第4話 精霊アムリタ
ヒジリ山。
「暴れイノシシは、追いはらったな」
天山師匠は、言う。
逸見は、何もできなかった。怖くて、動けなかった。
くやしい。
本当に、弱いんだ。
何だ。俺って。
「逸見。木刀を構えただけで、上等だ」
「天山師匠。俺、何もできない…」
自信が、どんどんなくなる。
「暴れイノシシは、相手が悪いぜ。オレもビビった」
男言葉の主氏が、肩をすくめる。
「ビビったっパ〜」
カッパも怖かったらしい。
山登りを再開。
神酒の川。近くの山小屋。
薬の精霊アムリタの住む家にたどり着く。
コンコン。
山小屋の扉をたたく。
「アムリタ〜。いるっパ〜?」
カッパが、声がけをする。
逸見たちは、黙って見守る。
ガチャッっ…。
「何事ですか?」
背の低い女の娘が、顔をのぞかせる。
アムリタだ。
第4話 精霊アムリタ
薬の精霊アムリタ。
水色の長い髪の女の娘。
「水の精霊カッパだっパ」
「ああ、カッパさんですか?」
こんな山小屋に、何の用事かと不思議がるアムリタ。
事情を説明することにする。
精霊酒を作るため、“霊薬”がほしい。
聖水の都の酒蔵から、精霊酒が消えた。
目撃情報によると、犯人は、山妖怪ダイダラボッチ。
精霊酒は、1日1杯飲まなくてはいけない。
病気持ちの人間の特効薬。
再び、作るために、アムリタの持つ“霊薬”がほしい。
「霊薬を分けてほしいっパ」
「嫌です」
精霊アムリタは、そっぽを向く。
何か、不機嫌そうだ。
何故、不機嫌なのか聞くと、山妖怪ダイダラボッチの悪口を言うのが気に入らないらしい。
「ダイダラボッチさんは、良い方です」
アムリタは、ダイダラボッチのことが、好きらしい。
聖水の都のものを盗むような方じゃないらしい。
「ダイダラボッチさんの悪口を撤回するです」
不機嫌なアムリタ。
「とにかく、精霊酒が無くなったのは、大変なんだっパ」
霊薬を分けてほしいと、カッパは頼み込む。
それには、アムリタも理解を示す。
必要な人のところに、薬はいかなくてはいけない。
「霊薬は、神酒の川から、作れるです」
大きなひょうたんを小屋の中から持ってくる。
アムリタから、霊薬入りのひょうたんを受け取るカッパ。
これで、精霊酒を作れば、主氏や、逸見の父親たちの病気を遠くできる。
「良かったな。主氏」
「…」
逸見が、話しかけると、主氏の様子がおかしい。
何も言わず、ボーッと虚空を見ている。
「主氏…!」
肩をささえる。
熱があるのが伝わる。
「大変だっパ!主氏姫!」
カッパも駆け寄る。
「山小屋の中へ。たたみの上に横にさせるです」
アムリタが、手招きする。
主氏が、発熱で倒れてしまった。
山小屋のたたみの上で横になっている。
「精霊酒は、無いのかよ!」
逸見は、声の限りに叫んだ。
カッパは、もらった霊薬と合わせて、1杯分をいそいで用意するという。
もう、嫌だ。
何で病気なんてこの世にあるんだ。
主氏が悪いことでもしたのか。
都の親父は、大丈夫か。
逸見は、ぐちゃぐちゃに泣いていた。
「…泣くんじゃねえよ…逸見」
熱がある中、主氏が手を伸ばす。
この男の子は、すぐ泣く。
すぐ弱気になる。
ほっておけないバカ野郎なのだ。




