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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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翌日、放課後。

汐織は、ショッピングモールの近くにある街の図書館へと向かっていた。

夕方の道をひとり、歩いている。

ふと、前から子供達の集団が来る。

小学生にの女子一人と男子二人だった。

子供達は、汐織に気が付くと、指を指して叫んだ。

「あれ、もしかして汐織お姉ちゃん?」

汐織は子供たちの顔を見て思い出した。

「もしかして、春明の弟妹?久しぶりね。良く私の事、覚えていたわね」

子供達は、汐織のもとに集まって騒いでいる。

汐織と春明の弟妹らは、丁度、傍にあったバス停のベンチに座った。

汐織たちはなんでもない会話や、思い出話で盛り上がった。

ふと汐織は春明の事を聞こうと思い立った。

「そういえば、最近春明の様子はどんな感じ?」

弟の一人が首を傾げて、言葉をひねり出す。

「うぅんとね、大分疲れてるみたいだよ。バイトが終わって帰ってくると、少し家事をして、その後勉強して…。いつも草臥れた顔をしてるね」

今度は妹が話し始める。

「お仕事が無い時はずっと家事をしているし、あといつも片手にノートを持って暇さえあれば読みながら作業してよ」

 汐織は彼らの話を聞いて、しばらく黙り込む。

汐織は弟妹らの顔を見ながら思った。

――あいつも大変なのね…。

やっぱり私、やり過ぎたのかしら…。

それに…父の描いた『恋愛理論』を試そうと夢中になった、あいつの感情を考えてなかったかもしれない…。

やっぱり謝るべきだろう。

「汐織お姉ちゃん、どうかしたの」

ずっと黙っている汐織に、弟の一人がのぞき込んで言った。

「な、なんでもないわよ」

暫く他愛ないを話してから、汐織は図書館に向かった。



土曜日、夕方。

春明と檸檬、汐織と和はスーパーへ向かって歩いていた。

和はぴょんぴょんと嬉しそうに跳ね回っている。

汐織は、料理に使う材料を書いたメモを見ながら歩いている。

少し間を置いて、檸檬と春明が歩いている。

春明は少し緊張した面持ちでいる。

春明は、汐織になんと言って話を切り出そうか、その事で頭がいっぱいだった。

檸檬がそんな春明の様子を見て、その心情を察した。

「春明くん…そんなに思いつめないで…」

春明は檸檬に話しかけられて、少しどぎまぎして答える。

「あ、あぁ。わかってる、大丈夫だよ」

春明は強がって言った。

「…落ち着いて、正直に話せばきっと仲直りできるから…」

春明は僅かに落ち着きを取り戻した。

「うん…そうだね」

ふいと、春明は汐織のほうを見てやる。

楽しそうに話す汐織の姿があった。

汐織と和は料理の話で盛り上がっていた。

料理の話がひと段落して、短い沈黙がおとずれる。

和が沈黙破って話を始めた。

「汐織ちゃん、今日はいい機会だし春明くんと仲直りして欲しいな…」

さっきまでの明るい雰囲気から一変して、重い空気が満ちる。

汐織の表情は、硬く強張った表情に変わった。

汐織は返事をしないで、歩き続ける。

「二人でさ、正直に話し合えばいいと思うよ。いつまでもこんな状況じゃ、汐織ちゃんも疲れちゃうでしょ?」

汐織はしぶしぶと言った風に答える。

「それは…そうだけど」

「和も二人が喧嘩してると辛いの…。だからね、和の為とも思って…」

汐織は少しの間考えてから、前を向いたまま、

「…わかったわ」と小さく呟いた。

檸檬の表情が明るくなる。

「やった。それじゃあ、頃合いを見て和の家で二人で話し合う場を作るから、あとは汐織ちゃん次第だよ」

汐織はこくりと頷いた。


和のマンションに着いた頃には日が暮れかかっていた。

汐織と和はキッチンで料理をしている。

ぐつぐつと鍋にはお湯が煮えている。

汐織はエプロン姿で、和に指示をだしている。

「それ、もうちょっと細かく刻んでね」

「うぅん、難しいねぇ」

春明と檸檬はリビングで件の格闘ゲームをしている。

かちゃかちゃとコントローラーを操作する音が絶え間なく鳴っている。

「春明くん…そこは、もっと攻めてもいい…」

「…わかった」

四人はそれぞれの作業に集中していた。


日が暮れたころ、料理は完成した。

和と汐織がテーブルに料理を並べる。

ずっと前から空腹だった春明は、その料理をみて興奮した。

「すごいご馳走だね」

和が胸を反らして、誇らしげに言う。

「でしょ、和と汐織ちゃんの力作なんだから」

「それじゃあいただきます」

四人はそれぞれ手を合わせた後、食事を始めた。


食事が終わって、四人は食後のお茶を啜っていた。

四人は他愛ない話で盛り上がった。

そんな中、突然和が立ち上がった。

「そうだ、お茶菓子が切れているんだった。ちょっと買いに行こうかな」

和は檸檬に視線を送る。

「誰かに付き添って欲しいな…檸檬ちゃん、一緒に行かない?」

檸檬はこくこくと頷いて立ち上がる。

「それじゃあ、すぐ戻ってくるから。二人とも待っててね」

汐織は少し戸惑って、

「えっ、和、ちょっと」と呼び止める。

和と檸檬は逃げるように、部屋を出て行った。


部屋に残った春明と汐織の間に気まずい沈黙が満ちる。

二人は黙ったまま、お茶を啜る。

長い間、二人は動かない。

春明が先陣を切って話し始める。

「あのさ、例の練習のことなんだど…」

汐織はお茶をテーブルに置いて、春明を見つめる。

「…なによ」

春明は固唾を飲んでから、緊張した面持ちで話し始める。

「確かに汐織の指示に従うって言ったけど、もうちょっと俺の気持ちも考えて欲しいというか…」

「…うん」

汐織は頷いて、春明の言葉を待つ。

「だから俺も出来る限りは汐織の指示に従うけど、どうしても嫌なこともあるから、そこは俺の気持ちを優先して欲しい」

汐織は黙ったまま、春明を見つめている。

二人の間に沈黙が満ちる。

しばらくしてから、汐織が口を開く。

「…わかったわ」

春明はほっと胸をなで下ろし、表情も柔らかくなった。

汐織は少しの間、何かを考えているように俯いて、

「私からも言うことがあるの…」と春明に告げた。

春明はまた緊張した顔になる。

「まず、私がやり過ぎた事をあやまるわ。あなたも色々忙しいだろうし、無理を言ってごめんなさい」

汐織は頭を下げて謝った。

「それでね、練習の事なんだけど…」

汐織はそう言うと鞄から、一冊の本を取り出した。

「実は私の父が書いたこの『恋愛理論』って本をもとにしてノートを作っていたの」

汐織は春明にその本を渡す。

春明はその本をぱらぱらとめくる。

「正直に言うわね。その『恋愛理論』の内容がどこまで通用するか、あなたで試していたの…。本当にごめんなさい」

春明は黙って話を聞いている。

「でもね、今は違うの、純粋な気持ちで協力できるようになったわ。あなたへの協力を通じて二人も友達ができたし…。信じて欲しいの」

春明は少しの間、汐織を見つめてから口を開いた。

「わかった。信じるよ…。お互い友達が出来たのは嬉しい、四人で仲良くしたいからな」

「ありがとう…」

「今後も協力、お願いしてもいいか。嫌なことは嫌と言うけど、出来る限りは指示に従うからさ」

「…わかったわ。今度はやり過ぎないように注意するわ」

春明はようやく表情を緩ませ、

「ほんと頼むよ」と苦笑いしながら言った。

「わかってるわよ」とツンと汐織は言った。

二人の調子は普段通り戻っていた。

丁度その時、和と檸檬が帰って来た。

和がばたばたとリビングに駆けて来る。

和は二人の雰囲気から、仲直りしたことを察した。

和はにこにことして、檸檬に視線を送る。

檸檬も明るい表情で、頷いてそれに答える。

和はぱんぱんに膨れたスーパー袋をどさっと置く。

「二人とも、お菓子を買ってきたよ。皆でたべようね」

場の空気も明るくなり、汐織と春明も自然と笑顔になった。



翌日、昼休み。

晴れ渡った空の下、春明と汐織はいつもの校庭隅のベンチに座っていた。

春明はノートを持って、少し恥ずかしそうにそれを読み上げている。

汐織は、それを聞いて、あぁだこうだと指示を出す。

そんないつもの光景があった。

ふと、校舎から、駆けて来る二つの影があった。

それは和、檸檬だった。

二人はベンチまで来ると、

「春明くん、汐織ちゃん、私たちも練習見てもいいかな」と二人に言った。

「私はいいけど…」と汐織は答えると、春明の方を向く。

春明が頭をぽりぽりと掻きながら答える。

「ちょっと恥ずかしいけど…いい練習になるかな。見てってもいいよ」

「やったあ」と和が跳ね回る。

檸檬も興味津々と言った風に、春明を凝視する。

春明は少し頬を赤らめて、ノートを読み始めた。

昼下がりの静寂に、春明の声だけが一杯に響いた。


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