3話 模擬戦はやない?
「やあ」
「ああ。エイジさん」
このチームでとりあえず動く。そう覚悟を決めた時、話しかけてくる人物がいた。
「む。エイジ?」
「あん? あー、クラスメイトの」
「工藤エイジ。エイジでいいよ。よろしくな。貫打さん。リューガも」
「ああ、こっちもシュウジでいい。よろしくエイジ。で、ユウトに何か用か? なら今日は一旦解散か」
「ふむ……まあ、また今度でよかろう」
片手を上げながら近寄ってきたクラスメイト、エイジの足が向かう先はユウトだ。それを見てオレとリューガは腰を上げようとする。
「ああ大丈夫。2人も関係ある話だよ」
「オレたち?」
「む?」
「あの話し、考えてくれたかい?」
「ええ。こっちも願ったりな話です」
「なんのことだ?」
「さっき言いかけたんだけど、それはね」
ユウトが剣を取り出しクラスメイト、エイジに切っ先を向ける。それに呼応するようにあちらも剣を取り出し、互いの武器を交差させる。
「チーム名まだ名無し、模擬戦を申請する!」
「チーム”ゆるゆる”、その模擬戦うけて立つ!」
[申請を受理しました。これよりバトルフィールドに転移します]
「は?」
一瞬の暗転。気づけばオレたちは大小様々なビルが乱立し、空中に伸びる道が複雑に絡み合う近未来都市のような場所の一角に立っていた。
「はああああああああ!?」
「元気だね」
「ふっ。少しは落ち着くのだな」
「落ち着いてられっか! 急すぎんだろ!」
傍らに現れたゲットオーバーに急いで跨る。頭が追いつかないが、やるならやるしかない。
[カウントダウンを開始します]
隣に流線型なフォルムが特徴的な、一人乗りサイズの青いオープンカーに乗ったユウトが並ぶ。
「でも、やると決めたでしょ?」
「まず練習とかあるだろうがよ!」
[3]
反対側には対照的に鋭角的な、角張ったデザインの目立つ暗い赤色のホバーボードに乗ったリューガが並ぶ。
「模擬戦だから練習と変わらんだろう?」
「だとしてもだ!」
「大丈夫。何も考えなしにやってるわけじゃない」
[2]
胡乱なことを言うユウトに目を向けた。
「初戦で戦ったのは2年の先輩たちだったでしょ? ランクが最低の、いわゆる初心者帯にいたとはいえ、ランク戦に参加したことがなかっただけでイベントとかは何回かやったことある人たちだよ。たぶん」
「戦い方が熟れてる感はあった。ならばおそらくそうであろう」
「……だから?」
[1]
エンジンボタンに指をかける。いつでもスタートできるようにしながら言葉の続きを促した
「今回の相手は完全に初心者だよ。俺たちと同時期に始めた、ね」
「……つまり?」
「つまりは――――同条件で負ける理由は、ない!」
ぶちっ
「理由に、なってねえええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!」
[START]
ボタンを押し込む。唸るエンジンが爆音と共にスタートダッシュを決めた。
爆発した感情のまま道路に設置されてる小さい三角形の形をしたジャンプ台に突っ込む。
「らあっ!」
ギャギャギャギャッ!
勢いのまま跳ね上がった車輪をビルの壁面に叩きつけ、走る。壁面を。そのまま一気に駆け上がり、屋上へ飛び出た。
周囲を見渡す。
「あった!」
見つけたのは機械的な鉄塔のような見た目をしたタワーだ。
「2時の方向にタワー! よっと」
確認が終わったので地面に降りる。その時に空中で後ろに宙返り、バックフリップするのを忘れない。
[テクニカルポイント DE+100]
「しゃらあ! くそがっ!」
「荒れつつも仕事を忘れない。さすがだと言おう」
「これはどっちかってーと小回りが利くホバーの仕事だぞリューガぁ!」
「ふっ愚かな。既存の枠組みに囚われては、新たな発展はない!」
「カッコつけてんじゃねえよ!」
話してる間にもジャンプ台で細かくジャンプしたりレールに乗っての走行を繰り返す。
[DE+20]
「てかさっきから表示されてるこれなんだ!?」
「模擬戦開始前に設定できたDEの加算量を可視化する機能。ONにしといたよ。邪魔なら個人でOFFにしといて」
どうやら変形、ライゼするのに必要なエネルギーの加算される様子が見えているらしい。視界の端にぴょこぴょこ出てくるため非常にうっとおしいが、明確な数字でわかるのは確かに便利だ。それはそれとして気が散るのでOFFにする。
「っっっっはあああああああ、で、どーすんだ?」
「お? 落ち着いた?」
「冷静さを見失うとは、戦う者として情けないぞ」
「っせ。で、前回はタワーに陣取ろうとして不意打ちを受けただろ。今回もそーすんのか?」
曲がり角をドリフトしながら抜けるとタワーの全体が見えてくる。目立たせるためか全体に薄いベールのような光を纏うそれに、このまま走ればすぐたどり着くだろう。
「そのつもりだよ」
「ふむ。それでは二の舞いになる可能性があるのではないか?」
「かもね」
「かもねって、お前なー」
「だが、タワーの占領報酬は欲しいのは違いないな」
「そう。リスクがあっても無視はできないんだ」
「あー、わーったよ。なら」
進路を少し変え、道路の両脇に壁のようにそびえ立つマンションのような建物に向かってジャンプ台を利用し、屋上に着地する。
「今回はオレが索敵する。リューガはタワーの近くでユウトのカバーを」
「いや、リューガには頼みたいことがあるんだよね」
「あん?」
「ふむ?」
「あそこから――」
作戦の説明を受ける。その内容にオレは呆れ、リューガは、
「ふっ。俺好みの作戦だ。その役割、完璧に遂行してみせよう!」
やたらと張り切っていた。
「不安だ……」
離れていく背中に漏れ出た声が届くことはなく、空中に溶けて消える。
今日も空は青かった。
◇ ◆ ◇ ◆
『タワー占領ゲージ、順調に上昇中。そっちは大丈夫?』
「ああ、こっちのシャトルランもまあ順調、だな」
『ふっ』
端のほうに設置してあるジャンプ台を利用して、綺麗な弧を描きながら隣の建物の屋上へ飛び移る。回転、捻り、ハンドルから手離し、振り回し。空中で可能な限りのテクニックを詰め込んだジャンプを繰り返す。何度も。2つのマンションの間を往復する。
「……なかなかのスリルだな、これ」
手が震えそうだ。なにせそこまで高くないものを選んだとはいえ建物の上。おおよそ3階ほどの高さでチラチラと地面を視界に入れながら、1つ間違えれば落下しそうなことをしているのだ。それも何回も。落ちたところで痛くないとしても恐怖はある。
「これ、あと何回やりゃいいんだ……?」
『敵が来るまでだね』
「これほど戦いが恋しいと思ったことはないな……」
『ふっ。ついに己の中の闘争心に気づいたか』
「そういう意味じゃねーんだわ」
屋上から屋上へ。
行って戻ってまた行って。
傍から見たらタワーの周りにもいないで何やってんだろうと思われることは必至だ。
「で、ユウトがさっき言ってたことについてなんだが」
『何か分からないことあった?』
「いや、内容自体は単純だから問題ねー。でも敵の動き方をほぼ断定してたろ? どうやってわかったんだ?」
『ふむ。我も気になっていた。敵が一度も見えておらぬのによくわかるなと』
『ああ、それは勘で――』
「勘で言っただけとか言って適当に誤魔化そうとするなよ?」
『何か判断材料はあるのだろう?』
『……外したら恥ずかしくない?』
「いいからはよ言え」
少しの沈黙。しかしすぐに観念したのか語りだした。
『まず今回は模擬戦用の短期ルール。タワーが1つ、チーム数は自分たちと相手の2チームのみ』
「そうなのか」
『となるとタワー占領報酬の占める割合は大きい。DE獲得、ダメージを一定値肩代わりするシールド、移動速度の一時的な上昇』
『うむ』
『タワーを無視する理由がないから必然的に取れる戦法は少ない。俺たちみたいに真っすぐタワーに向かって即占領に走るか、後から来て占領中で動けないところを攻撃するか。基本的にはこの2つ』
「少ないな」
『なんでもいいからさっさと殴り合いして決着つけようぜってルールだからね』
ここまではわかる。ルールについては初耳だったけど。タワー2本目探そうと考えてたし。
『で、問題は敵の姿も形も、乗り物が吐き出す音さえないこと』
『……まだ距離があるのでないか?』
『占領始めて数分経ってるのに?』
「遅いな。明確に」
『遭遇戦を警戒して慎重に進んでるにしても、だ。ならあとは説明した通り』
『やってるのは様子見。そして占領しきる少し前にタワーにいるユウトを集中狙いして落とし、横取りか』
『そういうこと』
「は〜……あ、音がしないのは?」
『たぶんタワー見えた段階で乗り物から降りて歩いて近寄ってきてるんじゃない?』
「なるほどなー」
周囲を改めて見渡す。タワー周辺には何も壁になるものがなく見晴らしがいい。となると、敵が隠れて様子見するとしたらオレがいるラインの、ビルやマンションなんかの建物の影に隠れていることだろう。
「でもそれならオレとか外周にいて孤立してるし、狙われる可能性あるくね?」
『そのためのリューガ。ちゃんと隠れてる?』
『ふっ……めっちゃ周囲見渡したい。空眺めるのつまらん』
『やめてね』
「うーん?」
『ああ、敵視点1人見えない状態でしょ? ならシュウジの近くに隠れてる可能性がある。で、俺は車型、ガンも大きさの関係で変形する前から見えてる。遠距離の援護ができることがわかるよね。なら狙いやすいのは』
「確定で孤立してるユウト、か」
『そういうこと』
「それでもユウトが有効な射程範囲に入るまで人数有利な状況で戦う選択も――」
『待った。たぶんそろそろくる』
「おん?」
『今一瞬光の反射が見えた気がする。レーダー使うよ』
「OK」
『わかった』
ユウトがタワーの機能の一つ、レーダーを使用する。するとマップにタワーを中心としてどっちの方向に敵がいるかが数秒表示された。そしてそれは見事に3方向へ矢印が伸びている。
『うん。やっぱさっきのそうっぽいね。1番高いビルの影に1人』
「あー、おっけ見えた。タワーから見て8時の方向のマンション、階段のとこに1人いる」
『わからん!』
『あと1人は、方向的にシュウジの近くかな?』
「だなあ。たぶん下にいるんじゃねえかな」
『気をつけてね。シュウジは遠目に見えてたはずだから、わざわざ近寄ってきてるってことはなんか仕掛けてくる可能性が高い』
「はいはい」
『この世は無情……』
ジャンプをやめてマンション周りを見下ろす。当然目に入る範囲にはいない。
『もうゲージの進捗も9割、そろそろ来『来るか!?』……暇なのは分かるけどさあ』
『なんだっていい、敵と戦うチャンスだ!』
「おー、がんばれー」
『気合を入れるぞ! えい、えい!』
割と嫌いなノリにげんなりとする。しかし乗らないと後で文句言われそうだなと思い軽く片手を上げた。
『おー!』
『おー』
「お」
ドガアアアアン!
「ぉああああああああ!?」
足元が爆発した。
瓦礫が舞う。
煙が吹き上がる。
そして――。
それが開戦の狼煙だった。
ここまで書きました。あとは反応があったら続き書くかなあといった感じです




