第三話 参加
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「なんだ!? ……嗚呼、ノエル兄さんか……」
トニーは自分の行動に水を差され、苛立ちの声を上げた。しかし俺を確認すると、呆れた様子で笑みを浮かべる。これが、義弟になる予定だった男の俺に対する評価だ。
周囲を確認すると、水晶玉が幾つか浮かんでいる。この状況は魔法で中継されているようだ。
「御機嫌よう。トニー様」
俺は元義弟の態度には触れずに、何時も通りの挨拶を告げた。トニーは元義弟だが、侯爵令息である。その為、義弟とはいえ敬称付けで呼んでいるのだ。要するに、格下貴族は義弟だろうと呼び捨てにすることは出来ない。先程の様子からしてもトニーは、俺のことを完全に見下しているのは確実である。それは大変結構だ。俺の容姿からしても、油断しておいてくれるので大助かりである。
「ノエル兄さん、いやノエル! パーティーに参加していたのか、てっきり何時ものように寝込んでしまっているかと思っていた! だが、愚かな妹の最後を見届けることが出来て良かったな! これで、僕もお前のような、出来損ないを兄さんと呼ばなくて良くなった!!」
「……っ!」
トニーは嬉しそうに、俺に対して今迄の鬱憤を晴らすかの様に叫ぶ。その言葉を受けて、俺は俯く。
「なっ!? トニー様! お兄様に対してなんということを仰るのですか!?」
パトリシアが焦った様子で、俺を庇う。そしてトニーへと抗議する。パトリシアには悪いが、トニーの戯言で俺は何も傷ついてはいない。俯いたのは、トニーの愚かさに笑いを堪える為である。だが、俺の容姿の所為で優しいパトリシアには、『トニーの言葉で心を痛めているお兄様』という風に見えているのだ。
「五月蠅い! 事実だろう! ノエルが、グラッカルド伯爵家の恥晒しだと皆知っているぞ!? その年で学院にも通わず、屋敷に引きこもり! 魔法も使うことが出来ない病弱だ! それを役立たずの恥晒し以外の何だと言うのだ!?」
「……うっ……」
トニーは世間一般から見た俺の評価を口にする。元義弟の言うことは正しい。そう思われる様に俺が仕組んだことではあるが、俺の思い通りの見解になっていることは嬉しく思う。俺は頬が緩むのを感じ、口元を手で抑える。
俺の後ろに控えているジェイドが呆れている気配を感じるが、関係ない。
「……っ! お兄様っ!? トニー様! それは、お兄様の所為ではありません! お体が弱いのは仕方がありません……」
俺の様子にパトリシアが、短い悲鳴を上げた。心配をさせて申し訳ないが、俺は頗る健康体であり魔力も潤沢である。だが、俺は紅茶をゆっくりと飲んで過ごしたいのだ。
「いいのです。パトリシア……」
「お兄様!?」
顔を上げると俺は心配をするパトリシアを止める。
「トニー様が、仰ったことは事実です。私がグラッカルド伯爵家の恥晒しだと言われてしまっても仕方がないでしょう……」
俺はトニーの言葉を肯定する。紅茶をゆっくり飲み日々を過ごしたい為に、病弱なフリをしているのだ。グラッカルド伯爵家の恥であるのは事実である。
「で、ですが……お兄様……」
パトリシアは不安気に菫色の瞳を揺らす。
「ははは! 分かっているじゃないか! ノエル本人がそう自覚しているのだ! 分かっていないのはお前だけだ! パトリシア! さあ! 裁判で! お前の罪を病弱な兄の前で晒してやる!」
「……っ!?」
侯爵令息とは思えない、下品な笑い声を上げるトニー。実に悪役らしい態度である。そして再度、裁判をすることを告げた。するとパトリシアが顔を青ざめる。それも無理はないだろう。この世界での『裁判』は事実上、有罪なのだ。
この世界の『裁判』は現代社会の裁判とは大きく異なる。『裁判』が開かれるのは、その罪の真偽を確かめる為ではない。只、罪人を晒して責め立てるだけの場である。罪人だと決定しているからこそ『裁判』を開き、監獄へと送る前に罵詈雑言を送るのだ。前世の記憶がある俺からすれば、『裁判』とは名ばかりであることがよく分かる。この世界の『裁判』は特殊なのだ。
このおかしな『裁判』は御伽話に由来があるのだが、傍迷惑な仕組みである。
「それに関してなのですが……私にパトリシアの弁護をさせていただけないでしょうか?」
俺はパトリシアの弁護を申し出た。
「……はっ、本気か?」
「お、お兄様!?」
トニーは嘲笑を浮かべながら俺を見る。そしてパトリシアは驚きの声を上げた。彼らの反応は仕方がない。一般的に『裁判』にかけられる、罪人に対して『弁護』は存在しないのだ。その為、『裁判』においての『弁護士』もこの世界には存在しない。
勿論、過去には罪人とされる者たちの無罪を信じて、『弁護』をした者たちが居た。だが、幾ら無実を訴えても最終的に『判決』が言い渡されれば、罪人と共に監獄送りとなるのだ。罪人を『弁護』した者も同罪とされる仕組みである。
そもそも、『裁判』が罪人を晒して責め立てるだけの場である為、いくら『弁護』をしたところで無駄なのだ。完全に焼け石に水である。『弁護』が無駄であり、自身も罪に問われるのが分かっているのならば『弁護』をする者など居ない。
その様な歴史がある為、『裁判』で『弁護』を申し出ることは自殺行為である。
「ええ、勿論、本気です。私はパトリシアの無実を信じております」
俺はトニーの言葉に、強く頷く。
「ははは!! グラッカルド伯爵家の恥晒しが、更に恥を晒すか!! 良いだろう! ノエル、お前をパトリシアの『弁護』をすることを認めてやる!!」
「ありがとうございます」
トニーは俺の返事に対して、実に愉快だと声を張り上げた。それに同調する様に周囲からも、俺を笑う声が上がる。それらを無視して、俺は一礼した。今のうちに笑えるだけ笑うがいい。
「さあ! ハンジェン裁判長! 『裁判』を始めろ!!」
絶対的な自信があるトニーは、用意しておいたであろう裁判長に声をかける。
「は、はい! これより『裁判』を『開廷』します!」
呼ばれた裁判長は、手にした木槌を打つ。すると魔法が発動し、パーティー会場を法廷へと変えた。
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