第六話 『裁判』②
「…………」
俺は無言のまま、試験用紙を事前に盗んだ罪の証言者とやらの動きを静観する。
一人目の証言の名前は、デロン・トッキー。男爵令息である。先程の行動から、媚びを売るのが上手いのだ。デロンが公爵令息である、トニーに恩を売っておいて損はない。パトリシアの断罪である『裁判』で証言するのは、デロンには何か利益があるからだ。己が利益を得るために、パトリシアを貶めることに加担するとは何とも愚かしいことである。自分自身で利益を得られるように努力するべきだ。俺を見習って欲しいものである。だがその考えを出来るならば、トニーの考えなどに賛同しないだろう。
「初めまして! 罪人のお兄様! 私はデロン・トッキー男爵令息です! 非常に申し上げにくいのですが! 貴方の愚妹は、試験用紙を事前に盗んでいたのです!! これは絶対に揺るがない事実なのです!!」
初対面でこれだけ不愉快なことがあるだろうか、いやない。パトリシアの『有罪』は決定していないのだ。そうだというのに声を高らかに宣言するあたり、本当に愚かしい。トニーから与えられるであろう、利益に目が眩んでいるのだろう。
加えて、デロンは男爵令息だ。伯爵令嬢であるパトリシアに対して、敬意を払わない姿勢は『裁判』において『有罪』が確定しているからだろう。予想外のことを考えることが出来ないのは、生存率を格段に下げる。
パトリシアが、試験用紙を事前に盗んだなど有り得ない。事実無根である。彼女は正義感が強いのだ。その様な不正は行わない。更に言えば、パトリシアは頭脳明晰である。試験用紙を盗む必要などないのだ。
「酷い物言いですね……藪から棒に、私の妹を愚弄しないでください。妹を罪人呼ばわりする、その証拠はあるのですよね?」
俺は苦笑すると、デロンにパトリシアを罪人と称する証拠品を尋ねる。ゲーム内では一方的に、パトリシアが責め立てられていた。反論の余地や証拠品を尋ねることも出来なかったのだ。その為、証拠品が提示されることはなかった。杜撰な『裁判』であるが、まさか本当に証人だけしか用意していない筈はないだろう。
「ええ! 勿論です! 私の証言が証拠です!」
自信満々にデロンが自身の証言が証拠だと叫んだ。
「……それだけですか?」
「ええ! 私の証言が証拠です!」
俺はもう一度、デロンに証拠品について尋ねる。それに対して、デロンは再度、大きな声で証拠が自分の証言だと告げた。まさか、俺の予想が当たるとは本当に『裁判』が深刻だ。
「そうですか……」
デロンの発言に頭が痛くなるのを感じ、頭を抑える。確かに証言も証拠として数えても問題はない。だが、証言だけでパトリシアを『有罪』にするつもりだった。その警戒心の無さと、準備不足で勝てると思っている幼稚さに軽蔑を覚える。
いや、『裁判』においてはそれが通用するのだ。それ故に『裁判』を開廷させれば、『罪人』は『有罪』になる。『裁判』に依存し、考えることを放棄しているのだ。




