第十二話 『裁判』⑧
「……っ!? な、何を言っているのかね?」
50代半ばぐらいの男性が、驚愕した様子で抗議の声を上げる。彼がアンディー教員だ。まさかこの『裁判』において、自分の名前が呼ばれるとは予想していなかったのだろう。教員の給料の割には、随分と身なりの良い恰好をしている男である。
「大変興味深い噂話をお聞きしましたので、ご本人の意見をお聞きしたく思いました」
俺はアンディー教員の反論に淡々と答えた。
「まさか、そんな根も葉もない噂話を信じるのか!? そんな噂話を信じるなんて如何かしている! 私は学園の教員だ! 噂話の様なことはしていない!」
アンディー教員は必死に、俺の噂話を否定する。予想通りの反応だ。此処で自分の立場を悪くする噂話を認める筈がない。
「本当ですか?」
煽るように、俺はアンディー教員に否定した噂話を再度確認する。これは、ただアンディー教員を煽っている訳ではない。この噂話を強く否定するところを、周囲に見せつけたいだけだ。
「嗚呼! 本当だとも! 私がカジノなどに行くわけがないだろ!? こうは言いたくないが、『罪人』の家族なだけはあるな……ノエル・グラッカルド。君も出会う人間が違えば、もう少しまともな人間になれたかもしれないな……残念だ……」
アンディー教員は自身が、噂話のようなことをしていないと主張する。そしてパトリシアを侮辱した上で、俺のことを『まとも』ではない人間だと決めつけた。残念がる素振りを見せているが、本心ではないだろう。アンディー教員は俺の噂話を否定したい為、必死である。それ故に、俺が『まとも』な人間ではないと決めつけた上で、俺の発言に正当性がないと主張するのが重要なのだ。この噂話が本当に信憑性のない、ただの噂話だと決定しないとアンディー教員には大変都合が悪いのである。
「そうだぞ!? アンディー教員は素晴らしい方だ!! 俺に勉強を熱心に教えてくださったし、励ましてくれた!」
トニーはアンディー教員のことを素晴らしいと称賛した。その表情はアンディー教員を心から信じているようだが、哀れである。自信に満ちたその表情がこの後、どのように歪むか楽しみだ。
「では、この噂話は噓だと?」
俺は内心ほくそ笑みながら、静かに最終確認を口にした。此処でアンディー教員が急な心変わりを起こして、噂話に関して発言を変えてもいい。俺の手間が省けるからだ。だがそんなことは、皆無だろう。
「やれやれ……だからそう言っているだろう? 完全に誰かが創作した噂話だ。はぁ……君も学園で学べば、もう少しは賢くなれたかもしれないな……」
アンディー教員は首を左右に振ると、俺が噂話を信じている愚か者だと嘆く。誰が学園など通うものか、俺はのんびりお茶を飲んでいたいのだ。賢くなどなくていい。前世で学園生活は経験済みである。俺は細やかな望みを叶えたいだけだ。
「ほら見ろ! アンディー先生がこう仰っているのだ! いい加減に愚妹の『罪』を認めろ!!」
「そ、そうです! 話をすり替えようとしても無駄ですよ! その悪女が『罪人』であるのは事実です!」
トニーは、パトリシアの『罪』を認めるように急かす。そしてデロンも、トニーを援護するように声を上げる。すると彫像が動き出そうとするが、関節部分を凍らせている為動くことが出来ない。
「『創作した噂話』ですか……では、これをご覧ください」
俺は指を弾くと、俺は魔法を発動する。そして俺は無数の水の塊を呼び出した。




