第79話「仲間たちの覚悟」
不死の王冠が、辛うじて全員を生かしている。
だが冥王の攻撃のたびに、回復が追いつかなくなっていく。リリスの顔から余裕が消えている。この力にも限界がある。
「面白い力だ」
冥王が言った。
「だが、永遠ではあるまい。そのうち、全てが消える」
俺の頭の中では、魂の架け橋のことが、ずっと回っていた。
使えば、冥王を封印できる。世界は救われる。代償は、俺の魂。
顔に出していたのだろう。リリスがこちらを見た。
「……ぬし。まさか」
その時、ゼノンが立ち上がった。
◇
ボロボロだった。魂を削られ、体が傾いている。それでも立った。目だけが燃えていた。
「まだだ」
冥王に向かって、走り出した。吸収されるとわかっていて。
「レイド! 時間を稼ぐ! その間に策を考えろ!」
鉄剣を振るった。白銀の光が冥王に弾かれる。魂が吸われる。膝をつきかける。それでも、立ち上がってまた斬りかかる。
ゼノンの背中を見ていた。
七年間、俺がやっていたことだ。パーティの後ろで、誰にも気づかれずに、時間を稼ぎ、力を支えていた。
今、ゼノンが同じことをしている。俺の盾になっている。
一人ではなかった。
リリスが並んだ。
「わらわも行く。800年の命、ここで使い切っても構わぬ」
紅蓮の薔薇園。自分の魔力を限界まで振り絞る。薔薇が吸収されても、また咲かせる。咲かせ続ける。自分の体が灰になりかけても、止めない。
シャルロットが盾になった。呪浄の鎧を全身に展開し、冥王の波動を正面から受け止める。体が軋む。それでも一歩も引かない。
「レイドが考える時間を、私たちで作る!」
セラフィナが宙を舞った。暁の裁きを連発する。一発ごとに、冥王がわずかに怯む。わずかに。それでも、何度も何度も繰り返す。
「天から堕ちて、地の底で戦う。天使としてではなく——あなたの仲間として!」
メルティが両手を掲げた。300年分の魔力を全て解放する。空間魔法で冥王の足を縛る。完全には縛れない。一瞬。だがその一瞬を、何度も作り出す。
「ししょうのために!」
五人が、命を削っていた。
俺に時間を作るために。
冥王が、苛立った声を出した。
「虫けらが。まとめて喰らってやる」
冥王の体が、紫黒に膨れ上がった。全方位への魂喰。この空間の魂を、一度に全て喰らう滅殺技。溜めている。あと数十秒で、放たれる。
◇
その時、頭の中に、記憶が流れ込んできた。
魂の書で見た、始まりの死霊術師の記憶。
あの人も、同じだった。仲間がいた。仲間が冥王の前で時間を稼いでいた。そして始まりの死霊術師は、その時間で——魂の架け橋を発動した。
記憶の中の声が、聞こえた。
「仲間を守るために、命を使う。それが、死霊術師の最後の仕事だ」
目の前で、五人が戦っている。
七年間、俺は一人だった。後ろで支えて、誰にも見られなくて、それが当たり前だと思っていた。
追放されて、この四人に会った。ゼノンも戻ってきた。
一人じゃなくなった。守りたいものができた。守ってくれる人ができた。
——もう、十分だ。
心が、静かに決まった。
不思議と、怖くなかった。七年間の孤独に比べれば、仲間のために消えることなんて、ずっと幸せだ。
俺は、魂の架け橋を発動した。
体が、白い光に包まれた。
◇
リリスが、振り返った。
「レイドッ! 何をしておる! その光は——」
声が裏返っていた。
俺は微笑んだ。できる限り、穏やかに。
「ごめん、リリス。嘘ついてた」
「……何を」
「この技は——俺の魂と引き換えに、冥王を封印する。始まりの死霊術師と、同じ方法だ」
リリスの顔が、凍りついた。
「やめろ」
声が震えた。800年を生きた真祖の声が、子供のように震えた。
「やめるのじゃ! ぬしが死んだら——わらわは——!」
「レイド!!」
シャルロットが叫んだ。呪浄の鎧を解いて、こちらに走ろうとする。
「嘘でしょ!? やめてよ!」
「ししょう!!」
メルティが泣き叫んだ。
「だめ! 消えちゃだめ! また一人になるのやだ! ししょうがいなくなったら——!」
「レイドさん……!」
セラフィナの声が掠れた。翼が震えている。
ゼノンが、剣を取り落とした。
「レイド……お前……そんなの……」
白い光が、強くなっていく。俺の足元から、生と死の境界が——開き始めた。
光と闇が、混ざり合う。世界の根源が、俺の意思で動き始める。
始まりの死霊術師が、数千年前に使った力。
今、俺が、引き継ぐ。
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