第八話 『裁判』④
「ジェイド」
「はい、ノエル様」
俺はジェイドの名前を呼ぶ。するとジェイドが、パトリシアと彫像の間に入ると蹴りで彫像の攻撃を弾いた。ジェイドの蹴りの威力が強かったのだろう、彫像はハンマーを振り上げた形で後ずさる。人間の三倍以上のある彫像を軽く蹴り飛ばすとは、流石はゴリラだ。
「大丈夫ですか? パトリシア」
「お兄様! ジェイドが……その……」
ジェイドは難無く着地すると、彫像からパトリシアを庇う。その様子を確認してから、俺はパトリシアに声をかける。パトリシアはジェイドの行動に戸惑いを隠せないようだ。まあ、ゴリラであることを知らなければ、その反応は当然である。彫像越しに、トニーたちが驚愕している姿が見えた。
「これからは、ジェイドが彫像の攻撃から、守りますから安心してください」
「は、はい!」
パトリシアに状況を説明する。ジェイドには事前に、彫像の攻撃からパトリシアを守るように伝えてあった。俺が魔法で対応することも考えたが、ゴリラであるジェイドが適任者であると判断したのだ。
俺の説明を聞くと、パトリシアは表情を明るくした。
「お! おいっ! ふざけるな! 彫像に攻撃するなんて……罪が増えるだけだぞ!?」
トニーが彫像を蹴り飛ばしたことに対して、抗議の声を上げる。彫像を攻撃して『罪』になるかは分からない。ゲーム内でも、そのことに関しては何も情報がなかった。
加えて、『罪人』の下には魔法陣が刻まれており、『罪人』が魔法を使用することは不可能だ。更には移動による回避も二重に刻まれて魔法陣により阻まれる。絶対に彫像の攻撃が、『罪人』に当たるように仕組まれているのだ。嫌な程に『罪人』に対しての対策は講じているが、『弁護』側から妨害が入るという発想が無かったようだ。それはそうだろう。『罪人』の味方をすれば、同罪として監獄に送られるのだ。そこまで危険を冒す者が、存在するという発想が無かったのだろう。
いや、『罪人』を『弁護』し、更には彫像の攻撃を往なせる存在など想像も付かなかったのだ。この『裁判』は、それらの可能性を加味せずに作られているから当然である。怠惰であり、欠点だ。
「私の執事は、無実のパトリシアを助けただけですよ? 何も問題はありません。彫像がパトリシアに危害を加えようとしたのが悪いのです」
トニーの発言に、俺は涼しい笑みを浮かべる。彫像を蹴ったとしても、それが『罪』になるとは考えられない。現に彫像は動きを止めている。ジェイドに反撃する様子はない。彫像は『罪』の『証言』に反応して『罪人』に攻撃をする仕組みなのだ。
加えて、現在はパトリシアを裁く為の『裁判』中である。『罪人』における『罪』のみが、彫像の攻撃対象だ。『弁護』に対しては、その範囲内ではない。
因みにハンマーを振りかざす彫像が、再び動き出さないように俺が魔法を使用している。完全に動きを止めている訳ではない。彫像の関節部分を周囲から見えないように、凍らせているのだ。このことに気が付いているのは、ジェイドぐらいである。若しくはこの群衆と放送されている向こう側に、魔力探知に優れている人物には気付かれるかもしれない。だが、そのことを気付かれたとしても、大した問題ではないのだ。言い訳など幾らでも出来る。




