表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
29/50

30

テーブルの上には皿に盛られたお菓子と、コップに入れられたジュースが並べられている。

「それじゃあ作業を始めようね」

和はカバンから紙の山を取り出すと、それを三等分に分けて、二人に渡す。

「それじゃあ、この中から二人がいいと思ったのを分けていってね」

 二人は頷くと早速、作業を始めた。

三人は集中して、黙々と作業をしている。

部屋の中には紙が擦れる音だけが響いている。

誰も手をつけない飲み物はからんと氷を鳴らす。

その静寂を突然鳴ったチャイムが壊す。

春明と汐織は驚いてびくんと体を跳ねあがらせた。

「あ、もしかして檸檬ちゃんかなぁ」

「檸檬…あぁ、堂島さんの事かしら…」と少し不安そうに和に聞いた。

「そうだよ、ちょっと待っててね」

そう言うと和は立ち上がって玄関へと駆けて行った。

「そういえばたまに和と堂島さんが話してるの見るなぁ」

汐織は春明に顔を寄せて小声で話しかける。

「でも堂島さんって、その…不良っぽくないかしら。和さんと仲がいいのが意外で…」

「そうか、見た目がちょっと怖いだけで、そんな不良とは違うと思うけどな」

そんな話しをしていると和が檸檬を連れてリビングに戻ってくる。

 春明と汐織は堂島檸檬を見上げる。

檸檬と和が並ぶとその身長の高さが際立つ。春明より背が高いのは間違いなかった。茶色い髪の毛は少し痛んでいるのかぱさぱさとしていて、長さは背中まであった。細い眉毛と目尻が上がった目は、顔の印象をきつく鋭いものにしている。口は固く一文字に結んでいる。シャツを荒く着こなしていて、大きな胸がはだけている。スカートは短く、長い両脚がすらりと伸びている。

檸檬はその切れ長の目でじろりと二人を見下ろす。

 汐織は、縮みがってしまう。

「どうも」と春木はぽりぽりと後ろ頭を掻きながら挨拶した。

「こ、こんにちは」と汐織もどもりながらなんとか声を出した。

檸檬は二人を見つめるだけで口を開かず、どかっと座ると胡坐をかいた。

「檸檬ちゃん、恥ずかしがり屋だから、ごめんね二人とも」

「二人はね和の友達の、春明くんと汐織ちゃん。同じクラスだから知ってると思うけど」

和が言うも、汐織は委縮してしまっている。

和がキッチンから檸檬用のジュースを持ってくる。

ジュースをテーブルに置くと、和は檸檬の顔を覗きこむ。

「檸檬ちゃんも手伝ってくれるよね?」

春明と汐織も檸檬に注目する。

檸檬は口を一文字に結んだまま頷く。

「ありがとう、檸檬ちゃん」と和はよろこぶ。

和はもう一つ紙の山をつくると檸檬に渡す。

「それじゃあまた、作業しようね」

四人は、ぱらぱらと紙をめくり始める。

汐織はちらちらと檸檬の様子のを見る。

檸檬は相変わらず硬い表情のままで作業している。

「あー、これ可愛いなぁ」

「これも、いいなぁ」

和は一つ一つじっくりと見ていて、なかなか作業が進んでいない。

春明は、集中して無言になっている。

四人はそれぞれのペースで作業していた。


作業を始めてから一時間程度経った。

和がぐいと体を伸ばしてから口を開く。

「うぅん、疲れたね。ちょっと休憩しよっか」

 「そうね、私もちょっと休もうと思ってたの」と汐織も背を伸ばす。

春明も頷くと、ジュースをごくごくと飲み始める。

「春明くん、大分作業進めたねぇ。すごいよ」

春明はぽりぽりと頭を掻きながら照れて言う。

「俺、こういう単純作業するとのめり込んじゃうんだよね」

「そうなんだぁ。和はね、どれも可愛くてなかなか選べなくて」

 「私もなかなか選べなくて…」

 「それだけよく考えるているんだよ、汐織ちゃんは」

汐織も和と同じ程度の作業量だった。

「檸檬ちゃんはどうかな?わ、すごい進めたねぇ、さすが檸檬ちゃん」

「ほんとだ、俺より進んでる。すごいね」と春明も関心した。

檸檬は仏頂面のままでいる。心なしか頬がほんのり赤い。

「そういえば」と春明が切り出す。

「堂島さんて、どこに住んでるの?」

檸檬はあらぬ方向を見たまま、素っ気なく答える。

「ショッピングモールの…すぐ裏…」

「へぇ、すごいここから近いね」

和が身を乗り出して話に入る。

「そうなの、だからねよく遊びにくるし、お泊りしたりするんだよ」

和はにこにこと嬉しそうに言った。

 そのあと、四人は他愛無い話を続けた。

汐織は時計を確認すると、

「あ、あたしもう帰らなくちゃ。夕飯の手伝いがあるの」

汐織は慌てて準備を始める。

「そっかぁ、それじゃあまたね」と和は残念そうに言った。

靴を履いた汐織は振り向いて挨拶をする。

「お邪魔しました。また明日ね和」

「うんじゃあねぇ汐織ちゃん」と惜しみながら手を振る。


「さて」と和が話しはじめる。

時計を確認する和。

「あとちょっとは作業できそうだね。二人ともまだ時間は大丈夫?」

「ああ、俺はまだ大丈夫だよ」

檸檬も相変わらず硬い表情だが、和の方を見て頷く。

「それじゃあ、作業始めようか。ひょっとしたら今日のうちに終わるかもねぇ」

テーブルの上のお菓子や飲み物をどかすと、三人はまた作業にかかった。


「…終わったぁ」

和が両手を上げて背筋を伸ばす。

春明も首をぽきぽきと鳴らして大きく息を吐く。

「二人ともありがとう。こんなに早く終わるなんて思わなかったよぉ」

「いやぁ、堂島さんが一番頑張ったよ。すごい集中力だね」

「そんな…ことはない…」

檸檬はぶつぶつと小声で答える。

「それじゃあ二人の選んだものをちょっと見せてもらうね」

和はそう言うと、檸檬の分けた紙の山の片方を手に取ると、ぱらぱらとめくり始めた。

檸檬は和の表情をうかがうようにちらちらと見ている。

「わぁ、これもいいね…。あっ、これって」

和が手元の紙の束から一枚の紙を取り出す。

和はその紙を二人に見せるように、テーブルの真ん中に置く。

そうしてから和は嬉しそうに言う。

「これ、春明くんの書いたやつだよね。うんうん、流石檸檬ちゃん、見る眼があるね」

檸檬はそれを聞くとじっと俯いたまま答える。

「別に…関係ないだろ…」

春明は自分のアイディアが選ばれて、嬉しくなって正直に言う。

「やっぱり嬉しいもんだね、自分のが選ばれると」

檸檬は、ちらりと一瞬だけ春明を見ると、またぷいっとあらぬ方向を向く。

和はまた、ぱらぱらと紙をめくり始める。

「うんうん、やっぱり檸檬ちゃんは良いセンスしてるよ」

一通り見終わると、とんとんと紙を揃えてから、クリップでとめる。

「それじゃ今度は春明くんのを拝見」と和は楽しげに言った。

ぱらぱらと紙をめくりながら和は言う。

「うん、春明くんのセンスもなかなか…」

「なんか恥ずかしいな」と春明は頭ぽりぽりと掻く。

「あっ、これって…」と一枚の紙を抜き出すと、檸檬に見せる。

「これって檸檬ちゃんの描いたのだよね」

檸檬はそれを見ると少しの間固まってから、黙って頷く。

「なんか運命的っていうか、嬉しいよねぇ」と和は無邪気に言った。

檸檬は頬を赤くしてそっぽを向く。

春明は檸檬のアイディアを選んだ理由を話し始める。

「なんかこう、いい意味で素朴で率直で、子供とかにもわかりやす気がして。それにさ、このマスコットキャラ的な動物が可愛いかなって」

檸檬はぎぎぎと固い動きで春明の方を向いて口を開く。

「…ダッキー」と消え入るような声で呟いた。

「え、なんて?」と聞き漏らした春明が聞き返す。

「…ダッキー。ダックスフントのダッキー」

檸檬は両手を握りしめて熱っぽい声で言った。

「へぇ、名前まであるんだ」

檸檬はこくこくと頷く。

和は、春明の選んだアイディアを全て確認すると、さっきの檸檬の選んだアイディアと一つにまとめる。

「これをまた美術部のみんなと、もう一度選別するの」と和が説明した。

「ふぅ、これで終わりっ。今日は本当にありがとうね」

「いやいや、結構楽しかったよ」

春明はぽきぽきと首を鳴らす。

檸檬は相変わらず仏頂面でいる。

和が時計を確認する。

「もう大分遅くなったね。二人ともどうする?家で晩御飯食べて行ってもいいけど」

「いや、俺は帰るよ。家にご飯が用意してあるだろうし」

「そっかぁ、残念だけどしょうがないよね…檸檬ちゃんはどうする?」

そう聞かれた檸檬は、和に振り向くと首を左右に振った。

「檸檬ちゃんも今日は、帰るのかぁ。寂しいな」

二人は腰を上げると鞄を手に持つ。

春明は、ふと思いつく。

そうだ、堂島さんと途中まで一緒に帰ろうか。

ちょっと誘ってみようか…。

春明は、勇気を振り絞って声を出す。

「ど、堂島さん。途中まで帰り道一緒だよね。もしよかったら一緒に帰らない?」

檸檬はそれを聞くと、春明の顔をじっと見つめた後、口を開く。

「…別にいいけど」

 春明は檸檬の返事を聞くとほっと胸をなでおろす。それから和に向き直り、

「それじゃあ俺たち、もう行くから」

和は玄関まで見送りに来る。

「じゃあ、また明日ね。またね二人とも」

「ああ、じゃあね。お邪魔しました」

二人は和のマンションを後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ