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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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翌日、昼休み。

春明と汐織はいつものように、ベンチに座ってノートを読んでいる。

汐織の嬉々とした表情とは正反対に、春明の表情は浮かなかった。

ノートには演劇論や役者の心得といったものが、びっちりと書いてあった。

ノートを人ととおり見終わった春明がおずおずと口を開く。

「これは、ちょっと関係ないんじゃないかな…」

「詩とか台詞ならまだ、言葉が増えて役に立つと思うけど…。僕は役者になりたいわけじゃないし、身振りとか表情とかはちょっと…」

汐織はくしゃっと不機嫌な顔になった。

「だから、これも目的に繋がっていくのよ。私の言うこと聞くって言ったなじゃない」

「それは…」

春明は口ごもる。

「この練習だって、意味があるのよ。あなた表情暗いでしょ。表情筋使ってなかったのよ。それに眼も死んでるわ。だからこの練習で鍛えるのよ。そうだ演劇部に入ってみたりとか?いいかもしれないわ」

春明は黙ったまま動かない。

表情は、眉を寄せて険しい表情になっている。

汐織はその表情に気が付かない。

「それじゃ、練習を始めるわよ」

汐織は立ち上がって、春明を急かした。

「…表情筋がどうだとか…」

春明はぼそぼそと呟いた

「え、なんて?小さくて聞こえないわ」

春明は小さく舌打ちをする。

「最近、お前無理強いしすぎだよ」

語気を荒げて春明が言った。

「え、急にどうしたのよ…」

汐織は、春明の強い口調に少し腰が引く。

「表情筋使ってこなかっただのなんだの、失礼なんだよ」

「実際そうだと思ったから言っただけよ…」

「…それに演技の練習だ?演劇部だ?そんなのはやりたくない…。お前さ、俺で遊んでるだろ」

「そ、そんなことないわよ。ただ、私はあんたの事を考えて…」

春明は立ち上がって、大きなため息を吐いて、項垂れている。

「お前の指示に従うって約束したけどさ、これ以上こんな練習するなら俺はもう…」

汐織は感情的になって春明に答える。

「なにそれ、私は本当にあなたの為を思って練習を考えてきたのよ。夜遅くまで資料を集めて、ノートに書き写して」

「そんなの、お前の苦労なんて知らないよ」

「あんたねぇ…」

汐織は半ば呆れて、半ば怒りで震えて言った。

春明もイライラと脚をぱたぱたと繰り返し動かしている。

「俺はお前の人形じゃないんだ。少しは俺の感情も考えてくれ…」

「なによそれ。私はね、あんたの目標の為だけを思って――」

汐織が全てを話し終える前に、春明はすたすたと歩き始めた。

「ちょっと、話聞きなさいよ」

汐織はそう叫んで春明を呼び止める。

「これから、どうすんのよ!」

春明は黙ったまま、振り向きもせず去っていく。

汐織は呆然と春明の後ろ姿を見ていた。


放課後、汐織は教室で呆然と窓の外を眺めていた。

春明はバイトへ、和はどこかへふらりと出て行った。

汐織は太いため息を吐いて、俯く。

汐織はぶつぶつと愚痴り始める。

――何よ、私はあいつの為を思って…。

今までの成功だって、きっと私の助けがあって出来たのよ。

それなのにあいつは…。

 無理強いだって?それぐらい急がないと条件に間に合わないでしょう。

それぐらいあいつだって覚悟してるはずよ。

なのにあいつは、お前の人形じゃないだの無理強いするなだの、わがまま言って。

ふと、汐織の頭に檸檬の言葉が浮かんだ。

 ――あいつが繊細…ねぇ。

繊細というよりも、只のへたれよ、あいつは!

 汐織はぴりぴりとしたまま席を立つ。

 汐織は図書室へとすたすたと向かって行った。


 図書室へ入った汐織は、数冊の本を取ると、机に座って本を開いた。

 しかし汐織は、なかなか集中できず、そわそわと本を開いては閉じている。

 汐織の頭の中は昼の出来事で一杯で、文字が頭に全然入らない。

 汐織は読書を諦めて、頬杖をついてぼうっとあらぬ方向を見つめている。

 ふと、汐織の視界に人影は入る。

 汐織はその人影を見上げる。

「あ、堂島さん」

檸檬が本を数冊、脇に抱えて立っていた。

檸檬は黙ったまま、汐織に小さく頷く。

檸檬は汐織の向かいの席にくると、

「…ここ、座ってもいい?」と聞いた。

「別に、いいわよ」

檸檬は汐織の返事を聞くと、本を机に置いて席に座った。

汐織は、なんとなく本を読み始める。

汐織は、ちらちらと檸檬の様子を見ている。

檸檬も本をぱらぱらとめくっている。

図書館には人がすくなく、しんと静寂が満ちた。

ふと汐織は、明日から春明とどう接していいか考えはじめた。

――私から謝るなんて、絶対嫌よ。私は間違ってないんだから…。

あいつから謝ってくるまで、もう協力してやらないんだから。

汐織はまたイライラとしだして、表情を歪める。

そんな汐織の表情の変化を見た、檸檬は口を開く。

「…どうしたの、霜月さん…」

檸檬が首を傾げて言った。

汐織はあわてて取り繕って、答える。

「べ、べつに何でもないわよ」

「…そう」

檸檬はまだ、不思議そうな顔で汐織を見つめている。

汐織は本の影に顔を隠した。

檸檬がふいと話し始める。

「…今日の昼も、春明くんと練習したの?」

汐織はぎくりと体を強張らせる。

「え、ええ。そうね、練習したわよ」

「…そう。あのね…」

檸檬はもじもじとして、何かを言い出そうとしている。

「…檸檬さん、どうかしたの?」

汐織は不安そうに檸檬に聞いた。

「…もし良かったらね…今度二人練習見せてもらいたいんだけど」

汐織はあからさまに慌てて、言葉を探す。

「あ、ああ、私は別に構わないんだけどね。あいつが恥ずかしがるかもしれないから、ちょっと聞いてからじゃないとわからないわ」

檸檬は残念そうに、俯く。

「…そう、わかった」

「ごめんなさいね、一応聞いてみるけど」

汐織は嘘を重ねたせいで、胸がずきんと痛んだ。

二人はまた本を読み始める。

図書室はまた沈黙に包まれた。


夜、バイトを終えた春明は、家に向かって暗い農道を歩いてた。

足取りは重く、表情も暗かった。

春明は昼の出来事を思い出す。

――明日からどう、汐織に接しようか…。あんなこと言っちゃったしなぁ。

春明は腕を組んで考え始める。

――それにしても。

それにしても、表情筋使ってないだの、眼が死んでるだの…。

流石に俺だって腹が立つ。

それにあんな演劇部みたいな練習したくない。

そりゃあ何かしら効果はあるだろうけど…。

まるで俺で遊んでいるみたいじゃないか。

汐織の指示はなんでも聞くと最初に約束はしたけれども、俺の意思だって考えて欲しい。

それを気付かせる為には、向うが謝るまで話さないほうがいいかもしれない。

そうだ、そうしよう。

そうすればあいつだって少しは反省するだろう。

春明はそう心に決めると家路を急いだ。



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