歌をうたう少女
小さな小さなマンドレイク。
街にお買い物にやってきた。
これください。
ギャー!
お店の人は逃げてった。
哀れな哀れななマンドレイク。
お買い物一つできやしない。
自作の歌は、誰に聞かせるでもなく、ただ口から漏れた。
歌えば少しは気が紛れるかと思ったけれど、
結局、何も変わらなかった。
ここはダンジョンの中。
彼女は今、深い階層に根を下ろしていた。
誰も寄りつかない、ひどく古びた地下の聖域。
モンスターたちは、相変わらず襲ってくる。
自分より大きな牙を持ち、鋭い爪を持ち、群れて押し寄せてくる。
けれど、強大な魔力を持つ彼女の敵ではなかった。
「はいはい、こっちに来ないでー」
ぐにゃりと蔓を振り回す。
弾かれたモンスターたちは、弾き飛び、逃げていく。
火竜から継承した邪眼の力はまだ残っていた。
だが、リュミエールから継いだものは、何一つなかった。
リリィは、地中から自分の枝を削って、剣の形を作ってみる。
だけど。
振ってみても、全然うまくいかない。
「やっぱり、剣技は無理かぁ」
リュミエールの記憶が使えたら、もっとかっこよく戦えたのに。
彼女から何も継げていないのだと、再確認するたび、胸がちくりと痛んだ。
けれど、ひとつだけ、諦めきれない希望があった。
(もし、もし、彼女の魂だけでも残っていて)
(それを継承できていたなら、嬉しいのにな)
そう思って、毎日、心の中に語りかける。
「ちっちゃな芋虫がね、私の根元に巣を作ったの」
「すっごく綺麗な繭を紡いで、蛹になってたよ」
「いつか蝶になるのかな」
「その時さ、2人で見られたら、いいな」
「うん、そんなの、夢みたいだけど」
返事はない。
いつもと変わらず、静かなままだ。
時々、地上のことを考える。
「地上、どうなったかな。復興、始まったかな」
「エルナとか、ヴァルトは元気かな」
「ミレイユ、結局、謝れなかったなぁ」
呟いた言葉に、誰も答えてはくれない。
でも、それでも、話しかけることだけはやめなかった。
そして今日も、小さなマンドレイクは、
誰もいない根の部屋で、静かに暮らしていた。
たった一人の、でも、誇り高き“人間”として。




