第五話 『裁判』①
「いいだろ!! 教えてやろ! その悪女の罪状は全部で、なんと5つあるのだ!!」
トニーはパトリシアの罪状が5つあると告げる。それを聞いた会場に居る人々から驚きの声が上がった。それはそうだろう。通常ならば、1つの罪状だけでも、『有罪』にするには十分だ。それをなんと5つも用意したようである。ご苦労なことだ。
5つも用意した理由は差し詰め、この『裁判』を長引かせて、よりパトリシアを苦しめたいのだろう。そして苦しむパトリシアを鑑賞しながら、自分たちが優越感に酔いたいのだ。全く悪趣味なことこの上ない。
「……そんなにですか……」
俺は内情を隠して、弱弱しい声で呟く。
「はははっ!! 妹の愚かさを今頃、悔いても遅い! 試験用紙を事前に盗んだ罪! 生徒会の活動費用を横領した罪! アニータを噴水に突き飛ばし、罵声を浴びせた罪! 婚約者が居るのに他の男と逢引きした罪! 他の生徒に暴行を働いた罪! その5つの罪だ!!」
トニーは大声で、パトリシアの罪を告げる。すると、トニー側の壁にある彫像たちが動き始めた。罪状の数に合わせて5体の彫像が、武器を片手に各配置へと着く。この『裁判』の嫌なところは、多くある。その内の一つがこれだ。一つの『罪』に対して、一体の彫像が『罪人』へと攻撃をしてくる。
魔法で対抗しようにも、『罪人』の下には魔法陣が刻まれており、『罪人』が魔法を使用することは不可能だ。加えて、移動による回避も二重に刻まれて魔法陣により阻まれる。絶対に彫像の攻撃が、『罪人』に当たるように仕組まれているのだ。魔法も回避も使えない状態で、彫像の攻撃を受ければ生身の人間はひとたまりもない。唯一、彫像からの攻撃を回避することが出来るのは、『罪』を認めることだ。
そうすれば、彫像は動きを止める。だが、それは謂れのない『罪』を認めることになるのだ。言うなれば、命を繋ぎ止める為に『罪』を背負うということである。この『裁判』は、堂々と暴力で命を失うか、名誉を失い『罪』を取るか脅してくるのだ。悪質極まりない。
これが『罪人』とされ『裁判』にかけられた時点で終わりということである。
「トニー様! 私には身に覚えのないことだらけです!」
パトリシアはトニーが読み上げた罪状に対して、抗議の声を上げた。自身の無実を主張することは大切である。トニーは5つもパトリシアに『罪』があると言うが、その全てが噓だ。よくもその様な噓を吐くことが出来る。いや噓であれ『裁判』を始めてしまえば、『噓』が『真』になるのだ。そして『罪人』として確実に『有罪』に出来る。
「五月蠅い奴だな……。だが、その威勢も今のうちだ! 直ぐにでも、泣いて叫んで『罪』を認めるだろう! さあ! 試験用紙を事前に盗んだ罪の証言者! 前に出て、あの悪女の悪事を証言しろ!」
トニーは、パトリシアの毅然とした態度が気に入らないようだ。表情を露骨に歪ませると、自分の背後に居る者に声をかけた。
「はい! トニー様のご命令であれば、喜んで致します」
容姿の整った一人の男が、証言者たちの列から歩み出る。そして貴族らしく優雅な礼を、トニーへと向けた。




