表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクルートとキホテール  作者: てんきどう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/13

5.キホテール、魔法を教える


 スクルートは、自分が魔法を習う日が来るとは思っていなかった。


 ノア亭の中庭で、スクルートはキホテールから魔法を習うことになった。

 キホテールは、真剣に教え方を考えた。


(そうだな。スクルートは火の魔力の気配がある。最初は火魔法がいいだろうな。何か楽しみがあるとやる気もでるし、魔法のイメージも作りやすいだろう。そうだ。芋を焼いてみるのがいいかもな。じゃあ魔法で焚き火の用意して芋を砂に埋めてと。簡単だよな)


「スクルート。お前には火魔法の才能がある」

「本当か!」


 スクルートは喜んだ。

 キホテールは彼のそんな様子を見て嬉しくなった。


「じゃあまず、この焚き火に爆炎魔法で火をつけて芋を焼いてみようか」

「……は?」


 スクルートが固まった。

 キホテールは不思議になった。


(何が不味かったんだろう。スクルートは芋が嫌いだったかな。いや、いつも食べてるよなあ。……焼き栗が良かったか? しかし、手持ちに栗はない)


「栗の用意はしてないんだ」

「なぜ栗が出てくる?」


(……芋が原因で固まったんじゃなかったのか?)


「栗でないとヤル気が出ないのかと思った」

「いや。栗とか芋の問題ではなく、まず火の魔法の出し方が分からないんだ」


 スクルートは根気よく説明した。

 キホテールは丁寧に魔法を説明する。


「世界には魔力の流れがある。自分の中にも。魔法はイメージを強くもって、それを魔力と接続するんだ」


「言っている意味が分からない」

「え!? 分からないのか……」


 キホテールは苦悩した。生まれた時から息を吸うように魔法が身近にあった。母親も魔女だったから、魔法が分からない感覚が、彼には分からない。


(どうして分からないのか、本気で分からない……。どうしたらいいんだ、これは?)


 彼は、スクルートにどう言えば分かってもらえるのか、それが分からなくて悩み出した。


 そんなキホテールの近くを、鳥が飛んだ。


「あ、鳥だ」

(鳥が低く飛んでいるってことは虫が低い位置にきてるってことだ。虫が低い位置に移動するのは、雨が降る前兆かもしれない。今夜は雨か。もっと早く降るかも。スクルートの火魔法と雨は相性が悪い。早めに切り上げるか。しかし今やる気になってるのに、止めるのは成長によくないよなあ)


 スクルートはイライラした。


「人の話を聞け!」

「聞いてるよ」

「聞いていない! なぜ話の途中で鳥が気になるんだ」

「お前の魔法の訓練だよ」

「絶対に違う!」


 スクルートは、自分は真剣にやっているのに、キホテールはあっちこっちに興味がうつっているようにしか見えない。軽んじられているようで腹が立った。


 宿屋の主人であるイブリッドが、その様子を見てハラハラしていた。彼はため息をついた。

(どっちが言ってることも、僕は理解出来るんだけどな。ちょっと教えてあげようかな)

 イブリッドは中庭にでて、スクルートに話かける。

「鳥が低く飛ぶ時は雨が降るんですよ。火魔法の訓練に向かないので、キホテールさんは気になるんだと思います」

「……は?」


 スクルートは驚いてキホテールを見た。 

 キホテールは、深く頷いている。

 イブリッドは、さらに続けた。 


「キホテールさん、スクルートさんは最後まで自分に集中して話してくれないと、無視された気がするんですよ」

「……へ? そうなの?」

「その通りだ。とても失礼だと感じた」

「あ、ごめん。俺、火魔法の訓練止めるか、お前のヤル気を優先するかで頭いっぱいだった」

「……そうか」


 今にも喧嘩になりそうだった二人の雰囲気が、少しだけ柔らかくなった。

 スクルートは、少しでも早く魔法を使えるようになりたかった。それにキホテールは魔塔の仕事もあるから、これから自由時間が減るだろう。次の訓練がいつになるか分からない。


「雨が降るまで、訓練を続けてもらいたい」

「ああ。分かった」



 キホテールは、魔法のイメージをスクルートにどう教えるかで頭を悩ませている。


(魔法って、身についた感じの楽しいイメージが大事なんだよな。暗いイメージは萎縮しちまって魔法が出しにくいんだ)

「スクルートは、“火”で楽しい思い出は何がある?」


 スクルートはまた話が飛んだと思ったが、真面目に答えた。


「そうだな。冬の訓練が終わった後に、団員達が火を起こそうとするんだが遅くてな。遅すぎるのは機能的じゃないと怒ったらすぐに火をつけたよ。それから、町で火の不始末で火事があった時に団員で消火してな、不始末起こした人を叱って、町の治安に貢献できた時は嬉しかったな」

「……うん。駄目だな」

(火魔法が起こせるような、明るく楽しい思い出じゃない。こいつ、頭が硬すぎるんだ。どうしよう……)


「……何が駄目なのか、言ってみろ!」


 スクルートは、キホテールはまた人の話を聞かないと思った。

 キホテールは、必死でスクルートから楽しい火の思い出を引き出そうと悩んでいる。


「……そうだ! 子どもの頃なら、楽しい火の思い出あるだろう?」

「人の話を……。子どもの頃も変わらない。うちは全員騎士だったからな。火の管理は厳重だった」

「マジか……」


 スクルートもイライラしているが、キホテールも絶望してきた。


「頼む。何でもいい。楽しいことを思い出してくれ」

「く……、そうだな……年末の祭りで、綺麗な蝋燭を食卓で灯すんだ。あれは綺麗で楽しみだった」


 スクルートの真一文字の唇がほんの少し上がった。

 目元も少しだけ優しい。


「それだ!!」

「何がだ」

「その祭りの蝋燭の火をイメージするんだよ!」

「……はあ?」


 スクルートは分けが分からない。そんなイメージで火魔法が使えるなら、誰だって魔法使いになれるはずである。

 キホテールは熱っぽく続けた。熱く語れば、スクルートにイメージがより伝わる気がしたからだ。


「とにかく、そのイメージを頭の中に強く思い浮かべ続けるんだ。そうしたら、何か暖かいものが胸の中に湧いてくる。それを指先に移動させるイメージをするんだよ!」

「そんなもので……いや、とにかくやってみよう」


 スクルートは理論的に説明できないものは苦手だった。しかし、今はキホテールが先生なのだ。納得できなくても従う義務がある。


 スクルートは、蝋燭の火を思い浮かべ続けた。

 ……しばらく続けるが、何も感じない。

 だんだん何が正しい感覚なのか分からなくなってきた。脂汗まで出てきたし、眉間に深い皺がよっている。

 キホテールが困ったように呟いた。


「……なんで楽しい事を思い出して、眉間に皺よるんだ、おまえ……」


 スクルートも困っているが、キホテールも困っていた。

 イブリッドが優しく言葉をかける。


「スクルートさん、最初は感じにくいでしょう。楽しかった気持ちを思いだす感じでいいんですよ」

「む、そうか……」


 スクルートは必死で楽しかった気持ちを思い出そうとした。

 キホテールはイブリッドに感謝した。生まれた時から魔法が当たり前だったために、上手く言葉にできない自分を恥ずかしく思った。


「イブリッドさんは、魔法習った事あるんですね」

「ええ、昔魔法使いに憧れてね。キホテールさんみたいに優秀な魔法使いにはなれませんでしたが」

「俺は母が魔女だから、魔法が当たり前だっただけです」

「そうだったんですね。魔法に馴染みのない環境で育つと、魔法のイメージを掴むのは難しいんですよ」

「……そうみたいですね」


 キホテールは、スクルートを見た。

 時々、眉間に深い皺を寄せては真顔に戻るスクルート。彼が必死で魔法を学ぼうとしているのは伝わってくる。

 いろいろ気になって口に出したくなるが、スクルートは最後まで自分を見ていてほしいのだ。だから、必死で黙っていた。それはもう、必死で黙った。


 空が灰色の雲で覆われて、風が冷たくなってきた。

 雨が降る気配が強くなってきた。

 キホテールが、今日はもう諦めようと声をかけようとした時である。


 ……その時だった。

 スクルートの指先に、マッチ一本分の火が灯った。

 キホテールは嬉しくなって叫んだ。


「やったー!! やったじゃねえか、スクルート!」

「やりましたね、スクルートさん!」


 次の瞬間、スクルートの火は消えた。

 スクルートは黙って指先を見ている。


「……こんなものか」

(これが、私の限界か)


 キホテールは嬉しくてたまらなくて、スクルートの背中を叩いた。


「最初はそんなもんだって! 大丈夫さ。最初は小さな火でも無限の可能性があるんだ。もっと強く自由に魔法をイメージできるようになれば、魔法は必ず答えてくれる! 魔法陣や魔道具と組み合わせれば、どこまでも深淵に幅広く世界を広げられるんだ! おまえは、その第一歩を踏み出したんだ。おめでとう! スクルート!」


 中庭を小躍りしながら喜ぶキホテール。

 三体の精霊達も、彼の周りを楽しそうに飛び回っていた。

 スクルートは苦虫を噛んだような顔をしている。


「……苦労してこんなものか。私には価値がないのか」

「そんな事ありませんよ、スクルートさん。小さく見えても、あなたは一歩成長したんです」

「キホテールは、どうやって魔法を自由に使っているんだ」

「魔法は再現性が少ない技術です。キホテールさんは、どこまでも真っ直ぐに自由にイメージを広げられるんでしょう。魔法学校のエリート組がそうでしたから」

「……どこまでも真っ直ぐに自由にか」

「ええ」


 それは、スクルートにはとても難しい事だった。

 美しい蝋燭の思い出も、取り扱い厳重注意の貼り紙を一緒に思い出してしまうのだ。自由とは程遠かった。


(魔法剣士になって騎士団入団は、夢のまた夢だな)


 ポツポツと冷たい雨粒が頬に当たった。


「本当に雨が降ってきたな……」

「スクルートさんもキホテールさんもお疲れ様です。暖かいお湯でも淹れましょうか。お茶やお酒は有料になりますが」

「ありがとう。イグリッドさん」


 楽しそうに踊るキホテールを見ながら、スクルートはトボトボと宿の中へ入っていった。





 しばらくしたある日の事、スクルートはキホテールからお祭り用の蝋燭をプレゼントされた。

 それは、とてもカラフルで大きな蝋燭だった。

 スクルートの趣味ではなかった。彼は合理的なモノトーンが好きなのだ。

 キホテールは嬉しそうに笑って言う。


「初給料貰ったからさ。おまえの初魔法のお祝いに買ってきたんだ!」

「…………そうか。ありがとう」


 スクルートにそう言われると、キホテールはもっと嬉しくなった。そして、風のように走っていった。

 スクルートは、彼の自由さに呆れた。


(やれやれ、私の趣味じゃないんだが)


 彼は一瞬、ゴミ箱が目に入った。

 ……しかし、思い直した。 

 いつも綺麗に掃除してある棚の上に置く。

 モノトーンの彼の部屋に、そこだけ色があった。


「……なぜ捨てなかったのだろうな」


 スクルートはそう言いながらも、毎日綺麗に蝋燭の埃を払うのだった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ