2 裏生徒会
下校時間。まだホームルームが終わってから時間が経っていないためか、友達同士で話をする者が多く教室はにぎやかだ。
一層にぎやかなのは、窓際の一番前の席。私の列の先頭だ。
「イリコ君、今日みんなでカラオケ行くんだけど、イリコ君も一緒に行かない?」
甘ったるい声で一人の女子生徒がイリクに声をかける。
今日も幼馴染は大変だなと、他人事に思いながら、私は勉強道具をしまう。
「よくあんなのに声かけるよな。」
「危機感ってものがねーのかよ、あいつら。」
すぐ横の席でそんな話が聞こえた。これは、イリクの能力のことを言っているのだろう。昨日のような周囲の認識をいじる以外にも、人の心を読めるという能力をイリクは持っている。その能力は高く、それゆえに恐れられ、このように言われてしまうのだ。
誰だって、自分の心の内を無断で見られるのは怖いはずだ。だが、イリクは勝手にそんなことをしたりしない。
わずかにいら立つ私の肩に手が置かれた。
「リア、支度は終わった?」
「うん。」
「なら、行こうか。」
私はカバンを持って、先に行くイリクの後をついていった。その時、また話声が聞こえた。
「あれ、絶対読まれたよな。」
「あぁ、肩にわざわざ触れていたしな。よくあんなのと一緒にいられること。」
「心が読めれば、女の扱いだってお手の物なんじゃないか。」
「うわー。うらやましい限りだな。」
「リア。」
名前を呼ぶイリクに頷き、私は教室を出た。
「ああいうのは、一定数いるな。尊敬されたり、怖がられたり。全くエスパーも楽じゃないよな。」
「・・・イリク。」
「いつものことだろ。あぁ、それとも・・・本当に読まれたと思った?」
冗談交じりに言ったイリクは、笑っていなかった。私は、そんなイリクの顔を見て、首を振り、彼の裾を掴んだ。
「イリクが必要もないのに心を読むわけないよ。それに、見たいなら見れば?別に隠すこともないしね。」
「・・・だよなー。うん、ありがとう。」
イリクは笑って、私も笑い返した。
「ちょっといいかな、イリク君。」
声をかけられ、そちらを見ると同学年の男子生徒が近づいてきた。
「ん、なんだ?あーあと、俺のことはイリコでいい。みんなそう呼んでいるし。」
「わかった。イリコ君。ちょっと君に話があって・・・来てもらえないだろうか?」
「話?んー」
ちらっと私を見たイリクは、すぐに視線を戻すと、私と一緒ならいいと言った。
「彼女か。・・・彼女なら大丈夫だろう。こっちに来てくれるか。」
「わかった。いこう、リア。」
「うん。」
空き教室に連れてこられた私たちは、立ったまま本題に入ることになった。
「実は、俺たちの集まりに参加して欲しいと思っている。俺たちは、『裏生徒会』だ。」
「裏生徒会・・・なるほどね。」
まさか、本当にあるとは思っていなかったその名に驚く。ただの噂話だと思っていた。その噂話とは、超能力者による超能力者のための組織がある。その名を裏生徒会という。現状の超能力者への待遇に不満を持ち、能力至上主義らしい。
「名前は聞いたことがあるようだな。俺たちは、今の超能力者の待遇に不満を持っている。能力の使用制限、大会などの出場権利のはく奪。細かいことを言えば、同じ人間なのに化け物のように扱われたりとかな。覚えはあるだろ?」
覚えがある。それもついさきほど。
「確かにそうだね。で、お前たちはどういう活動をするわけ?」
「・・・それがな。俺たちの組織は、特に活動という活動を行っていないんだ。」
「うん、そうだと思った。今までお前たちが何かをしたって話は聞いたことがないからね。」
「それで、イリコ君に仲間になってもらいたいのだ。君は、能力だけでなく頭もいいし、ぜひ活動内容を考えてもらいたい。俺たちも3年生、今年が最後のチャンスだ。このまま何もしないままでは、集まった意味もない。」
「よく理解したよ。そうだね、最後のチャンスだね・・・頑張ってくれ。」
イリクはそう言うと、話は終わったとでもいうように扉に向かった。
「ま、待ってくれ!お願いだ。俺たちの仲間に入ってくれ。君も俺たちと同じ超能力者で、不満もあるはずだ。それは、社会に出たって変わらない。」
確かに、学校とは小さな社会。学校ですらこうなのだから、本当の社会に出たって変わらないだろう。
「だからだよ。」
イリクは振り返ると冷めきった顔で男子生徒を見た。
「何も、変わらない。ウチらが動こうが動かまいが、何も変わることなんてないよ。どんな活動をしようが・・・たとえ、この学校の意識を変えたとして、社会の意識が変わるわけじゃない。」
男子生徒はその言葉に首を振った。
「結果を出すだけに意味があるわけじゃない。その過程も大事だと俺は思う。たとえ、結果が出せなくても、同じ目標に向かって仲間たちと共に努力した。その過程が、今後社会に出る俺たちの心を少しでも支えてくれると、俺は思う。」
「思うって・・・お前が思っているだけじゃないか。」
その言葉に男子生徒は黙り込んで、悔しそうに肯定した。
イリクは手を顎に持って行った。彼が考え込むときはいつもこうだ。考えるということは、彼にとってこの誘いに興味を持ったということだろう。
そんなイリクが私をちらりと見た。私も彼を見つめ返して、どうするのかと聞いた。
「そうだな・・・仲間になってもいいが、条件がある。」
その言葉に男子生徒は目を輝かせた。
「何でも言ってくれ。君がトップになりたいのならその座も譲ろう。」
今の言葉だと、どうやら彼はトップのようだった。その言葉を聞いたイリクはすごく嫌そうな顔をして、やめてくれと言った。
「ウチはトップにならない。それも条件だ。ウチはアドバイザー・・・ま、裏生徒会のブレインって感じでいい。それで、あと条件が2つある。」
「わかった。君の実力は誰もが認めるが、いきなりトップだと荒れるかもしれないから、その方が助かる。」
「だろうね。で、もう一人仲間に入れて欲しい。」
「別に構わないが・・・能力者か?能力者じゃないと、少し居心地が悪いかもしれないが。」
「能力者だ。そこにいるリア・・・ツァリアだ。」
いきなり名前を呼ばれた私は目を見開いた。名前を呼ばれたことではなく、超能力者であることをばらされたからだ。
「イリクっ!」
「君も能力者だったのか。全く知らなかった。」
それはそうだろう。隠していたのだから。超能力者がつらい思いをしているのは、イリクやあの生徒会長・・・リディと一緒にいたから知っている。
「リア。どうせ調べればわかることだろ?それで、最後の条件だが、彼女の能力について詮索しないで欲しい。」
「なるほど。わかった。ただ、その条件だと、彼女が非能力者だと思う者もいて、居心地は悪いと思うが・・・」
男子生徒は私を見て、心配そうな顔をして、大丈夫かと聞いてきた。
「そんなこと気にしないけど・・・イリクには何か考えがあるの?」
私の問いに、イリクは笑顔を浮かべて頷いた。それなら仕方がないと、何も反論はしなかった。
「決まりだ。今日からよろしく・・・トール。」
「あ、あぁ。よろしく、イリコ君。俺の名前知ってたんだな。」
「呼び捨てで構わない。」
「そうか。なら、イリコ、それにツァリアさん。これからよろしく。」
「うん、よろしく。私もリアで・・・」
「それはだめだから。」
私がリアでいいというのを遮ったイリクは、なぜか怒っているようだった。
「えーと・・・ま、よろしく。ツァリアさん。」
「うん。」
こうして、私たちは「裏生徒会」に入ることとなった。




