第十五話 『裁判』⑪
「は? 誰だ? こいつは?」
トニーは怪訝そうな表情を浮かべると、不躾にも俺の隣に立った彼を品定めする目線を送る。無知とは恐ろしいものだ。
「……っ!? なっ、何故、貴方様が! このような場所に!?」
今迄我関さずという姿勢を貫いていた、ハンジェン裁判長が悲鳴に近い叫び声を上げた。その表情には動揺と焦り、そして恐れが現れている。偶然にも出会った彼の存在がそうさせているのだ。愉快なことこの上ない。
「ハンジェン裁判長? 何を狼狽えているのだ? あの男と知り合いか?」
「……っ!? トニー様?! ブランジェンド王都支局長をご存知ないのですか!?」
トニーがハンジェン裁判長に、男性に関して尋ねる。すると青い顔でハンジェン裁判長は、男性の正体を口にした。そうである。俺の援軍はグラハム・ブランジェンド王都支局長だ。この世界の『裁判』は『教会』が管理しているのだが、『聖都』を除けば王都支局長はかなりの地位である。新聞や魔法放送などでも、グラハムの姿は知られている筈だ。そのグラハムを『あの男』呼ばわりしたトニーはある意味で大物である。
「なっ!? 何故、王都支局長ほどの方がここにいらしたのですか?」
ハンジェン裁判長の言葉に、瞠目するとトニーは疑問を口にした。
「ノエル様に呼ばれたので来たまでのことだ」
グラハムはトニーたちに無関心な目線を送る。
「……っ!? 『教会』の王都支局長をお呼びするとは何を考えている!? 愚妹が『罪人』であるのは確定事項だ!」
トニーは俺がグラハムを呼んだことを非難する。王都支局長という予期せぬ援軍に、動揺しているようだ。
加えて、深みのある青い髪に金色の瞳を持ち、容姿端麗な上に頭脳明晰であり立場ある人間だ。そんな人物から、無関心な視線は屈辱的なのだろう。再びパトリシアを『罪人』だと主張する。
「……先ずは、ハンジェン裁判官。君はメライン公爵領地の『裁判官』だ。何故、王都で『裁判』を開廷している?」
グラハムはハンジェン裁判長の存在について疑問を投げかけた。『教会』にはそれぞれ支局が存在する。そして『裁判』を管轄する地域が割り当てられているのだ。ハンジェン裁判長は、トニーのメライン公爵領地の担当である。だが、此処は王都にあるメライン公爵邸だ。『裁判』を開廷するには、王都支局の管轄にある。そして王都支局長であるグラハムに伺いを立てるのが筋だ。ハンジェン裁判長が、王都で『裁判』を開廷することは管轄権を侵害する行為である。
「ひっ! そ、それは……」
グラハムの鋭い視線と低い声に、ハンジェン裁判長は情けない声上げた。ハンジェン裁判長が、王都で『裁判』を開廷した理由は明白だ。メライン公爵の令息であるトニーに頼まれ、見返りを受け取る為である。領主と『裁判官』が『仲良く』していることは、お互いに有益だ。領主は邪魔な人間を『裁判』により『有罪』にすることが出来る。そして『裁判管』は領主から庇護とお礼を受け取ることが出来るのだ。腐れ切った者同士による『仲良く』など吐き気がする。
俺のように地道に頑張っている人間を尻目に、楽をして地位も権利もお金も手に入れようとしているのだ。ましては、俺の細やかな夢の希望であるパトリシアを『有罪』にしようと目論むなど、許し難い。ハンジェン裁判長は苦しそうな表情を浮かべているが、悪事の片棒など担ぐからいけないのだ。




