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放課後、春明は家に急いだ。
母からメールで、叔父が来ている事を知らされたからだ。
家に着いた春木は急いで靴を脱ぐと、居間に直行した。
居間には、叔父と叔母と陽子がお茶を飲みながら、談笑していた。
「おぉ、春明じゃないか」と叔父が頬をにんまりと上げて春明を迎えた。
「こんにちは、叔父さん叔母さん」と春明は礼儀正しくお辞儀した。
「はい、こんにちは」と叔母がにこやかに言った。
叔父が春明に向き直って、
「春明、話があるから、そこに座りなさい」
春明は緊張して固い動きで叔父の向かいの席に座った。
おほん、と叔父は一回咳払いをしてから話し始めた。
「実はだな、もう私たちの引っ越しが終わったんだ。この近所のマンションにな」
それを聞いた春明の表情は明るくなった。
「私たちもお前の母の手伝いや子供の面倒を見ることができるようになった。スーパーで惣菜を買ってきたり、食材を分けたりして、食事だって都合できる。だからな、お前もアルバイトの頻度を減らしても大丈夫だぞ」
「ほ、本当ですか」と春明はぱちくりと目を瞬かせて言った。
「もちろん、本当だとも。今までご苦労だったな、春明」
春明は一気に肩の荷が下りたように太いため息を吐いた。
「それで…だな」と叔父が身を乗り出して話し始める。
「お前、条件の方どうなんだ?恋人はできそうか、ん?」
春明はその質問に照れて、少しだけ頬を赤らめた。
叔母はにやにやと楽しそうに笑っている。
陽子は困ったように笑っている。
「ま、まぁぼちぼちかな」
「なんだ、頼りないなお前は」
と言うと叔父はガハハと大口を開けて笑った。
「お前、顔つきが少し変わったな。うんうん、いい傾向だ」
「どうも…」
春明は頭をぽりぽりと掻きながら答えた。
春明はその後しばらく、酒の入った叔父の話に付き合った。
叔父から解放されたのは、弟妹たちが寝静まった後だった。
叔父と叔母が帰ると、春明は食器を洗うのを手伝いながら母にたずねた。
「母さん、実はさ今週の土曜日、友達の家に泊まりたいんだけど…」
陽子は食器を洗う手を止めて、驚いた表情で春明の顔を見た。
「お泊り!いいじゃなにのあなた行ってらっしゃいよ。付き合いは大切よ」
陽子はにこにこと嬉しそうに言った。
「なんて子なのその友達は?まさか女子じゃないだろうけど」
「野咲和っていう同じクラスの女子なんだ。他にも二人が来るんだけど」
陽子は更に驚いて、両手を胸の前に合わせる。
「この子にもついに女友達が…!お父さん、見てますか。この子ついにやりましたよ」
「大げさだよ、母さん…。その子家なんだけど、ショッピングモールのすぐ横にあるマンションなんだ」
「まぁ、それじゃあ、叔父さんのマンションと一緒じゃない!」
それには春明も驚いた。
「へぇ、叔父さんたちが越したのってあのマンションだったのか」
「そうよ、私たちの家から近いところで探していてね」
「まぁ、とりあえず叔父さんの話は置いておいて、結局泊まりにいっていいってことだね」
と春明が質問すると、陽子はすぐさま、
「もちろんよ!行ってきなさいよ」と喜んで言った。
同じくその日の夜、汐織は食卓で、和の家に泊まる事を説明していた。
「野咲和さんって言う女子の友達の家に泊まりたいんだけど…」
汐織の母少し困ったような表情で答えた。
「向うの親御さんはいいって言ってるの?」
汐織は少し考えてから答えた。
「…ええ、野咲さんの両親も許しているわ」
「それなら私はいいけど…」と汐織の母は、ちらりと父の方を見る。
汐織の父は黙ったまま、食事を続けている。
「…あなたはどう思う」と汐織の母が念を押してたずねる。
汐織の父は、少し間を置いてから小さく頷いた。
汐織はほっと小さいため息を吐いた。
「いいわよ、行ってらっしゃい」
「ありがとう。じゃあ今週の土曜日は夕飯いらないから」
「ええ、わかったわ」
三人は再び食事を始めた。
汐織は、静かに食事をしているが、頭の中はお泊り会の事でいっぱいで、わくわくと心を弾ませていた。




