真夜中の来客
その日は春の遅番だった。救急車が続くと、帰りが遅くなることがある。その日も午後十一時を過ぎても、まだ帰ってこなかった。
幸一はスマートフォンを手に取り、「まだ終わりそうにない?」とメッセージを送った。
しばらくすると返信が届く。
『ごめん。もうちょっと遅くなりそう。先に寝てて。』
「お疲れさま。」
幸一は小さくつぶやくと、スマートフォンを置いた。
布団へ入ると、幸一はすぐに眠ってしまった。
仕事を終えた春が帰ってきたことにも気付かないほどだった。
――ガラッ。
寝室の扉が勢いよく開いた。
「ごめん! 起きて!」
幸一は重たいまぶたをゆっくり開けた。
立っていたのは春だった。
普段なら、寝ている幸一を起こすことなどまずない。
「どうした?」
時計を見ると、午前一時半を回っている。
「こんな時間に……何かあった?」
眠い目をこすりながら尋ねると、春は興奮した様子で言った。
「クワガタだと思うんだけど……玄関の前にいるから、捕まえてくれない?」
「えっ?」
幸一はまだ状況が飲み込めないまま、春のあとについて玄関へ向かった。
「私、虫好きじゃないのに、なんでいつも見つけちゃうんだろう。」
春は苦笑いした。
「最初は動かなかったから、死んでるのかなって思ったの。」
「うん。」
「でも、近づいたら急に歩き出してびっくりして。」
玄関のドアを開けると、外廊下の隅を小さな黒い虫が手足紙をばたつかせてひっくり返っていた。
「本当だ。」
幸一はしゃがみ込んだ。
「コクワガタかな。」
春は急いで虫かごを持ってきた。
幸一は逃げられないよう、そっと両手で包み込む。
「よかった。」
春は胸をなで下ろした。
幸一はそのまま虫かごの中へコクワガタを入れた。
「明日、翔太に見せたら逃がしてあげてね。」
「そうだな。」
幸一は大きなあくびをした。
もう眠気には勝てそうもない。
「ごめん。あとはお願い。」
「うん。おやすみ。」
幸一は春に虫かごを預けると、そのまま寝室へ戻った。
布団に入った途端、意識はすっと眠りの中へ沈んでいった。




