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1話 終わりの始まり

「ふああ……んむ」


 欠伸が漏れ出るのを止めることなく、建物の中をスタスタと歩く。

 視界に入るのは狭い間隔で扉がずらっと並んでいる通路。その内1つの扉にカードを掲げると、ロックが解除された。

 扉を開け中に入る。部屋の中は非常に簡素なもの。


 ベッド


 小さなテーブル


 ハンガー


 それだけだった。


 バッグをテーブルに放り投げる。


「っしょ」


 着ていた服を脱ぎバッグにしまい、代わりの物を取り出す。


 ゴムのような伸縮する素材で身体に密着するようにできており、手首足首まで覆う長さの服。ダイバースーツのような物。


「よし」


 それに着替え、ベットの横から伸びるケーブルをスーツに何箇所か付いてる出っ張りに差し込むと体にピリッと静電気ほどの電流が体に走る。


「っ安物だからかなあ……」


 思わず零れるため息。これに慣れる日はくるのだろうかと頭の隅で考えながらも準備が完了する。


 息を吸って、吐いて、眼を閉じ言葉を紡いだ。


「ダイブ・イン」


[起動を確認しました。使用者……貫打(かんだ)シュウジ]


[ユーザーデータが一致しました。間もなく開始します]


[Dive in]


 闇の中、光が走る。


 浮遊感。


 次の瞬間には身体が落下していた。


 深く。


 どこまでも深く沈んでいく。


 けれど不思議と恐怖はない。


 ぼんやりと待っていると、気づけば自分は学校の校門前に立っていた。


[学園サーバーにログインしました]


「ふぅ」


 相変わらず慣れないな、と思い着ている制服の襟を正すように引っ張る。先ほどまで着ていたモノとは似ても似つかない紺色の高校の制服。鏡でも見れば、現実の自分とほとんど変わらない姿がそこには映るのだろう。


 そのことに少しだけ苦笑し、前を向く。


「堅実!」「ロマン!」


「「さあ、どっち!?」」


「……朝っぱらからなーにやってんの。ユウト。リューガ」


 そこには剣とドリルを持った馬鹿どもがいた。






◇  ◆  ◇  ◆






「――――ということで。この時のスペイン帝国は”太陽の沈まぬ国”と呼ばれているのだ。ところで、なぜそう呼ばれてたかわかるかな? 出席番号3番!」

「え? あー」

「ヒントはあまりにも広大なこの領地の広さ!」

「うーん」

「ふむ……なら、ライトアップ!」


 突如、教室が真っ暗になる。そして教室の中心に現れたのは空中に浮かぶ巨大な地球儀。そして、太陽――の中心に先ほどまで教鞭を振るっていた先生の顔が浮かんでいた。


「「「「「ぶっ!」」」」」


「ふはははは! 私は世界をあまねく照らすRising of the sun。太陽になりて!」


 太陽先生が公転なんて知ったことかと言わんばかりに縦横無尽に飛び回る。その姿にほとんどの生徒が肩を震わせる。


 しかし笑うわけにはいけない。授業中なのだから。


「さあ、ここの赤くなってる部分がその時のスペイン帝国だ! 何か気づくことはあるかな?」


 太陽から伸びた光の手が地球儀をバンバンと叩く。そして地球を投げるように手放すと、それは先生の周りをくるくると周る。


 昼と夜。その移り変わりが実にわかりやすい。


「えーと、あ、あー……どこかが夜でも、どこかは昼だから?」

「正解! そう、つまり国土のどこかでは必ず太陽が見えるほど広大な領地を持ち繁栄していることを指すのだ! ちなみに歴史上そう呼ばれたのはこのスペイン帝国と、後はイギリス帝国だな! イギリスに関しては後々」


 回答に満足したのか地球儀は消え、先生は人の姿に戻り、黒板のように設置されたボードに向き直る。


「さて。スペイン帝国がここまで繁栄した理由は既に説明した通りだ。ではなぜここまでの大国が衰退したかを――」



キーンコーンカーンコーン



「むむっ、時間か。終わらせたかったが仕方あるまい。次回のお楽しみに! では、アデュー!」


 先生はそう言うと、カッと光りを放つ。次の瞬間。


 ボンッ!


 小さな爆発と共に先生の姿が消えていた。


「はあ。あの先生もなかなかふざけている。しかし文句を言う前にいなくなってしまった」

「我は好きだぞ。ライズィングオブディサン、だったか? 必殺技の名にするのもありかもしれぬ」

「Rising of the sunな。意味は……日の出だってよ」


 ようやく今日の最後の授業が終わり机の上でダレてると、集まってきた2人とさっきの授業について話す。とはいえすでに何度かの授業を経て慣れたもので、話題はすぐに別のものへ。


「あ。で、どっちにするんだ?」

「無論、心は決まっておるな?」

「朝のだろ? まず意味わかってねーのよ」


 教室の中にも関わらず、手元に光の集まるエフェクトと共に剣とドリルを取り出し机にごとりと置かれる。その異様な光景に周囲の人間はチラリと見ることはあっても何も言うことはなく、まるで日常の風景と言わんばかりにいつも通りだった。


「なに。考えていたんだ。昨日の戦いの敗因」

「我もだ」

「ああ、昨日の」


 そう言って思い出すのは、練習をした上で挑んだ昨日の戦いのことだ。


「初戦と言えど、さすがにボロ負けだったなって」

「うむ。我の考えた技が使えなかったのは非常に不服である」

「まあ、いいんじゃねーの? これからよこれから。まずは数こなしてから考えようぜ」


 初戦。そう昨日行ったのは初めての戦闘であり、その結果があれだった。最初に不意打ちを受け、カバーしようとしたが初動が遅れ、残った1人でひっくり返そうとしたが順当に返り討ちにされた。そんな試合。


「もっと対人に入る前に練習するべきだったのか?」

「しかしあれ以上決めポーズの動きを早くしてしまうとポーズとして成立しなくなってしまう。それは許容できん」

「ゆーて練習モードで触れる武器は一通り触ってみたし、やっぱ実戦やったほうがいいと思うが。で結局、朝のはどういう意味なんだ?」

「それはもちろん」


 ユウトが剣を手に持ち掲げ、それに呼応するようにリューガがドリルのほうを手に持ち掲げる。


「堅実か!」「ロマンか!」

「「さあどっち!?」」

「だから説明しろってんだよ馬鹿どもがよぉ!」


 さすがに堪忍袋の緒が切れて叫んだ。ダメだ。聞いても碌な返事が返ってこない。こっちから探りを入れて理解するしかないのか。そう思い、頭に思い浮かんだことを聞く。


「あー、つまりは戦法の話し?」

「それもあるね」

「……武器を別のに変えようとか?」

「うむ。それもある」

「馬鹿にしてる?」

「「いやいやいや」」


 オレをからかうためにやってるのではないかと思ってしまうほど息ぴったりに要領を得ない返事を聞かされ、思わず頭を抱える。こういう時に痛覚が制限されている世界なのが少しもどかしい。現実なら肩パンくらいはしていた。


「まあようするにね。昨日負けたのはそれぞれやりたいように動いたからだと思うんだよ」

「あー、まあ、そうか?」

「うむ。ユウトは攻略サイト通りに動こうとして孤立し、我はとりあえず戦いたいから敵探しを優先し、シュウジはボケーっとしていた」

「ボケーっとしていたて」


 いや、事実だけど。どう動けばいいかわからなかったから、とりあえず周囲警戒するために見渡してたけど。とはいえ積極的に動いてなかったのは間違いないため口を噤む。


「だから予め行動指針を決めておこうという考えだね。調べればいくらでも先人の知恵があるんだし、俺はまず先人の戦略、戦法を知り、覚え、それを行えるようにするべきだと思う」

「そんなのはつまらぬな。オンリーワンこそがロマン。薄っぺらな頭でっかちなど風吹けばすぐに折れてしまうだろう。自ら考え実行するのだ。我々は人間ゆえ、な」

「あー」


 それぞれの言いたいことを咀嚼し考える。ようするにこいつらが主張したいことは。


「ユウトは攻略サイトに載ってる通りの動きがしたくて」

「うん」

「リューガはそれよりも自分で考えたやり方で戦いたいと」

「うむ」

「なるほど。なるほどなるほど」


 それからも2人が話し合いという名の自分のやりたい事を押し通そうと相手に主義主張を押しつけ合うのを聞きながらオレは考える。どうすればいいか。しかしこうなったら答えは1つしかない。


 机を叩く。2人が話すのをやめこっちを見て、ついでに教室も一瞬静まり返る。


 息を吸い、思い切って宣言した。


「オレたち”チーム名を記入してください”チームは、本日をもって解散する!」

「はぁ!?」

「ぬう!?」


 音楽性の違いによる解散の宣言だった。

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