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翌日、朝。
教室に入った春明は、まず最初に和の席を見た。
和の席には誰も座っていなかった。
春明は汐織にの席にを見る。
汐織は暗い表情で、首を左右に振る。
春明は察して、太いため息を吐く。
――やっぱり俺の言葉じゃ、和の心には響かなかったんだろうか。
春明は浮かない表情で自分の席へ向かった。
昼休み、春明と汐織は、校庭隅のベンチで話し合っていた。
晴れ渡った空から射す木洩れ日が二人を照らす。
「今日も、休みか…」と落ち込んだ表情で春明が言った。
「仕方ないわよ、あとは和、本人次第だと思うわよ」
二人は沈黙する。並木の木葉が擦れ合う音だけが響く。
ふと汐織が口を開く。
「しばらくの間、春明の恋人作りの件、休止にしてもいいと思うんだけど」
「ああ、俺もそれでいいと思う」
「和が学校に来るようになるまで、休みましょう」
春明は真面目な表情で頷く。
二人は大きなため息を吐いて、空を見上げた。
二人の頭の中には、和の笑顔が浮かんでいた。
夜、バイトを終えた春明は、家の食材の買い出しの為、バイト先と同じショッピングモール内にあるスーパーに来ていた。
春明はカートを押しながら、母から受け取ったメモを確認しつつ、食材をかごに放り込んでいる。
「えぇと、次は…」と春明は辺りを見回す。
「…あ」と春明は歩みを止める。
春明の目に小さいふわふわした髪の女子が映った。
惣菜を詰めたかごを片手に、和が立っていた。
和の方も、も春明に気付いて足を止めた。
買い物を一通り終えた二人は、フードコートでジュースを飲んでいた。
二人は黙ったまま、ジュースを啜る。
二人は、互いの様子をちらちらと見合っていた。
気まずい沈黙が流れる。
二人は、周りの喧騒がどこか遠くに聞こえていた。
すっかりジュースを飲みほしていしまった春明は、遂に重い口を開いた。
「あのさ、今度、汐織と堂島さんを誘ってさ、どこか遊びに行こうよ」
春明はにこにこと笑顔で言うも、和は首を左右に振った。
「そっか…じゃあさ、今夜二人で散歩でもしない?」
和は少しの間考えてから、小さくこんと頷いた。
「それじゃあ、八時にまたここでいいなか」
和は頷くと席を立つ。
「じゃあまたあとで」と春明は手を振りながららフードコートを後にした。
夜、春明は待ち合わせ場所に走って向かっていた。
弟妹たちが食卓で騒いで、予想外に時間を食ってしまったからだった。
春明が待ち合わせ場所に息を切らせながら着くと、そこには和がちょこんと座って待っていた。
春明は膝に手を当てて息を上げながら話す。
「ごめん、待った?」
和は春明のを見ながら、首を左右に振る。
「…別に」と和は今日初めて声を出した。
「それじゃ、外で歩きながら話そっか」
和はこくりと頷いた。
街灯に照らされた農道を二人は並んで歩いている。
春明は、隣でてくてくと歩く和に歩幅を合わせて小さく歩いてる。
しばらく歩いてから、春明が夜空を見上げながら話し始めた。
「あのさ、ちょっと前の俺も和と同じような考えだったんだ。一人でいる方が自由でいい、楽でいいって」
和は黙って春明の言葉に耳を傾ける。
「もう和も知ってると思うけど、ある切っ掛けでさ、ずっと疎遠だった汐織に勇気を出して話しかけて、それでなんとか協力してもらってさ。それだけでもすごい心強くて、ノートとか作ってもらったりして。俺一人だったら何もできなかっただろうなって」
春明は和の方を向いて話を続ける。
「その、和とも友達になれなかったなって」と照れ臭そうに春明は言った。
今まで俯いて話を聞いていた和が、顔を上げ春明の方を見て話を聞いている。
「だからさ、和も人間関係を避けないでさ、向き合ってみてもいいんじゃないかな…。そりゃあ嫌なことも多いけど、きっと楽しい事とか増えると思うし、絵に関しても得るものがあると思うよ」
春明はぽりぽりと頭を掻いて話を続ける。
「俺たちだって何かあったら相談にのるし。一人じゃできないこと、多いと思うよ」
春明は歩みを止めて、和の方を向く。
「以上、話終わり」
和は、何か考え込んでいるように俯いている。
「じゃあそろそろ帰ろっか。家まで送っていくよ」
春明がそう言うと和頷いて歩き始めた。
和のマンションの前まで来ると春明は、和に紙切れを渡す。
「じゃあ、また…。いつでも相談にのるからさ、連絡でもしてよ」
和は紙切れを受け取ると、
「じゃあ…ね」と笑って手を振った。
春明もそんな和の様子を見て、笑顔になり、手を振り返した。




