29
翌日の昼休み、春明と汐織と和の三人は揃っていつもの場所へ向かった。
なんでもない会話をしながら、三人は食事している。
和がぽんと両手を叩いて話を始めた。
「そうだ、二人に言いたいことがあったんだ」
春明と汐織は食事の手を止め、和に向き直る。
「あのね、交通安全ポスターの事なんだけどね、その作業、和の家でやらない?」
「和の家で?私は大丈夫よ」
「春明くんはどうかな?」
「ああ、バイトが無いから大丈夫だよ。」
「それじゃあ決まりだねぇ」と和は嬉しそうに言った。
「あ、そうだ。春明に渡してなかったわね」
そういうと汐織はカバンからノートを出して、春明に渡した。
和が気になってしょうがないという風に春明を見つめる。
「これが噂のノートかあ」
春明はノートをしまうにしまえず汐織に視線を送る。
「いいんじゃない、見せてあげても」と汐織が言った。
「わ、わかった。じゃあ和、はい」
春明がノートを渡すと和はかぶりつくように読み始めた。
「うわぁ、だいぶロマンチックな台詞だね」
汐織は顔を赤くする。
「春明くんも、この口説き文句が似合う男にならなくちゃねぇ」
「は、はは。そうだね。ハードルが高いね」
汐織は少しだけ機嫌を悪くしてぷいとそっぽを向いた。
「そうなったら、和も春明くんに惚れちゃうかも」
和はにこにこしながら春明を見て言った。
「えっ」と二人は固まる。
「えへへ、なんてね」とぺろりと舌を出す。
「あ、あはは」
二人は冗談なのか本気なのか測りかねて、乾いた笑いでごまかした。
放課後、三人は和の家へと向かっていた。
学校を出て、しばらく歩いていると、遠くにショッピングモールが見えて来る。
「なんだ、俺と登校する道、同じなんだね」
「そうなんだ。でも一回も会ったこと無いよねぇ」と不思議そうに和は言った。
「俺、いつもぎりぎりに家出てるからなぁ」と苦笑いで春明は答えた。
「ショッピングモールのファミレスでバイトしてるんだよ」
「ええぇ、そうなんだ。和もたまにあそこ使ってるよ」
「そうなの?俺、全然気がつかなかったよ」
そんな会話をしているとあっという間にショッピングモールの傍まで来る。
「ちょっと飲み物買って行っていいかしら」と汐織が言った。
「そうだ、お菓子も買っていこうよ。ね」とはしゃいで和が言った。
「そうだな、俺も小腹空いたし寄って行こうか」
「なんかわくわくするよね、こういうの」
和はそういうとスーパーへと駆けて行った。
目一杯お菓子をつめてぱんぱんになったスーパーの袋を両手にして春明は歩いていた。
「お、重い」
春明は額にうっすらと汗をかいていた。
「ほら、しっかりしなさい」
「ごめんねぇ、荷物持ってもらって」
「いやいや。力仕事なら任せてくれ」
春明は無理をして言った。両腕がぷるぷると震えている。
汐織と和は楽しそうに会話している。
はぁはぁと息を切らしながら春明は遅れて二人についていく。
「もう着いたよぉ、ここだよ」と和は目の前にそびえ立つマンションを指さした。
「ここが和の家かぁ」と春明は見上げる。
「ここって一昨年くらいに出来た新しいマンションよね」
「そうだよぉ。和はね、一昨年にこの町に越して来たんだよ」
「へぇ、そうだったんだ」
「ちょっと待ってね」
和が暗証番号を打つとドアが開く。
「さぁ、行こっか」
汐織と春明はきょろきょろと辺りを見回しながら和の後に続いた。
「俺、こういうマンション初めて入ったよ」
「私も…」
和はすたすたと速足に歩いていく。
「早く早く、こっち」とはしゃいで言った。
三人はエスカレーターに乗って和の部屋がある階まで行く。
「ここだよ」と和がドアを開ける。
二人はおずおずと中に入る。
「おじゃましまあす」
玄関から広いリビングが奥に見える。
和はリビングの電気を点ける。
リビングの真ん中に大きなローテーブルがあり、上には芸術系の雑誌や、画集が置いてある。
他には大きなテレビが一つあるだけで、かなりシンプルな部屋で、よく片付いていた。
「ごめんねぇ、ちょっと散らかっていて」
「そんなことないよ、充分片付いてるよ」
「ご両親は、仕事かしら?」と汐織が辺りを見回しながら聞いた。
「うん、そうだよ」
「いつ頃帰ってこられるのかしら」
「えぇとね、和は一人暮らしだよ」
二人は驚いて和の顔を見る。
「お父さんとお母さんは仕事でいつも忙しいから和だけこの町に越してきたの」
和はテーブルの上を片付けながら話している。
「ここのマンションならショッピングモールも近いし便利かなって」
「そうね、ここなら駅も近くてアクセスもいいし…」
和は雑誌とと画集を片付けると、キッチンへ向かう。
「春明くん、お菓子とジュースこっちに持ってきて」
「ああ、よっこいしょっと」
春明は両手に荷物を持ちよたよたとキッチンへ向かう。




