序
本日2回目の投稿です
因州において水の流れに異常あり。
備州よりの供給は一時途絶し、記録の一部に欠損が見られる。
同時期、局地的な降雨が確認されるが、その要因は定まっていない。
ある者は救済と記し、ある者は災いと記す。
人の手による調整の痕跡あり。
ただし、その詳細は記されていない。
死と救済は同時に発生し、区別はなされていない。
――水利記録より
***
陽は、いつからこうも苛烈になったのか。
雲ひとつない青空は、いまや地を焼く刃でしかなかった。
土は割れ、井戸はとうに底を見せた。水がない――ただそれだけのことで、人は静かに倒れ、気づけば息を引き取っている。苦しむ力すら残されていない死が、地を埋めていく。
――似たような光景を、知っている。
かつて、別の場所で。
乾いた地に転がる身体。動かぬ手。濁ったまま閉じぬ瞳。
あの時は血の匂いが立ち込め、今は乾いた土と腐敗の気配が混じる。
だが、同じだった。
命が奪われていく速さも、理由のなさも。そして、それを止められぬ己の無力さも。
守るため、終わらせるためと信じて剣を振るった。
だが、どれほど斬っても倒れる者は増え続け、泣き声は絶えなかった。その果てに剣を置き、二度と同じものは積み上げないと誓ったはずだった。
だが、いま目の前にある光景は、あの戦場と何も変わらない。
違うのは、誰も刃を振るっていないということだけ。
それでも人は、理由もなく、救いもなく死んでいく。
遥か先、霞む方角に帝都がある。
あそこにはまだ、水も、人も、国を動かせる力も残っているはずだ。
ここには、何もない。天を仰いでも、ただ陽が等しくすべてを焼いていくだけだ。
それでも、人は救いを求めるように帝都の空を仰ぐ。自分もまた、同じだった。
乾いた手のひらに、ぎゅっと爪を食い込ませる。
――動かねばならない。
あの戦場と違うのは、ひとつだけ。
まだ、何も終わってはいない。終わらせてなどいない。




