↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂桜華《きょうおうか》~亡国の姫は、名を捨て帝を目指す~  作者: 澪
第五章 偽りの花嫁【異郷婚姻編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
111/157

章扉

 その年、狄族との和平の証として、

 神祇官一人を狄族族長の令孫のもとへ嫁がせた。


 少女は、国の平和のため、

 涙を流すことなく旅立ったという。


 しかし、その婚姻は長くは続かなかった。


 その少女がその後どうなったのかは記されていない。

 少女の名は、その後の記録に出てくることはなかった。


 ——『帝記』より


◇


 雪が、舞っていた。

 花びらのように、ひらひらと。

 静かだった。音がなかった。

 少年は、焼け野原の中に立っていた。


 昨日まで、ここに村があった。

 人がいた。声があった。飯の匂いがあった。

 爺さんが毎朝、同じ場所で煙草を吸っていた。

 隣の家の女が、いつも同じ歌を口ずさんでいた。

 子供たちが走り回って、犬が吠えて、誰かが笑っていた。


 今は何もない。

 黒い地面が、どこまでも続いている。

 雪が降りてくる。地面に触れて、すぐに消える。


 少年はしゃがんで、地面に触れた。


 まだ、少しだけ温かかった。

 温かいのに、何もない。

 それが一番、おかしかった。


 立ち上がろうとして、できなかった。

 足が動かないのではない。

 どこへ向かえばいいのか、分からなかった。


 呼びたい名前があった。いくつも、あった。

 だが声を出せば、返事がないことを知っている。

 知っているから、呼べなかった。


(俺たちが、何をしたというのだろう)


 答えは、どこにもなかった。


 空を見上げた。

 雪が、降り続けていた。


 花びらのように。桜のように。

 何も知らない顔で、ただ静かに、降り続けていた。

 雪は誰かを選ばない。


 焼けた地にも、死んだ者の上にも、

 生き残った者の肩にも、等しく降る。

 それがひどく、腹立たしかった。


 泣けなかった。泣き方を、忘れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。