第2話 1日1杯の酒
聖水の都。木凜酒蔵。
“ダイダラボッチが精霊酒を飲んでしまった”。
酒蔵の働き手の目撃情報で、聖水の都は大騒ぎ。
精霊酒が、消えてしまった。
精霊酒を1日1杯飲んで、奇病を治していた者は、病気に逆戻り。
酒蔵姫さまも、奇病に逆戻り。
ダイダラボッチを退治しろ。
聖水の都の人間は、口々に言ったのだった。
天山剣道場。
「精神統一、はじめ!」
天山一龍斎。
逸見と主氏の師匠。
熱血なイケメン。生真面目すぎる、一直線な人物だ。
「あ、あの…」
「精神統一しろ!逸見!」
剣道場に、天山師匠の声が響き渡る。
「おめえ、本当に集中力もねえのかよ」
主氏が、あきれた顔で言う。
「主氏。お、お前、大丈夫なのか?」
逸見は、心配して駆け寄る。
主氏は、幼い頃から、不治の病にかかっている酒蔵姫だ。
1日1杯の精霊酒を飲まなくては、病気に倒れる。
「1日くらい大丈夫だぜ?」
「ほ、本当か?親父のことも、主氏のことも心配なんだ」
「おめえ、本当に弱気だよな。昔からよ」
主氏は、言うだけ言って、精神統一に戻る。
「主氏だって、酒蔵姫だろ」
心配を続ける逸見。
第2話 1日1杯の酒
酒蔵姫。
幼い頃からの不治の病にかかっている主氏のこと。
精霊酒を、1日1杯飲まなくてはいけないお姫さま。
「道場の掃除は、俺がやるから、休んでくれよ」
逸見は、主氏から、ホウキを取り上げる。
道場外の、枯れ葉のはき掃除だ。
天山師匠は、ヒマさえあれば精神統一をしていて、話しかけづらい。
主氏は、ホウキをあずけて、その場にしゃがみ込む。
「ぐ、具合が悪くなったのか。主氏」
「おめえが、休めって言ったんじゃねえかよ。休んでるだけだぜ」
ニヤニヤ笑う。
「あ、そうか。俺がはき掃除をするから」
真面目に、逸見は、すみずみの枯れ葉を1か所に集める。
主氏は、それを飽きもせずに見ている。
「気持ち悪くなったら、早く言ってくれな」
「おう」
ニヤニヤ笑っている。
余裕があるんだろうと、逸見は、安心する。
「なあ、逸見」
枯れ葉を1か所に集め終わった頃。
主氏が、意地悪そうな顔をして言った。
「ダイダラボッチ退治に行かねえか?」
「え?」
「聖水城で、勇士をつのってるんだよ。ダイダラボッチ退治に参加する勇士を、さ」
逸見は、「自信が無いよ」と否定した。
「オレのための精霊酒を、飲んじまった化け物だぜ。退治には、行ってくれねえのか?」
「俺には無理だよ」
「ほんとうに、おめえは、弱気だな」
興味が失せたように、そっぽを向く主氏。
「ちょっと、いいっパ…?」
全身緑色のカッパが、話しかけてきた。
「うわーーっ…!」
逸見は、驚いて腰を抜かした。
「おう。カッパじゃねえか」
「主氏姫。探していたっパ」
水の精霊カッパ。
精霊酒を作った友好的な精霊である。
見た目は、背の高いヒョロっとした感じだ。
ちょっとだけ怖いかもしれない。
慣れだ。
「精霊酒が、新たに作れる準備ができたっパ」
「そうか。待ってたぜ」
主氏は、身を乗り出して喜ぶ。
「オレの1日1杯の酒を用意しろよ」
「気が早いっパ。問題があるっパ」
カッパは、腕組みして、仁王立ちをする。




