表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/85

第76話「第四天王・虚無」

 第四の空間は、白かった。

 炎も、暗闇もない。ただ白い。壁も床も天井も、白くて、境目がわからない。音がない。匂いもない。何もない空間。

 中央に、人型の影が立っていた。

 見ようとすると、視線が逸れる。確かにそこにいるのに、認識できない。存在しているのに、存在を拒む。見るたびに、頭が「そこには何もない」と言ってくる。

 第四天王、虚無。

 影が片手を上げた。何の予備動作もなかった。

「あ——」

 メルティの声。足元を見ると、メルティの両足が消えていた。

「足が……ない……でも、痛くない……?」

 魂視で見た。消えたのではない。メルティの足の「存在」そのものが希薄になっている。あるはずのものが、ないことにされている。

「動くな!」

 魂の強化をメルティに全力で注いだ。存在を肯定する。「お前はここにいる」と魂に刻む。メルティの足が戻った。輪郭が濃くなる。

「ひゃっ……足、戻った……」

 メルティが自分の足を踏みしめた。何度も。確かめるように。

    ◇

 虚無の力がわかってきた。存在を否定する力だ。

 リリスが血の茨を放った。茨が虚無に届いた瞬間、届いた部分が消えた。「無」になった。同時に、リリスの指先が一瞬薄くなった。

「攻撃した分だけ、こちらが削られるのか」

 リリスが手を引いた。指先の輪郭が戻る。だが顔が険しい。

 ゼノンが鉄剣を構えた。白銀の光を纏わせて斬りかかる。刃が虚無に触れた瞬間、白銀の光が飲み込まれて消えた。手応えがない。

 シャルロットの呪浄の剣も同じだった。斬っても、斬った分だけ自分の存在が薄くなる。

 メルティが全属性砲撃を放った。六色の魔法が虚無に殺到し——届く前に、消えた。「存在しない」ものに変えられた。

 誰の攻撃も通じない。攻撃そのものの存在を、虚無が消してしまう。

「通常の手段じゃ倒せない」

 考えた。虚無は存在を否定する。ならば、その逆は——存在を肯定する力だ。

 セラフィナを見た。

 暁翼。聖属性は存在を祝福する力。闇属性は存在を破壊する力。両方を併せ持つのは、セラフィナだけだ。

    ◇

「セラフィナ。お前ならいける」

 セラフィナが俺を見た。

「聖属性で存在を肯定しながら、闇属性で虚無の否定を相殺する。理屈は通る。でも——」

 言葉を切った。

「虚無の力は強すぎます。私一人では、自分の存在を保ちきれないかもしれません」

「一人じゃない」

 手を伸ばした。

「俺が魂の共鳴で支える。お前が消えそうになったら、俺が引き戻す。二人で行こう」

 セラフィナがしばらく俺の手を見ていた。それから、握った。

「……はい」

    ◇

 セラフィナが翼を全開にした。

 暁の光が白い空間に溢れた。金色と、その奥の黒。夜明けの色。何もない白の中で、その光だけが「存在」を主張していた。

 俺はセラフィナの魂と共鳴した。二つの魂が繋がる。セラフィナの存在を、俺が支える。彼女が薄くなりかけたら、俺の魂力で濃くする。

 セラフィナが虚無に向かって飛んだ。

 虚無が片手を上げた。セラフィナの存在を消そうとする。セラフィナの体が薄くなりかけた。輪郭がぼやける。

 共鳴を強めた。「お前はここにいる」。魂を通して、存在を肯定し続ける。

 セラフィナの輪郭が戻った。

 消えなかった。

 虚無が、初めて動きを止めた。

「私は存在しています」

 セラフィナの声が、白い空間に響いた。静かな声だった。叫びではない。確信だ。

「天使でも、堕天使でもない。暁天使として。レイドの仲間として。——私がここにいることを、否定できる者はいません」

 翼から光が放たれた。聖と闇が同時に。「暁の裁き」。存在を肯定する光と、否定を破壊する闇が、一つになって虚無の核を貫いた。

 俺は同時に「魂の解放」を放った。虚無の核——「無」そのものに、魂の光を注ぎ込む。

 虚無が、初めて声を出した。

「存在……する……我が……?」

 戸惑いの声だった。自分が「ある」ことを、初めて知った者の声。

「お前にも魂がある」

 俺は言った。

「冥王に喰われて、空っぽにされていただけだ。解放する」

 虚無の体が光に変わった。「無に還る」のではなかった。一つの魂として、解き放たれる消滅だった。白い空間に、最後に小さな光が昇っていった。

 第四天王、撃破。

    ◇

 セラフィナが着地した。翼を畳む。暁の光が静かに収まっていく。

「虚無に勝てたのは」

 セラフィナが呟いた。

「自分が存在する意味を、信じられたからです」

 その意味を、誰が与えてくれたのか。言葉にはしなかった。でも、こちらを見る紫の瞳が、答えを語っていた。

「お前の存在に意味がないわけがない」

 俺は言った。

「お前がいなかったら、ここまで来られなかった。それが答えだ」

 セラフィナが微笑んだ。天界の裁定者の顔ではない。柔らかい、人間に近い笑み。

「……ありがとうございます。その言葉が、私の一番の力です」

    ◇

 四天王を全て倒した。

 白い空間の奥に、道が開いていた。下へ続く道。冥府の最深部、忘却の底へ。

「行こう。最深部だ」

 歩き出した。

 一歩目で、視界が揺れた。

 足がもつれた。膝から力が抜ける。倒れかけた体を、誰かが支えた。

 リリスだった。無言で俺の腕を掴んでいる。

 覚醒に三割。四天王戦で、さらに削られた。魂力の残量が、もう半分を切っている。

「……大丈夫だ」

「無理をするな、とは言わぬ」

 リリスが静かに言った。

「だが——倒れる時は、わらわに寄りかかれ。一人で立とうとするな」

 頷いた。

 リリスの肩を借りて、一歩を踏み出した。

 残り一時間。

 最深部で、冥王が目を覚まそうとしている。


読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ