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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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翌日、朝。

教室に入った春明は教室を見回す。

汐織の席に和と檸檬が集まっていた。

「おはよぉ、春明くん」

和が席から手を振ってにこやかに挨拶した。

「おはよう、和」

春明も手を挙げてそれに答える。

「汐織、堂島さん、おはよう」

汐織はつんとそっを向いてから、

「…おはよ」と小さな声で言った。

檸檬は春明を見上げながら小さく頷いた。

「なんか、お泊り会の後で、こうやって学校で合うと不思議なかんじだねぇ」

 和は頬杖しながら、にこにことして春明に言った。

「わかる。なんかこそばゆい感じがするよね」

そう言うと春明は自分の席に向かった。

春明が鞄から荷物を出して、机に入れていると、檸檬がやってくる。

春明は檸檬に気が付いて、席に座ったまま顔を見上げる。

「堂島さん、どうしたの、何か用?」

檸檬は表情を変えずに、一冊の分厚い本を春明に突き出した。

春明はその突き出された本と、檸檬の顔を交互に見る。

「この本…どうしたの」

「…和の家でやったゲームの攻略本…読んでみて。面白いから」

「ありがとう。でも俺んちゲーム機ないけど、意味あるかな?」

檸檬は珍しく得意げな表情になって話し始めた。

「大丈夫、コマンド表を見るだけでも少しは意味があると思う。それに、読み物としてもかなり面白い…」

春明は、饒舌になった檸檬に驚きつつ、その本を受け取った。

「ありがとう、ちゃんと読んでくるよ」

檸檬は笑顔になって満足そうに何回も頷いた。

「…今度、また対戦しよう…」

春明もつられて笑顔になって和に答える。

「うん、楽しみだね」

「…君におすすめのキャラクターはね…」

檸檬が更にゲームの話を続ける。

なるほど、へぇ、と春明はそれに相槌を打つ。

二人がそんな話をして盛り上がっているといると、チャイムが鳴った。

そして担任の越谷先生が入ってきたところで、二人の会話は終わった。

春明は分厚いゲームの攻略本を、にこにこと嬉しそうな表情で鞄にしまった。


昼休み、春明と汐織はいつもの場所、人気のない校庭隅のベンチに座っていた。

春明は汐織から渡されたノートを両手に持って、その内容を声にだしている。

汐織は顎に手を当てて、険しい表情で春明の事を見つめている。

汐織は不満そうな声を漏らす。

「なんか今一なのよね…なにが原因なのかしら」

汐織は首を傾げて、ぶつぶつと呟いている。

春明は読むのを一旦やめて、汐織の様子をうかがっている。

汐織はふと何かを思いついたように、ぽんと両手を叩く。

「そうよ!」と嬉々とした表情で叫んだ。

春明はぎくりと体を強張らせる。

――嫌な予感を感じる…。

春明の背中に、汗が滲む。

「身振りがなってないのよ、身振り!」

「み、身振り…」と春明が不安そうに繰り返す。

汐織はベンチから立ち上がって大げさに両手を広げる。

「そうよ。あなたは只突っ立って読み上げてるから駄目なのよ」

汐織は春明の方を向いて続ける。

「感情を入れれば、自然と体も動くはずよ。逆もまた然り。無理にでも体を動かして読み上げてみて」

「え、えぇ。恥ずかしいな…」

「あなたねぇ…私の言葉を信じなさいって。私だってね、ちゃんと情報集めて言ってるんだから」

春明はまだ不服そうだが、しぶしぶと頷く。

「わ、わかったよう…」

汐織はその答えを聞くと、ぱぁっと表情を明るくした。

「じゃあね、この部分でね、両手をね…」

汐織はノートを指さしながら指示をだす。

春明はいやいやながらも、汐織の指示に従う。

 「本当にこれ、意味あるの…?」

 「あるわよ。こういう練習すれば、いざ女子に思いを伝えようって時に緊張もしないでしょう」

「まあ、そうかもしれないけど…」

「大丈夫だから、私を信じなさいよ」

春明は顔をしかめたまま頷く。

汐織はまた、ぶつぶつと呟き始める。

「そうね…今度は戯曲を…そうしよう…」

やたらやる気をだしている汐織の様子を春明は不安に満ちた顔で見ていた。


放課後、春明はバイトだと言って、汐織から逃げるように下校していった。

和も、珍しく美術部に顔を出す気になり、放課後になった途端、教室を飛びてて行った。

汐織は自分の席で放課後、どう過ごすか背もたれに体重を乗せ、考えている。

――帰って読書でもするか…。そうだ図書室で本を借りて帰ろう。

あいつの為にも、色々調べてみるか…。

汐織はくつくつと笑って、図書室へ向かった。


図書室についた汐織が、まず目にしたのは、本を読んでいる檸檬だった。

檸檬がふと顔を上げて、汐織と視線が交わる。

汐織が首だけで小さくお辞儀をする。

檸檬も座ったまま少しだけ頭を下げる。

気まずい空気が二人の間に流れる。

――二人きりだと、まだ気まずいわね…。

汐織は本を探し始める。

「あ、この本前から気になってたやつだ」

汐織は一冊の国内小説をとる。

汐織がある本を手に取ってぱらぱらページをとめくっていると、背後に気配を感じて後ろを振り向く。

「わっ、堂島さん」と思わず声が出た。

周りの人に迷惑がかかってないか、きょろきょろと見回す汐織。

「ど、どうしたの堂島さん。何か用かしら?」

檸檬がぼそぼそと汐織に囁く。

「…その本、この間私も借りて読んだの。私、その作家さん、好き…」

「あ、そうなの。私もこの作家さん昔から好きで」

「…私も、デビュー作からずっと読んでる…」

「へぇ、堂島さんて意外と本読むのね」

檸檬は黙ってこくこくと頷く。

二人の間にはさっきまで固い空気とは打って変わって、砕けた雰囲気が満ちていた。

「ちょっと場所かえない?」

汐織が図書室の出口を指して提案した。

檸檬は頷いて同意した。


二人は体育館と校舎の間の、連絡通路にあるベンチに座った。

連絡通路にはベンチが二つと自販機とゴミ箱が並んである。

体育館からはキュッキュッと運動靴が擦れる音が響いてくる。

汐織と檸檬は紙パックのジュースを飲んでいる。

汐織はジュースをぽいっとゴミ箱に投げ捨てる。

両手を後ろについて、背中をそらして檸檬に聞いた。

「で、話ってなんなのかしら…?」

檸檬はジュースを両手で持ったまま、話し始める。

「こ、この前、言ってた…春明くんの、恋人探しの事…本当なの」

「本当よ。ちょうど今日の昼休み、二人で練習したわ」

「…練習」

「ええ、もう知ってると思うけど…あいつ《下から三番目》ってあだ名されてるでしょ?それがトラウマになって。だから自分に自信が無くて…それを克服するために練習してるの」

「どんな練習を…したの?」

「そうね…今日は普段と違って、身振りを重点的にやったわね。あいつ、恥ずかしいとかなんとかいって大分渋っていたけど」

「…春明くん、意外と繊細だから」

「そうなのかしら、まあ少し臆病だとは思うけど」

檸檬は汐織の言葉を聞くと首を左右に振る。

「彼は繊細…あなたも気を付けた方がいい」

汐織は少しムッとして檸檬に答える。

「まぁ、気をつけて練習するわ…」

二人の間に沈黙が訪れた。

汐織は立ち上がって檸檬に振り向く。

「じゃあ私、もう行くね」

檸檬は汐織を見上げて、片手を上げて答える。

「…じゃ、また」

汐織は手を振り返してから、その場を去っていった。


その日の夜、霜月家。

汐織は机に向かってペンを走らせていた。

机の上には戯曲や演劇関係の本が積んである。

汐織は腕を動かしながら、今日の放課後の事を思い返した。

――春明が繊細?私の方があいつの事知ってるわよ…。

このぐらい詰め込んで練習しないと、条件が間に合わないのよ。

あいつだってそのことを、わかってるだろうし、このぐらい平気だと思う。

堂島さんは心配しすぎなのよ。繊細なのは堂島さんの方じゃないかしら。

汐織の表情は少し不機嫌だった。

汐織は再びカリカリとペンを走らせ始める。



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