第四話 開廷
「さて! パトリシアを裁く用意は出来たぞ!? 今からパトリアの悪事を明らかにしてやろう!!」
裁判長の魔法により、トニー側と俺とで左右へと分かれた。中央にはパトリシアが居る。これだけは現代の裁判の形に似ているだろう。
トニーは向かい側で、楽しそうに吼えた。仮にもメライン公爵家の跡取り息子ならば、この状況の全てに配慮するべきだ。だがそれを出来るならば、そもそもこのような事態を発生させないだろう。トニーが愚かであるから、この状況である。そしてトニーが滅ぶのも必然だ。俺の平穏を脅かすものは、俺が排除する。
「お手柔らかにお願いします」
俺は本心を隠して、トニーの発言を受け流す。
「はっ! 自分から弁護を申し出た割には、今更、怖気づいたのか!? 嗚呼! ノエルは学がないからな! だが『裁判』は始まった! 罪人と共に牢獄行きは確定しているぞ!? 病弱なお前では、刑を受けるまで体が持たないかもな!?」
空のバケツを叩くと五月蠅いとは聞くが、正にその通りである。叩いたというよりは、小突いた挨拶程度である。それで、ここ程まで吼えることが出来るのはある種の才能だ。
「お兄様……」
中央に居るパトリシアが不安気に俺を見る。この世界で『裁判』にかけられることは、有罪が確定しているのだ。不安になるのも無理はない。
「大丈夫ですよ。パトリシア、私を信じてください」
「……っ!? はい、勿論です!」
俺はパトリシアを安心させるように、微笑む。ここからは、パトリシア自身の意思の強さも重要だ。通常『裁判』では一方的に罪を責め立てられる。そして罪人とされる者の抵抗する気持ちを削り取るのだ。これから俺が成すことには、パトリシアが無実を訴え続ける姿勢が必要不可欠である。その為にも、妹を励ます。
俺の心配をよそに、妹は力強く頷いた。俺としては、可愛い妹がトニーと結婚しなくて良かったと心の底からそう思う。俺はゆっくりと青空を眺めながら、お茶を飲んで過ごすことを目標にしている。だが、妹の幸せを願わないほど冷たい兄でもない。
貴族の結婚とは、殆どが政略結婚だ。しかしパトリシアには、本当に愛する者と結婚をして欲しい。そして仲睦まじい様子を見て、俺は安心してお茶を飲みたいのだ。
「トニー様!」
「アニータ! 此処に出て来て大丈夫かい? 君を虐めた、あの悪女が居るのに……」
人々を搔き分けて、一人の女性がトニーへと駆け寄る。このゲームのヒロインであるアニータだ。パトリシアから、婚約者であるトニーを奪った者である。だが、トニーの本性を知っている為、パトリシアの婚約者を奪われたところで何も思うことはない。寧ろ、パトリアからトニーを引き剝がしてくれたことに感謝をするぐらいである。
だが、この後の展開に手を抜くことはしない。
「いえ! トニー様が私の為にパトリシア様と戦って下さるのに、私だけ隠れている訳には参りません! 私も一緒に戦います!」
「アニータ……君はなんて素敵な女性なんだ……。分かった共に、あの悪女を断罪しょう!」
『裁判』が始まったというのに、アニータの乱入を許す。そしてトニーとアニータの三文芝居を『裁判長』は諌めない。この『裁判』は欠陥だらけなのだ。此処から大変面倒な展開が幾つも予想されるが、妹と俺の安寧がかかっている。
「では、トニー様。パトリシアの罪をお聞かせください」
溜息を吐くのを我慢して、トニーたちに言葉をかけた。




