表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

死を望む少女

特殊な感覚だった。


圧迫感と、膨張感。

巨大な身体に押し込められ、世界が狭くも広くも感じる。


(……これ、知ってる)


過去に二度、味わったことのある感覚。

まさかと思いながら、ゆっくりと目を開ける。


そこには、見下ろすように広がる街の景色があった。

屋根が、道が、人々が。

小さく、微かに動いている。


その光景は、自分の目がどれだけ高い場所にあるのかを物語っていた。


そうだ。

自分はまた、モンスターに寄生したのだ。


しかも今度は、あの『嘆きの樹アムリエル』

巨大な、街を呑み込むほどの存在に。


「リュミエール?」


心の中で呼びかけた。

けれど、返ってくる声はなかった。


いつも、背中を押してくれたあの声は、もうどこにもいなかった。


静かだった。

自分の心に、ただ自分一人だけがいた。


ようやく理解した。


「ごめん」


「さようなら」


「元気でね」


あの三つの言葉の意味を。


「……酷いよ」


震える声が漏れた。


「どうして……私だけ残していくの……」


「ずるいよ……ひとりにしないでって、言ったのに……」


けれど、どれだけ声を震わせても、涙を流しても、

リュミエールはもう、応えてはくれなかった。


その事実だけが、残酷に、胸に突き刺さる。


「死のう」


ふと、そう思った。


もう、いいだろう。

リュミエールがいない世界に、自分が生きる意味なんてない。


この魔物は生きていてはいけないのだ。

死んだほうが街の人達の為にもなる。

彼らの為だと言えば。

きっとあの世でリュミエールも褒めてくれるはす。

そう思って、モンスターの記憶を読み取った。


そして気づく。


「あ、死んじゃダメだこれ」


『嘆きの樹アムリエル』

その正体は強力な魔力を与えられ成長した『マンドレイク』なのだ。

致死性の絶叫を放つ魔物。


自分が死ねば、身体に宿るこの魔力が一気に解放される。

街全体に根を張り魔力を蓄積しているのだから。

破滅的な被害を広範囲にもたらすだろう。


「街が滅んじゃうじゃん」


呆れたように、ひとりごちる。


皮肉だった。

寄生しても生き続けた自分が。

今度は自殺も認められないなんて。


けれど、それでも。

黙ってここに留まるわけにはいかなかった。


リュミエールが、命を賭けて託したもの。

それを、果たさなければ。


リリィは、自分の意思で動き始めた。


巨大な蔓を、根を、幹を、

魔力で枯らし、切り離していく。


その度に、身体が小さくなっていく。

蔓が消え、根が縮み、

かつて見下ろしていた街が、再び近づいてくる。

そして最後に。


枯れ落ちた樹木の残骸の中。

ひょっこりと顔を出したのは。

少女の姿をした、小さなマンドレイクだった。


もはや大絶叫を放つほどの力はない。


と、思いたかったが。


「ここまで縮んでも、まだ魔力残ってるっぽいんだよね」


だから、死ぬわけにはいかない。

自分の命が、いまや爆弾と化している以上。


街の人間にも見つかってはいけない。


ちいさな足で、ふらふらと瓦礫を歩く。

どこまでも広がる道。

目線の高さは、今までの何分の一にもなった。


でも。

それでも。


「ダンジョン、帰ろう」


ぽつりと呟いた声は、誰に届くこともない。


だけどその足は、確かに、前を向いていた。

リュミエールが残したものを、

今度こそ、果たすために。

第一章はこれで終わりです。

第二章は序盤の2話目までを掲載。

それ以降は今月中に更新予定となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ