第二話 パーティー
「不味いな、もうパーティーが始まっている」
夜空の下。馬車から降り、パーティー会場へと入る。パーティーが行われているのは、パトリシアの婚約者であるトニー・メライン公爵令息の実家。メライン公爵邸だ。予定時刻よりも、大幅に遅れての到着となった。
「ノエル様が、中々起きないからですよ」
後ろを歩く、ジェイドが小言を呟く。案の定、俺は昼寝から中々起きることが出来なかった。ジェイドが起こしにくることは分かっていたので、結界魔法を使用しておいた。その為、結界魔法が破られるまで目を覚ますことがなかったのだ。
強く張ったつもりはないが、結界魔法を破るとはジェイドはゴリラである。
「僕は! パトリシア・グラッカルド伯爵令嬢との婚約破棄を告げる!」
パトリシアを探していると、会場の中央から男の大声が響いた。視線を向けると、妹のパトリシアを指差す狼藉者の姿が目に入る。婚約者であるトニー・メライン公爵令息だ。いや、今しがた婚約破棄を告げた為、元婚約者の愚か者である。
「な、何故ですか!? トニー様!?」
「何故だと!? 愚かだな! パトリシア! 君が僕と歴史あるメライン公爵家に相応しくないからだ! 自分の日頃の行いを思い出せばわかるだろう!?」
驚愕しながらも理由を訊ねるパトリシア。しかし、トニーは随分と曖昧な理由を告げる。俺から言わせれば、トニーこそパトリシアに相応しくない。
「そ、そんな……この婚約は、グラッカルド伯爵家とメライン公爵家で決めたことです! それを婚約破棄するなんて……」
「五月蠅い! 黙れ!!」
婚約破棄が何を意味するのか、理解しているパトリシアは顔色を悪くする。それが自然な反応だ。だが、愚かなトニーは怒鳴り声を上げた。彼は何も現状を理解していないようだ。そうでなければ、この様な反応は出来ない。いや、そもそも婚約破棄など言い出さないだろう。
「……っ!?」
「お前の愚かな行いの数々には飽き飽きだ! こんな者が婚約者だったなんて、恥ずかしい!!」
トニーの反応にパトリシアは口と閉じる。俺としてもこのような浅はかな者が、パトリシアの元婚約だったとは嘆かわしいことだ。グラッカルド伯爵家とメライン公爵家同士で決められた婚約の為、俺も介入はしなかった。どちらにせよ、ゲームの展開ではトニーが婚約破棄するのだ。
今しがたパトリシアが婚約破棄された。だが、その前から俺はグラッカルド伯爵家の跡取りをパトリシアにと考えていた。それは、トニーが婚約破棄をすることを事前に知っていたからだ。加えて、俺はゆっくり紅茶を飲んでいたい。パトリシアには良い婿を迎えてもらい、実家を継いでもらいたいのだ。
「お待ちください! 私には身に覚えのないことで……」
「悪行の自覚がないというのか!? 本当に悪女だな! お前は!! こちらには、パトリシア! お前の悪事を証明する証拠と、証人たちがいるのだ!! 逃れられると思うなよ!?」
無実を訴えるパトリシアだが、トニーは自信満々に証拠と証人たちが居ると告げる。すると、数人の男女が群衆の輪から歩み出た。その誰もが、パトリシアに悪意ある視線を向けている。
「……本当に私には、咎められる謂れはありません! ご説明をお願い致します!」
トニーの脅しに対しても、パトリシアは動じない。トニーに対して無実を訴える。真っ直ぐで芯が強いのが、パトリシアである。流石は妹だ。このまま、放置しても彼女自身で解決出来そうな勢いである。
「いいだろう。ならば……裁判だ!!」
責められても屈しないパトリシアに対して、業を煮やしたトニーが最終手段を叫ぶ。
「少し宜しいでしょうか?」
俺は二人の間に足を踏み入れた。




