第10話 精霊酒で乾杯
聖水の都。
都新聞の号外が飛び交った。
[酒蔵姫さま、結婚相手変更。庶民と婚約する]
これには都の庶民が大混乱した。
「え?ご結婚で婚約で…」
「結婚相手が変わったのか…?」
全員、酒に酔ったかのように、頭がフラフラ。
聖水城。
「主氏姫め。ワタクシのお気に入りの青若丸ちゃまとの結婚を破棄するだなんて、許せないわ」
姉の印主大姫が、怒っていた。
「印主お姉さま〜」
青若丸は、印主大姫の名を呼ぶ。
「この、逸見とかって、庶民は、何者なの」
枯枝そば屋の息子。
天山剣道場の門下生仲間。
情報は、そんな感じである。
「印主大姫。お城を好き勝手にしすぎじゃぞ」
城主の聖水二十殿下が、長女に注意する。
「主氏姫の恋くらい自由で良い」
「父上。主氏姫は、自由すぎるわ」
「自由じゃよ。精霊酒が導く出会いをした酒蔵姫じゃ」
精霊酒で、生きる女の娘。
好きな男の子にも出会えた女の娘。
第10話 精霊酒で乾杯
精霊酒。
水の精霊カッパの作った。不思議な酒。
万病に効く酒。
1日1杯飲むだけで、病気は、遠ざかる。
このおかげで、主氏姫は、酒蔵姫と呼ばれている。
精霊酒のおかげで、逸見に会えた。
天山剣道場。
「精神統一、はじめ!」
天山師匠の大声が響き渡る。
「よし」
「おう」
逸見と主氏は、背筋を伸ばして気合いを入れる。
その様子を、カッパが見ている。
精霊酒の大量生産を目指して木凜酒造所で薬の精霊アムリタとダイダラボッチが、働いている。
他の都にも、精霊酒が届くように。
精霊酒の酒蔵は、厳重な警備のもと、守られている。
今まで、働きづめだったカッパ。
ヒマをもらって、剣道場の見学によく来るようになった。
カッパは、天山師匠と酒を飲むのが楽しいらしい。
「新しい万人健康用の精霊酒を、作ったっパ」
「そうか。子供でも飲めるのか」
「飲めるっパ」
ちょうど、持ってきているらしい。
天山師匠の誘いで、逸見と主氏も加えて、休憩を取ることになった。
道場の隣りにある。天山師匠の家。
居間でちゃぶ台を中心に、休む。
「これは、皆んなで飲める。酔わない精霊酒だっパ」
カッパが、精霊酒を振る舞う。
「酔わないのなら、逸見も主氏も飲めるだろう」
天山師匠が、精霊酒の入った酒坏を見る。
「酔わないなら。いいや」
逸見も、酒坏を見つめる。水みたいに見える。
「逸見。おめえ、酔ったら困るのかよ」
主氏は、酒坏をなめてみる。味がうすい。
水みたいだ。
でも、お酒感がある。
「乾杯!」
皆んなで、酒坏をかかげた。
逸見と主氏は、不意に目が合う。
婚約…を、思い出す。
「お、俺は、弱いし。婚約なんかできないぞ」
本心だ。
「…何でだよ」
「だから、弱いからだよ」
逸見は、泣きじゃくったことを思い出す。
まだまだ弱い。
女の娘を守るより、守られている。
この前の騒ぎも大人たちが助けたんだ。
自分は弱いんだ…。
しかし、婚約者となった逸見と主氏。
今までと変わらず…というワケでは無いだろう。
「逸見は、いずれ、聖水城の城主になるかもしれないっパ」
「じょ、城主っ…?」
言葉を失う逸見。
「すげえな。おめえが殿様だなんてよ」
「と、殿様になるのか?」
「カッパっパっパ」
カッパは、大笑いしている。
「あのさ。オレ、本当に、本当は、逸見のこと好きっていうか。愛してるんだぜ」
主氏は、逸見に抱きつく。
「このまま、結婚しようぜ」
「え?ええ?」
「嫌なのかよ」
あの男勝りの主氏が、恥じらっている。
「ああ、そうか!わかったぞ」
逸見は、思いついた。
「主氏。お前、酔っぱらったんだろ。酒蔵姫だもんな」
うなづく。
「おめえ…バカ!バカ!バカだ!」
主氏は、逸見を思いっきり、突き飛ばした。
暁の桃源郷。
聖水の都。
ここには、どんな奇病も治す精霊酒がある。
1日1杯飲むだけで治る。
酒を飲み続ける病気の姫は、酒蔵姫と呼ばれた。
病気が治る酒なんて無いだろう。
でも、いつかは、有るのかもしれない。
酒のおかげで知り合う。出会いもあるかもしれない。




