が湧いたかね?」
「なんだその口調。ゲームに興味は、まだびみょーだな」
「そうか。まあゲームにはなくてもそっちの少女には興味津々、ってところかな?」
「あ〜……」
「おっと詳しくは語らなくていい! なぜなら趣味は人それぞれだから!」
「うざ……」
ニヤニヤした顔でそう言われるのは少しイラッとするが、詳しく聞かれても困るので流すことにした。覚悟しとけよ。
ちらりと横目で画面を見る。いくつかの試合をまとめたものなのか、先ほどとは別の試合に移っていた。相変わらず楽しそうに駆け回る姿が目に入る。最後まで流れた動画は笑顔のドアップで時間が止まったのを確認して、ウインドウを閉じた。
「体が闘争を求めるか?」
「……いや、別に」
「その子と戦ってみたいなら、今度やる学年交流戦の入学記念杯にでも参加すればいるんじゃないか?」
「別に戦いたいわけじゃ」
「ふむ。心が躍るな。この学園にも我が伝説を刻みつけようではないか!」
「話を聞けぇ!」
「それなら参加申請しよう。今度はチームワークを中心に練習してみようか。この後模擬戦を――――」
よくわからない交流戦とやらに参加する方向で話を進める2人に抗議するが無視され、今後の予定が組まれていく。なんかチームもこのままいくつもりみたいだし、こいつらが何をしたいのかがわからない。
「なあ」
「ここでチームを解散すれば、この子と戦う機会が今後あるかはわからないよ?」
「……いや、今後いくらでも時間は」
「3年だ。3年だけだぞ。それに狙った相手と戦えるタイミングなぞ、あるとすれば季節のイベント戦ぐらいであろう」
「むう」
「この子がランク戦を始めれば、あっという間に実力とレートが突き放されるだろうね。で、基本的に大会も試合もランク毎に分けられるから」
「……」
「天命に任せるよりは、今が一番可能性があるだろうな」
「……はぁ」
「で、どうする?」
「我はやるやらないどっちでもいいが、お主は?」
「……やる」
答えを聞いた2人は、やれやれと言わんばかりに少し笑っていた。




