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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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翌日、昼休み。

春明は、昼休みが始まると、一人ですたすたと教室を出て行った。

和が汐織の席に駆け寄る。

「春明くん、行っちゃったよ。今日は二人で練習とかしないの?」

汐織は弁当を開きつつ、和に答える。

「そうね、色々あって暫くの間は練習はお休みね」

汐織は淡々と言った。

和は不思議そうに汐織の顔を覗きこむ。

汐織はその目線に少したじろぐ。

「汐織ちゃん、春明くんと喧嘩でもしたの?」

汐織は一瞬だけぴくりと体を動かしたがすぐに取り繕って、

「別にしてないわよ」

と吐き捨てるように言った。

「そっか、そうならいいんだけど…」

 和はまだ納得していないような表情だったが、二人はそれ以上話さず、食事を始めた。


 春明は一人で食事を終えると、いつものベンチの上で横になってまどろんでいた。

 晴れ渡った空から、木洩れ日が春明をちらちらと照らしている。

 風は青臭く、夏の近づきを感じさせる。

 春明の頭に、すずめの鳴き声が響く。

 まぶたが下がってきて、うとうとと寝入りそうになっている。

 ――気持ちがいい…。こうやっていると嫌な事を忘れられる…。

 「…春明くん」

 春明が眠りに落ちそうになった瞬間、春明の頭に声が響いた。

 春明は目を擦りながら、のっそりと体を起こす。

 誰だろうか、と春明は寝ぼけ眼で傍に立っている人影を見上げる。

 そこには檸檬が立って春明を見下ろしていた。

 「あ、堂島さん」

「…こんにちは」

 檸檬が律儀に挨拶した。

 「隣…いいかな」

 春明は慌てて席をつめる。

「あ、あぁごめん」

檸檬はベンチに座ると、春明に向き直って話し始める。

「…今日は、霜月さんと一緒じゃないんだ…」

春明は返答に詰まる。

「あ、あぁ汐織ね。あいつも中々忙しいみたいで」

「そう…なんだ」

二人はそれだけ話すと黙り込んでしまった。

春明が何かを思い出したようにポンっと手を叩くと話を切り出す。

「あ、そういえば、堂島さんが貸してくれた本、読んだよ」

檸檬の顔がぱっと明るくなって、春明の顔を覗きこんだ。

「…どうだった?」

「いやぁ、面白かったよ。堂島さんの言うとおり、スッタフのコラムとかが良かったよ」

檸檬は満足げに何度も頷く。

「キャラクターの立ち回り方とか詳しく書いてあったし、勉強になったよ」

「…また、和の家で対戦しよう…」

「そうだね、今度は前よりは戦えるだろうし」

二人は昼休みが終わるまで、そのゲームの話を続けていた。


放課後、春明はバイトだ無いため、ゆっくりと帰りの支度をしていた。

春明がちらりと汐織の席を見ると、汐織も春明を見ていて、視線が交わる。

汐織はあからさまに不機嫌な顔をするとぷいっと顔を背ける。

春明もそんな汐織の態度に顔を歪めた。

自分の席で、荷物を鞄に詰め終わった和が、汐織の席に駆けてきた。

「汐織ちゃん、今日、私の家にこない?」

汐織は春明から目線を外すと、和に向き直る。

「ええ、いいわよ。私今日予定ないし」

「わぁ、やった!」

ぴょんと跳ねあがって喜ぶと、今度は春明の方へ駆け寄ってくる。

「春明くんはどうかな?アルバイトかな?」

汐織が横目で春明を見る。

「いや、アルバイトじゃないけど…」

そう言ってもう一度、汐織の方を見てやる。

「ごめん、俺今日用事あるから、もう帰るわ」

そう言って、春明は足早に教室を後にした。

和はきょとんとして春明の後姿を追っていた。

「どうしたんだろ…なにか急ぎの用事かなぁ」

汐織はそんな春明の様子を見て顔をしかめた。

「あんな奴、放っておいてわよ。さぁ和ちゃん行きましょう」

 和はつんけんとした態度の汐織をのぞき込む。

「…汐織ちゃん、もしかして春明くんと喧嘩でもしたの?」

汐織はぴくりと肩を上げた。だがすぐに平然として和に話し始める。

「別に喧嘩なんてしてないわよ。ただ、あいつがヘタレで逃げ出したってだけよ」

「やっぱり喧嘩なんじゃ…」

と、和は言いかけて口を噤んだ。

和は不安そうな表情で黙って汐織を見つめている。

「大丈夫だから、なんでもないから、ね」

汐織は精一杯、明るい表情を作って、和に言った。

和はまだ不安そうな表情のまま、指をくわえて汐織を見ている。

汐織は席を立つと、和の背中を押して急かした。

「ほら、もう行きましょ、ね」

「わわ、押さないでもいくよぉ。ほら檸檬ちゃん行こっか」

自分の席にずっと座っていた檸檬は立ち上がって、二人に続いた。

三人は、並んで歩いて学校を後にした。


和のマンションについた三人はお茶を飲みながら駄弁っていた。

ぼりぼりと煎餅をかじりながら、和が汐織に聞いた。

「ねね、やっぱり春明くんと喧嘩したんでしょ」

汐織はうんざりしたような表情でそれに答える。

「だから、さっきも言ったでしょ。あいつが逃げただけだって」

和と檸檬は顔を見合わせて、困ったように笑い合った。

「じゃあさ、その春明くんが逃げ出した原因ってなんなの?」

汐織はお茶を啜ってから、太いため息を吐いた。

「それはね、私の出した指示に怖気づいたからよ」

檸檬が体を乗り出して、汐織に聞いた。

「…どんな指示を出したの」

汐織はしぶしぶと二人に経緯を話した。

「だから私はね、時間も無いし、あいつのことを思って…」

和は腕を組みながら話し始める。

「うぅん、汐織ちゃんも春明くんの為とはいえ、少しいき過ぎたんじゃないかな」

檸檬も頷いて、和に同意する。

「…私もそう思う」

汐織は納得出来ないと言った表情になる。

「そうかしら」

檸檬が身を乗り出して、汐織に言う。

「…彼は繊細だから…」

汐織はキッと表情を鋭くした。

「いや、私なんて小学生の時からあいつのこと知ってからね、堂島さんよりはわかってると思うけど…」

少し棘のある言葉に檸檬は、心なしか少し傷ついたような表情になる。

汐織は慌てて言葉をつけたした。

「あ、ごめんなさい。ちょっと感情的になってるわね、私…」

汐織も項垂れて落ち込み始める。

部屋に重い沈黙が満ちる。

少ししてから、和が話し始めた。

「まぁ、明日になれば春明くんも汐織ちゃんも元通りになってるよ」

と、和は笑顔で楽観的なことを言った。

「だと…いいけど」

汐織は俯き気味に、暗い声色で和に答えた。

檸檬は深刻そうな表情でいる。

 そして汐織は心の内で呟き始める。

――絶対に私からは謝らないんだから…。

堂島さんも堂島さんよ。春明のことばかり庇って。

なによ、もしかしてあいつに惚れているんじゃないかしら。

ふいと、汐織はムキになっている自分に気がついた。

――何、ムキになってるんだろう、私…。

汐織は深く息を吸ってゆっくりと吐いて、心を落ち着けた。

「まああいつの話はもういいでしょう?三人で何かしましょ」

そう言って汐織は話を逸らした。

和は一瞬きょとんとしたものの、すぐにぱあっと明るい表情になって、

「うん!そうだね。映画を観る?それともゲームをする?」

そういって和は、テレビをいじりはじめた。

ふと、汐織は檸檬をちらりと見る。

檸檬は不安そうな表情でいた。

それがなぜか、汐織には少し腹立たしかった。


夜、春明は布団の上に仰向けになって天井を見つめていた。

頭の中には汐織との出来事が思い返される。

――あいつ、まったく気にしてなかったようだったな…。

確かに俺は汐織の協力で色々と助かったけれども…。

最近のあいつは俺の感情なんかまったく気にしていない風だった。

演劇部に入るだ?勝手に決めるなってんだよ。

このままあいつに従ってたら、次になにをされるかわかったもんじゃない。

あいつが方針を変えるまで絶対に口を聞かないでいよう。

恋人探しの為の練習は…しばらく、俺一人でやろう。

春明はそう決心すると、電気を消してまぶたを閉じた。


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