崩壊
ある日、空が裂ける。
黒き裂け目から溢れ出したのは、理性なき“魔物の群勢”。
そして、その中心に立つのは一人の男。
カイラス・ヴェイン。
かつて英雄と呼ばれ、そして今や“魔王”と畏れられる存在。
彼が手にしていたのは、エルフと人間の技術を融合させて作られた異形の剣。
それは結界そのものに干渉し、グランタニアを守り続けてきた大魔法を、紙を裂くように断ち切った。
結界は崩壊した。
長きにわたり続いた平和は、その瞬間に終わりを告げる。
魔物たちは雪崩のように国へと侵入し、かつての楽園は悲鳴に満ちた戦場へと変わっていった。
国王ヴィクトールは最後まで玉座に立ち、剣を抜く。
王妃セシリアもまた、娘たちの未来を守るために魔法を紡いだ。
だが、魔王の力は圧倒的だった。
王は倒れ、王妃もまた慈愛ごと踏みにじられるように命を散らす。
残されたのは崩れゆく王城と、絶望だけだった。
そして――
ヴィオレッタとエリノアは決断する。
ただ一人、まだ守られるべき存在がいることを知っていた。
第三王女、アリシア・オサ・グランタニア。
「必ず、生きて」
涙を浮かべながら、二人は彼女を秘密通路へと押し込む。
王族だけが知る、最後の逃走路だった。
背後から迫る足音。
魔物の咆哮。そして、すべてを終わらせる“魔王”の気配。
ヴィオレッタとエリノアは振り返る。
それが、最後の別れだった。
二人は魔法を構え、迫る影へと向き合う。ただ一瞬でもいい。
この少女が生き延びる時間を稼ぐために。
――そして、光が消えた。




