第9話 酒蔵姫の好き放題
10年前。
天山剣道場に、主氏姫が通うことが決まった。
その際、門下生は、逸見以外、他の道場に移った。
門下生は、逸見と主氏姫。二人だけ。
剣道場は、お城の援助を受けるようになった。
「この道場に、俺も残っていいのか?」
逸見、6歳。主氏姫、6歳。
「オレと友達になる約束しただろ。だからおめえは、ずっと一緒だからな」
「ずっと…?」
「そう、ずっとだぜ」
主氏姫は、ニヤニヤ笑う。
逸見は、困惑した表情を浮かべる。
コイツ、本当にお姫さまなのか?
男言葉でしゃべってる。
でも…。友達だと言ってくれてる。
友達は、いいな。
「オレのことは、主氏って、呼び捨てでいいぜ」
「え?いいのか?」
「おうよ。お前は、逸見って名前なんだろ」
「そうだけど」
「じゃあ、逸見な。オレのことを呼べよ」
「え、えっと。…主氏?」
「おう。逸見。ずっと友達だぜ」
「う、うん。友達か。わかった」
逸見と主氏姫は、友達になったのだった。
第9話 酒蔵姫の好き放題
聖水城警備団。牢屋。
「この後、どうなるんだ?」
逸見が聞く。師匠とカッパは、答えない。
主氏の結婚。
だから、何でだよ。
まだまだ、子供だぞ。若いんだ。
何で、結婚の話がはじまったんだ。
「主氏は、俺の友達だ。ずっと友達だって約束したんだ」
いつだったかは、忘れた。
でも、ずっと友達だって約束した。
助ける。助ける。
「…行くか。逸見」
「行くっパ?」
天山師匠とカッパが、逸見を見つめる。
「…行くなら、手伝うぞ」
牢屋の兵が言った。
カチャカチャと、カギを開けてくれる。
「“上”は、何ていうか知らないが、手伝うぞ」
「おれもだ」
「行こうか」
兵が、次々と降りてくる。
全員、今を、疑問に思っている。
団結だ。
牢屋から出る逸見。師匠。カッパ。
「お、俺一人じゃ、絶対、無理だけど…」
大人たちが、力を貸してくれる。
主氏を助けることは、間違いじゃない。
アイツは、結婚なんかしたくないはずだ。
青若丸が嫌いって言ってた。
よし、行くぞ。
怖いけど。
牢屋。外。
「逸見ーーーーー!」
だきっ
綺麗な着物の女の娘が、逸見に向かって抱きついた。
誰…じゃない。
主氏だ。酒蔵姫だ。
「オレのこと、警備団が助けてくれたんだよ」
主氏が、逸見に抱きついて、力を込める。
「おめえも、オレのこと助けようとしてくれたんだよな」
「お、俺は、何もしてない。弱いし、怖いし…」
逸見は、そういいながら、身体が緊張している。
手はガタガタと震えていた。
結局、何もしていない。
でも、綺麗な着物を着た主氏は、良い匂いがする。
見つめてしまう。
「オレ、逸見のこと好きなんだぜ」
抱きつきながら、主氏が恥じらった。
「え、ええ?何言ってるんだよ」
「そうだな。ずっと、青若丸を遠ざけてえから。オレ考えたんだ」
「?」
「オレ、おめえと婚約するぜ」
主氏は、ニヤニヤ笑う。
次の日。
聖水城で、主氏姫と青若丸の結婚が、白紙に戻った。
代わりに剣道場の門下生仲間の逸見との“婚約”が内定した。
逸見と主氏は、書類上の“婚約者”となったのである。




