第十一話 『裁判』⑦
「……っ!? このっ……」
トニーは言葉に詰まり、歯軋りをする。指摘が失敗したからだ。追い詰められたからといって、安い指摘などしない方がいい。大抵は罠であり、返り討ちに遭うからだ。今頃、トニーには身に染みているだろう。
「あ! ですが! 噂話は本当ですよ!?」
不意にデロンが明るい声を上げた。そして新たな情報を口にする。
「……噂話ですか?」
俺は首を傾げる。何か希望を見出した声色だが、噂話などに頼るなど情けない。証言で『罪』を立証することが出来なかったから、仕方がないだろう。本来ならば、その杜撰な証言でも『罪』となり、彫像の攻撃によりパトリシアは『罪』を認めるしかない。だが、俺とジェイドの介入により、それが阻まれた。
そのことにより、噂話という信憑性の低いものに縋るしかなくなったのだ。潔くパトリシアの『罪』を無かったと認めればいいものだが、己の非を認めることが出来ないのだろう。引き際を見誤るとは愚かだが、俺にとっては好都合である。
「そうです! その悪女の成績が常に首席なのは、試験用紙を盗んでいるからだと聞きました!」
自信満々にデロンが、噂話の内容を口にした。デロンは証言が失敗になり、後がないから必死である。この光明を逃す訳にはいかないのだ。トニーと何を約束したかは知らないが、利益を得られなくなるのが惜しいのだろう。
「そうだ! その噂話なら、僕も聞いたことがある! 耳にした時は驚いたが、納得した! 火のない所に煙は立たぬ! デロンが見ていない所で、試験用紙を盗んでいたのだ!!」
デロンの発言に活路を見出したトニーが、生き生きと叫ぶ。これでパトリシアの『罪』に出来ると、思っているのだ。浅はかな考えである。『裁判』まで用いて、パトリシアを断罪しようとしたというのに、この程度とは呆れてしまう。
「噂話と言えば……アンディー教員は、賭け事がお好きのようですね?」
俺はトニーの発言を完全に無視する。そして、ある噂話を口にした。
「は!? ノエル? 何を言っている!? 品行方正はアンディー先生が賭け事をする訳がないだろう!? 言い返せないからと言って、尊敬すべき先生を侮辱するのは止めろ! ああ! お前は学園にも通うことが出来ない無能だったな! アンディー先生の素晴らしさを知らないとは可哀想に!!」
トニーは、アンディー教員を擁護する言葉を吐く。盲信的に教員を信じているのだ。疑わないことは美しさではない。無知で愚かしいことこの上ない行為だ。
「アンディー教員は、家賃の滞納が続いていたようですね。それから、近隣住民からは、カジノに通う姿も目撃されていました」
「なっ、何を言って!」
俺は淡々とアンディー教員について述べる。だが、トニーは文句を言う。
「しかし不思議なことに、半年前から家賃の滞納が無くなりました。そして以前よりも、カジノへ足繫く通い始めた。これは一体どういうことですか? アンディー教員?」
俺は会場に居るアンディー教員へと顔を向けた。




