第5話 酒蔵姫の病気
10年前。
聖水の都のお姫さまが、病気になった。
不治の病だ。
お姫さまの病気に、偉い人は動く。
精霊酒が、作られた。
お姫さまの病気は、治った。
でも、庶民の不治の病は?
逸見の父親が病気で倒れた。
かかりつけ医以外、誰も動いてくれない。
「親父が…親父が…」
6歳の逸見は、ずっと泣いていた。
「ちくしょう…!ちくしょう…!」
「おめえ、酒蔵姫が嫌いなのか」
剣道場で、泣きながら木刀を振るっていると知らない男の子に話しかけられた。
「大嫌いだっ…!」
金持ちは、ムカつく。
すぐ、自分たちだけ助かる。
庶民の父親の病気は、治すために誰も動いてくれない。
「オレが、何とかするよ。…だからさ」
「何だよ」
「友達になろうぜ」
男の子の正体は、酒蔵姫の主氏だった。
剣道場に通うのが夢だったらしい。
男の子みたいに、強くなりたいらしい。
変わったお姫さまだ。
後日、逸見の父親の元に、精霊酒が届く。
庶民にも、精霊酒が買えるようになったのだ。
高かったけど。
第5話 酒蔵姫の病気
ヒジリ山。アムリタの山小屋。
カッパが、急ごしらえで作った精霊酒を1杯飲ませると主氏の熱は、すぐに下がった。
「おう。治ったぜ。カッパ」
主氏は、逸見を見る。
「おめえは、親父さんのことの方が心配なんだろ」
「お、親父…。大丈夫かな」
逸見はハッとする。
10年前。主氏姫と同時期に病気で倒れた父親。
はやく戻って、精霊酒を飲ませてやらなければ危ない。
カッパに、アムリタに、精霊酒作りを頼み込む。
「なら、この泥人形を使うです」
タンスから、木箱を取り出したアムリタ。
その中に、小さな泥人形が入っている。
“人形ダイダラボッチ”。
アムリタが作った、霊人形。
アムリタは自作の人形にダイダラボッチという名前をつけていた。
これは、人間の大人ほどの大きさになるという。
「これが、ダイダラボッチだっパ?」
「そうです。精霊酒なんて盗まないです」
アムリタは、イラ立つ。
ダイダラボッチは、アムリタの作った人形だった。
聖水の都の酒蔵から、精霊酒を盗んだ犯人は誰なのか。
考えてもわからない。
とにかく、精霊酒を待つ人間のために、霊薬を持って帰ることになった。
風呂敷に包んで、カッパが背負う。
天山師匠も背負う。
逸見も背負う。
主氏も背負う。
「お、おい。主氏。大丈夫か?」
「うるせえな。大丈夫だよ」
「ダイダラボッチを使うです」
アムリタが、泥人形に手をふれると、水の霊力が満たされていく。
泥人形は、どんどん大きく、大人の背丈になる。
ダイダラボッチも、風呂敷を背負う。
アムリタも背負う。
皆んなで、帰路についた。
「ダイダラボッチって、山みたいにデカいって聞いてたけど。意外と小さいな」
「確かに、小せえな」
逸見と主氏が、ジロジロ見ていると。
「いいや。普通の大きさダべ」
ダイダラボッチがしゃべった。
「しゃ、しゃべったっ…!」
「げげっ…!」
二人そろって驚く。
「ダイダラボッチは、泥人形ですが、品行方正なのです」
「作り手が、アムリタさんだからダべ」
しゃべるダイダラボッチと聖水の都に帰る。




