第十四話 『裁判』⑩
「ぐっ! 違う! 私ではない! この私がカジノになど通うわけがないだろう!?」
アンディー教員は噂話の、証拠の映像に対して否定する。それしか出来ないだろう。何せ、この場やり取りはこの場に居る人間たちと、魔法で映像が放送されている向こう側に知られている。カジノ通いが本当だと分かれば、学園の教員を解雇されるだろう。職を失う訳にはいかない、アンディー教員は必死なのである。
「では、この映像については如何、ご説明をいただけるのですか?」
俺はアンディー教員に一番近い、水球指差さす。今もアンディー教員がカジノに通っている映像は流れ続けている。
「皆様! 騙されてはいけません! これはノエル・グラッカルドが魔法で作り出した偽物の映像です! 『罪人』の妹から、話題を私に逸らそうとしているのです! 騙されてはいけません!!」
アンディー教員は俺の言葉に対して、証拠の映像が偽物であると主張した。この状況から逃れるには、俺が提示した都合の悪い証拠品を偽物とするのが一番の手段である。そうすればカジノ通いという事実も、それを知っている俺も同時に葬り去ることができるのだ。
「そ、そうだ! アンディー先生がカジノに通っているなど、有り得ないことだ! 何か変だとは感じていたが、まさか証拠の映像に偽物を用意してくるとは! ノエル! 卑怯な真似をしたな!? 矢張り、愚妹が『罪人』だとこうなるのだな!!」
続いてトニーが、生き生きと大声を上げる。アンディー教員の発言により、映像が偽物だと信じているのだ。先程まではアンディー教員がカジノ通いを知り、意気消沈していた。それなのに、偽物発言により息を吹き返すとは現金なことである。悪事を目論む者は神経が図太い。
「この映像は偽物の映像などではありません。正真正銘、アンディー教員がカジノに常習的に通っている証拠映像です」
俺は水球に映した映像が、偽物ではないことを主張する。証拠品を捏造するなど、するわけがない。捏造や偽物を用意すれば、必ず綻びが生まれる。それでパトリシアの『無罪』を獲得しても、その綻びが再び『有罪』へと繋がる可能があるからだ。
そうでなければ、必死に証拠品を探して集めることなどしない。魔法で何でも作った方が格段に楽だからだ。
「黙れ!! お前の言葉など信じられるものか! この噓つきめ!」
トニーは怒鳴り声を上げ、俺の言葉を強く否定する。
「…………」
真偽を確かめないまま、一方的に俺を噓つき呼ばわりするのは軽率な判断だ。だがそれを考える余地すら、トニーの頭にはないのだろう。流石はパトリシアを『裁判』により断罪しようと目論むだけのことはある。
「そもそも、病弱で家に引きこもっているお前が! 何故、このような映像を持っている!? この映像を持っている時点で、ノエルが魔法で作り出した偽物であるという証拠だ!!」
トニーは、俺がアンディー教員の映像を持っていることに疑問を持った。そのことを指摘するのは、正しい反応だ。確かに、病弱を装っている俺が、事前にアンディー教員の行動を監視し記録しているのは不可解である。それ故に、俺がアンディー教員のカジノ通いの映像を魔法で作り出したと主張したいのだ。盲目的になっているトニーにしては、及第点の指摘である。
「嗚呼、それは……この子たちが教えてくれました」
俺が右腕を伸ばすと、白い鳩が三羽留まった。
「その鳥がなんだというのだ!?」
トニーは鼻で笑うと、鳩たちに対して冷笑を浮かべる。彼らの正体を知らないからこその態度だ。
「屋敷で寂しくしている私に、この子たちが色々と映像を見せてくれました」
俺はトニーの質問に答えながら、鳩たちを順番に撫でる。健康体であるが、俺が屋敷で寝転んでいるとベランダに会いに来てくれる友人たちだ。ある日の出来事から、定期的に会いに来てくれるようになっている。彼らの出会いは偶然だが、俺には大変優位にことが運んだ。
「はっ! 鳥なんかの映像を見て、それがなんだと言うのだ!? 暇な奴だな! そんな鳥の映像が証拠など笑える! 偽物の映像を提示した言い逃れをしようとしているのか?!」
トニーは鳩が提供した映像に関して、俺が責任転嫁を行うためだと声を張り上げる。あくまでも仮にだが万が一にでも、俺に非があるような事態が起きても、動物の所為にするほど落ちぶれていない。鳩たちの視線も冷ややかである。
「では、私が偽物の映像を提示していないことを証明いたします」
俺はトニーの反応を無視すると、淡々と告げた。
「はぁ!? 如何やって証明するのだ!? アンディー先生が偽物だと言っているのだがから、それで十分じゃないか!? それに鳥が見た映像のどこに信憑性があるというのだ!!」
トニーは偽物の映像だと決め付け、俺の主張を聞こうとしない。本当にパトリシアの婚約者が、トニーでなくなったことは良かった。視野が狭すぎるのだ。
「こちらの方に、『鑑定魔法』をお願いします」
俺は隣に立った男性に視線を向けた。




