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翌日、和の事が気になって早めに登校した春明は、教室に入るのを躊躇していた。
――和は今日、来ているだろうか。
春明は何度も唾を飲んでは、うろうろしている。
意を決した春明は、教室に入る。
「春明くんっ」
春明は体にどんっと衝撃を感じて、体をよろめかせる。
「おはよう春明くん」と和が抱き着いていた。
春明は顔を赤くして戸惑っている。
「和、ちゃんと学校に来たんだな」
「うん、それにね、この前和に怒ってたの女の子にもちゃんと謝ったよ」
汐織が二人の傍へ来る。
「ええ、私も横で見ていたんだけど、ちゃんと謝って解決したみたいよ。それに向うの女子も言い過ぎたって謝っていたわ」
春明は嬉しそうに和を見る。
「そうか、すごいな和は」
「えへへ。それにね、部活とかで忙しい時はねちゃんと理由を説明してくれれば、そっちに行っていいって言われたよ」
和は体を春明に擦りつけて言った。
「そ、そうかよかったな」
春明は和の体の柔らかい感触と甘い薫りに鼻の下を伸ばす。
汐織が怪訝な顔で春明を一瞥する。
「お、おほん。ほら、和もう先生が来るから席に戻ろう」
「うん!」と和は満面の笑みで答えた。
教室に担任の越谷美枝が入ってきた。
生徒たちは慌てて席に着いた。
昼休み、春明と汐織と和は机を寄せ合って昼食をとっていた。
和が売店で買ってきたパンを食べながら話す。
「檸檬ちゃんも誘ったんだけどね、ふらりとどこに行っちゃった」
弁当を食べていた汐織がそれに答えた。
「あの人も不思議よね…。クラスからは不良だと思われてるみたいだけど、今回の件で堂島さんの意外な一面を見たわ」
「そんなことないよ。檸檬ちゃんはね、本当にやさしくて純粋な子なんだよ」
「やさしくて、純粋ねぇ…」と汐織が繰り返す。
「俺も堂島さんの事、純粋な人だと思うな。ただ不器用なだけで」
「あんたは下心からそう思ってるだけでしょう」
春明は汐織の言葉を聞いてパンを喉に詰まらせる。
和が慌てて春明の背中を叩く。
「ごほごほっ、そんなつもりはないよ…」
と春明はむせながら弁解した。
そんな二人のやりとりを見て、和はくすくすと嬉しそうに小さく笑った。
ふと和が思い出したようにポンと手を叩く。
「そうだ、二人に協力してもらった交通安全ポスターの件、美術部での選考が終わったんだよ」
「おお、そっか。よかったな」と春明が嬉しそうに言う。
「二人と檸檬ちゃんの協力のおかげだよぉ。ホントにありがとう」
「それでね」と和が続ける。
「四人で打ち上げでもしない?和の家でさ、お泊り会!」
和は爛々と目を輝かせて、二人の顔を覗きこむ。
春明は少し困ったようま表情で答える。
「俺、一人だけ男子だけどいいのか?」
汐織が心底嫌そうな顔で口を挟む。
「えぇ、コイツと一緒の部屋で寝るなんて絶対いやよ」
「大丈夫だよぉ。でもそんなに嫌なら春明くんだけ別の部屋で寝てもらうことにしよう」
「そうしましょ」と汐織は即答した。
「檸檬ちゃんはよく家に泊まりにくるから問題ないとして…二人はどう、打ち上げ兼お泊り会は?次の土曜日にしようと思うんだけど」
まず春明が携帯を確認して答えた。
「俺は…大丈夫その日はバイトもないし、家の許可も問題ないと思う」
汐織は少し考えてから答えた。
「私も多分大丈夫だと思うんだけど、一応親に確認してからね」
「そっか、わかった。じゃあとりあえず今週の土曜日ってことだねぇ。檸檬ちゃんには和からしっかり伝えておくから」
和は余程うれしかったのか、足をぷらぷらと振りながら、鼻歌を歌っている。
春明は少し緊張しているようだった。
――女子三人とお泊り会…。
春明は少し鼻の下を伸ばして、あらぬ妄想を頭に浮かべる。
お風呂はどうするんだろうか…。
皆、パジャマ姿が拝めるのだろうか…。
妄想が止めどなく膨らむ。
ふと春明は、汐織のじっとりと軽蔑した視線に気づき、我に戻った。
汐織が眉を寄せて、春明にぐちぐちと話し始める。
「アンタなんかと、お泊り会なんてしたくないけれど、和の為なんだからね。
ホントは女子だけのパジャマパーティがやりたいんだけど…」
春明はげっそりして汐織に答える。
「わかったよ、もう変なことも考えないし、ちゃんと別の部屋で寝るから」
汐織はそれを聞くと満足そうに何度も頷いた。




