第十話 『裁判』⑥
「っ!?」
デロンは俺の言葉に瞠目する。俺が何も知らずに、此処に来たと思っていたのだろう。残念ながら、それは大間違いだ。俺は俺の崇高な目的を果たす為に、妹のパトリシアを助けに来た。何も準備をしていない訳がない。寝る間を惜しんで準備にあたっていたのだ。
「如何かなさいましたか? おや、デロンさん。顔色が悪そうですが……嗚呼、もしかして教員室からパトリシアが出て来た理由を知らずにいたのですか?」
俺は涼しい顔で、驚愕するデロンに話しかける。首を傾げると、俺の髪が揺れた。
「そっ……それは……あ、あれだ! 教員室には許可が無いと入ってはいけないのですよ!?」
焦った表情で、デロンは教員室の許可について言及した。何とも陳腐な指摘である。ここは学級会だろうか?パトリシアの人生が掛かっている場だというのに、言い訳も儘ならないとは呆れる。
「説明不足で申し訳ございません。パトリシアは同じクラスのご令嬢が、病欠された為その日の授業のプリントを教員室に取りに行ったそうです。教員の方に頼まれたからです。そのことは、パトリシアから魔法手紙で知らせを受けています。この手紙には、頼んだ教員の方からの言葉も書かれています。日時の記録もあります。必要とあれば、ご友人と教員の方に確認をすることも可能性ですよ?」
俺が右手の中指と親指を弾き、魔法を発動させる。そして一通の封筒を出現させた。それはパトリシアから学園から、帰宅する際に送られてきた手紙である。トニーがパトリシアに婚約破棄を告げ、『裁判』にかけ『有罪』にすることは分かっていた。
だから、パトリシアには、学園から帰宅する際には連絡することを頼んでいたのだ。魔法手紙は送り主の魔力と日時の記録が残る。何を理由に、パトリシアを『有罪』にしようとしても、証拠と可能性がなるからだ。
「だ、だが……」
デロンは俺が、パトリシアの無実の証拠品を持っていると知ると、更に顔色を悪くさせた。魔法手紙だけが証拠ではない。授業のプリントを渡すように頼んだ教員、渡された令嬢の証言もこちらにはある。更には、プリントを届けた令嬢宅から送られてきた、魔法手紙もあるのだ。パトリシアが抱えていた封筒は、授業のプリントである証拠品は揃っている。必要とあれば、渡したプリントの魔力検査をすることも出来るのだ。この世界では、触れた物質には魔力が微力ながら残る。前世での指紋に近いものだ。
「それから、学園の規則に教員室への入室を禁じる学則はありません。学園には、貴族のご令嬢とご令息が通っていいます。わざわざ、学則で禁止することもないからでしょう。後、パトリシアは教員の方から許可を得て入室をしています。ご心配には及びません」
俺は敢えて追加の証拠品の提示はせずに、学則に関して言及した。追い詰められていない状態で、無駄に証拠品を提示する必要もない。
「……うっ! えっと……」
「ノエル!! 何故、学園に来たこともないお前がそれを知っている!?」
デロンが言葉に詰まる。すると、見かねたトニーが口を挟む。その表情は一段と必死である。それは仕方がない。パトリシアの『罪』に対しての、証言が不成立になったのだ。焦って当然である。
証拠品に関してではなく、俺が学則を知っていることに文句を言う。証拠品に関しては、否定することが出来ないと察したのだろう。代わりに、俺が情報を得る為に、不正を働いている可能性にかけているのだ。俺が情報を不法に手に入れていたら、そのことを理由に証拠品の効力を無効化しようとしているのだろう。愚かしいことだ。
「ご安心ください。パトリシアから、学生証を借りました。それに、入学の際に保護者に向けての手引きに書かれていましたよ?」
俺は再び、右手の中指と親指を弾き、魔法を発動させる。そして学生証と、手引きを右手に出した。




