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「あら、奇遇ね、二人とも」
汐織は、ツンと澄ました態度で振る舞い、二人に声をかけた。
「うっ、汐織…」
春明は苦虫を噛み潰したような顔になる。
和は明るく、いつもどおりに春明に駆け寄って、
「春明くん、檸檬ちゃん、一緒に座ってもいいかな?」
春明は和に振り向くと、汐織に対する表情から一変して、緩み切った顔で和に答えた。
「もちろんだよ」と言って、席を詰める。
檸檬もこくこくと何度も頷いて、席を詰めた。
春明の隣には和、檸檬の隣には汐織が座った。
汐織と和は、ドリンクバーを頼んで、それぞれジュースを持ってきた。
汐織がジュースを一口飲んで、それから春明に話しかけた。
「二人とも、すごく盛り上がってたみたいだけど、なんの話をしていたのかしら?」
春明は嫌々といった風に答える。
「別に…ゲームの話だよ…」
檸檬も話を合わせるように、こくこくと頷く。
和が身を乗り出して口を挟む。
「和の家にある、ゲームのことでしょ?」
「そうだよ。この間、堂島さんにそのゲームの攻略本を借りてね。それで俺も俄然興味が湧いてきてさ、堂島さんに色々と聞いてたんだよ」
「そうなんだぁ、また今度、和の家に皆集まってゲームしようねぇ」
春明は一瞬ちらりと汐織を見てから答えた。
「そうだね…また今度ね」
四人の間に沈黙が満ちる。周りの喧騒だけが引っ切り無しに聞こえる。
春明と汐織は口を固く一文字に結んで、自分から話す気配はまったくない。
和は不安そうにきょろきょろと二人を交互に見る。
檸檬は黙ってジュースを飲んでいる。視線をちらちらと二人に向けている。
しばらくしてから、和が沈黙を破る。
上擦った調子の声だった。
「あ、あのさ、今度の土曜日また家に集まらない?」
春明と汐織は、黙ったままそっぽを向いている。
和は助けを求めるような視線を檸檬に送る。
檸檬もそれに気づいて何度も頷いて同意する。
「…私も、またみんなで集まりたい…」
檸檬は春明に向き直って、
「…春明くんとゲームがしたい…」と身を乗り出して念を押した。
檸檬の迫力に春明はたじろいだ。
「で、でもなぁ…」
「…ね、春明くん…対戦、しよう…」
春明は押し切られて頷く。
「う、うん。いいよ。俺も対戦したいと思ってたし…」
汐織がふんっと鼻を鳴らす。
そんな檸檬と春明の様子が面白くなかった。
今度は和が汐織に話しかける。
「ね、汐織ちゃん、和ね、汐織ちゃんに料理教えてもらいたいと思ってたんだ」
「ふぅん…」と汐織は努めて気の無い風に答えた。
「お願い、ね?和、料理のレパートリー増やしたいの」
和はテーブルに身を乗り出して汐織をのぞき込む。
「また二人で料理したいな…」
和はうるうると瞳を潤ませている。
「わ、わかったわ…」
和はぱあっと表情を明るくして叫ぶ。
「やったぁ!」
和はぱたぱたと脚を動かしている。
ふと、春明と汐織の視線が交わる。
二人はぷいっと顔を反らした。
汐織が窓の外を見ながら話し始めた。
「春明と堂島さん、最近仲がいいみたいだけど…」
春明は飲んでいたジュースでむせた。
「ごほっごほっ、急になんだよ…」
檸檬は頬をほんのり赤くして俯いている。
「最近よく一緒にいるみたいだし、こうやって二人で出かけてるみたいだし」
「別に、友達として普通だろ。そんなことぐらい…」
「そうかしらね…」
汐織は含みを持たせて言った。
春明はそんな汐織の態度に、少し腹が立った。
「なんだよ…それ」
場が険悪な空気に包まれる。
汐織は攻めるような調子で話し始める。
「だって放課後、和の誘いを断ったのに、二人でお茶なんかしてさ」
「なに突っかかってんだよ、お前」
「別に突っかかってなんかいないわよ」
あわてて和が間に入る。
「二人ともやめよう、ね?和、全然気にしていないから」
和が間に入ったので二人は口を噤んで互いにそっぽを向く。
和と檸檬が目を合わせて頷く。
和が立ち上がって汐織に話しかける。
「それじゃ、汐織ちゃん、もう行こっか」
和が汐織の手を引っ張る。
「わわ、引っ張らなくても行くわよ」
「それじゃあね、二人とも」
汐織は和に引っ張られて、レストランを後にした。
レストランに残った、春明と檸檬は汐織と和が出て行ったのを確認すると、長いため息を吐いた。
「はぁ、また口喧嘩しちまったよ…」
「…ごめんなさい。私と一緒にいたせいで誤解されて…」
春明は慌てて手を振る。
「違うよ、堂島さんは悪くないよ。あいつが勝手に突っかかってきただけだから」
「…ありがとう、春明くん」
「そんな改まって言わなくても」
春明は照れて頭をぽりぽりと掻く。
「それにしても」と春明は真面目な顔つきになる。
「それにしても、土曜日、和の家に行くって約束しちゃったけど…。大丈夫かな」
檸檬が両手を握りしめて、胸の前にかざす。
「…二人で話し合うチャンス」
春明は不安そうに首を傾げる。
「うまくいくかなぁ…。さっきだって、些細な事から喧嘩になったし」
「大丈夫、二人きりになれば、きっと落ち着いて話し合えるはず」
「そうかなぁ…」
「私と和も協力、するから…」
春明は檸檬の熱意に押されて、なんとか決心した。
「…うん、わかった。今度の土曜日、ちゃんと話し合ってみるよ」
檸檬は春明の返事を聞くと、ほっと胸をなで下ろした。
「和も、汐織さんに色々と働きかてるから…きっと大丈夫」
「そっか…ありがとう」
ふと、春明は携帯で時間を確認する。
「そろそろ家が心配だから帰るよ。母さん一人で参ってるかもしれないし」
「…私も帰る」
二人は立ち上がって、会計を済ます。
「それじゃあ、また明日」
「…また…ね」
レストランの前で二人は別れた。




