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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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翌日、朝、教室に入った春明に、近づいてくる人があった。

「おはよぉ、春明くん」と野咲和がにこやかに挨拶した。

春明は急な挨拶にどぎまぎしながら、なんとか返事をする。

「お、おはよう野咲さん」

「春明くん。呼び方、違うよ」と和は指を振る。

春明は照れ臭そうに言い直す。

「和さん、おはよう」

和は満足そうに頷く。

「うん、おはよう」と和はにこやかに答えた。

和は身を乗り出して、

「昼休み、行けたら行くね。また動物とかの話ししようね」

「そうだね」と照れ臭そうに答える。

和は春明の返事を聞くと、手を振って別の友人のもとへ駆けて行った。

春明は和と朝の挨拶を交わした感動と緊張で、背中にうっすらと汗をかいていた。

朝から気分がいい。と春明は充実感を得ていた。

春明が教室に目をやると、すでに席に着いていた汐織が、ちらちらとこちらの様子を見ているのがわかった。

「お、おう」と手をかるく上げて挨拶する春明。

汐織は少しの間、春明の顔を見ていたが、ぷいとそっぽを向いた。

春明はそんな汐織の態度を特に気にすることもなく、自分の席に向かった。

春明は今日の放課後が待ち遠しくてたまらなかった。


昼休み、春明と汐織はいつものベンチに座っていた。

二人は深刻そうにぼそぼそと小声で話し合っている。

「和さんが来るかもしれないこの場所で、会議するのは危険だと思うの」

春明が真面目な表情で答える。

「いや、和さんだって毎日ここに来る訳ではないと思うぞ」

「それはそうだけど…」

「それに、和さんとゆっくり話せる、こんないい場所は他に無いと思う。それと、急に俺たちがここにこなくなったら、避けられてると思われるかもしれないし」

汐織は黙って春明の話を聞いている。

「だからこのままでいいんじゃないか。ノートのやりとりなんてすぐに終わるし。和さんがこなかった時だけ、例の活動をするようにすればいいと思う」

「少し心配だけどあなたがそれでいいなら、いいんじゃないの」としぶしぶと汐織は言った。

汐織はまだ不安そうな表情で続けて言う。

「じゃあ新しいノートだけ渡しておくわね」

「ああ、また詩がびっしり書いてあるのか?」

その春明の言葉を聞くと汐織の表情が変わった。

「また?なにその言い方。ああそう、私の協力なんて役に立たないってことね」

と言い捨てるように汐織は言った。

「いや、すまん…そんなつもりで言ったんじゃないんだ」と申し訳なさそうに春明は言った。

「…私の指示を聞くっていったじゃない」

「わかってるって。ちゃんと読んでくる」と汐織の出したノートを春明は受け取る。

汐織は少し気を悪くした風にそっぽを向く。

 春明は渡されたノートを黙って読み始める。

 「《食事に誘うための順序》か、そういえば和さんっていつもお昼どうしてるんだろう」

汐織が向き直って言う。

「そういえばそうね。教室で食べてるみたことないわ。きっと外のどこかで食べてるのよ」

「今日、聞いてみるのはどうだろうか」

「いいわね。何かのきっかけになるかもしれないわ」


二人が話し合っていると、校舎の方から駆けてくる小さな人影があった。

春明はそれに気付くと、

「あ、和さんが来た」とノートを慌ててカバンにしまった。

和が二人に近づいてくると、両腕に菓子パンを数個抱えているのがわかった。

「春明くん、汐織ちゃん」と笑顔で呼びながら駆けてくる。

二人の傍へ着くと、軽く息を切らせながら口を開く。

「お昼ご飯、一緒に食べない?」

 春明と汐織はは少しの間きょとんとして、見合っていた。

 和は微笑みながら、首を傾げて二人の返事を待っている。

春明が慌てて答える。

「あ、ああ勿論だよ。俺も和さんを誘おうと思ってたんだ」

 「そうなんだぁ。じゃあここで三人で一緒に食べようか」

 「そうだね」と春明は少し緊張した調子で答えた。

和は二人の間に腰を下ろす。

そうしてから、菓子パンの袋ぴりぴりと封を切る。

機嫌よく、鼻歌を始める。

春明と汐織はまだ、弁当に手をつけていない。

汐織は春明に目で何かを訴える。

(ほら、あなたから話し始めるのよ)

春明は視線に気が付くと、それを察する。

春明が話を始めようとしたちょうど、和が話し始めた。

「二人はお弁当なのかな?」

出鼻をくじかれた春明は、少し戸惑って答える。

「い、いや、俺もパンだよ。ただ、スーパーで買っておいた割引品だけど」

それを聞いた和は身を乗り出して、春明の持っているパンをのぞき込む。

「わっ、安いねえ。半額なんてのもあるんだねぇ」

惣菜パンをまじまじと見られて、春明は恥ずかしそうにしている。

次いで和は、汐織の方を向いてたずねる。

「汐織ちゃんは…お弁当だね」

和まじまじと汐織の弁当をのぞき込む。

「ええ、母に作ってもらってるの」と少し照れながら答えた。

和は満足して、パンを食べ始める。

汐織が春明に急かすような視線を送る。

春明は固唾を飲んでから口を開いた。

「和さんって、いつもはどこで昼食をとっているのかな?」

和は口に含んだぱんをこくりと飲み込んでから答える。

「いつもはねぇ、中庭だったり、階段だったり、別のクラスの教室だったり…」

「へぇ、色んなところで食べているんだね」

「うん、その日の気分で決めてるかな」

「そうなんだ。俺たちはいつもここで食べてるからさ…和さんも、気が向いたときだけでいいから、ここで一緒に昼ご飯食べませんか」と春明は緊張から、語尾が敬語になった。

 「勿論だよ!和もこの場所好きだからね」

春明はほっと息を吐いてから、パンを食べ始める。

汐織も春明が食べ始めたのを見ると、弁当を食べ始める。


三人それぞれが食事を終えると、まず春明が話し始めた。

「和さんて、学校にはどうやって通ってるの」

「歩きだよ。んーとね家はショッピングモールのすぐ隣にあるの」

春明は驚いて答える。

「へぇ、わりとうちの近所だね」

「そうなんだぁ。汐織ちゃんは何登校なの?」

「私はね、電車よ。ショッピングモールとは反対方向ね。」

三人はしばらくそんな世間話を続けていた。

話しあ盛り上がってきたところで春明は芸術の話しを切り出した。

「和さんて美術部に入ってるんだよね」

春明はもう緊張していなく、すらすらと話し始めた。

 和は少し困った表情で、

「うぅん、一応は入ってるけど、ほとんどいかないんだよね」

首を捻りながら続けて言う。

「和はね、もっと外にでて自由に描きたいの。だから縛られてるのはあんまり…」

「そうなんだ。だからいつも外に出て歩き回っているんだね」

「うん、外に出てね、風景や動物を見ているとね、すごく心地いいんだ」

それを聞いた春明はぱっと顔を明るくした。

汐織に教わった文句を使うの今しかないと。

「俺もわかるな。ここのベンチで横になってさ、澄んだ小鳥達の囀り、薫風に揺れる木々の木洩れ日、昼下がりの心地よい程度に怠惰な空気、それらが俺を癒してくれるから」

少し恥ずかしそうに春明は和の様子を見る。

和はにかっと頬を上げて答える。

「春明くんも自然が好きなんだねぇ。それに見た目と違って繊細なんだね」

「見た目と違って…ね」と春明は苦笑いで言った。

それを聞いた汐織はぷっと吹き出す。

和がはっとしたように顔を上げる。

「もう昼休み終わっちゃうね。あっという間だったね」

「ええ、教室に戻りましょう」

三人は立ち上がる。

和がにこにこと二人を見上げて言う。

「それじゃ三人で戻りましょ」

二人は照れ臭そうに頷いて、歩きはじめる。

二人は歩調を和に合わせて、努めて小さくした。


春明はその日のバイトは絶好調だった。

和と過ごした昼を思い出してはにやにやとしている。

店長が気味悪そうに声をかける。

「大丈夫?春明くん」

「なんでですか?今日の俺は絶好調ですよ」春明は溌剌と答える。

春明は充実感に満ちていた。

そして明日も和と話せるのか気になってしょうがなかった。

友達がいるだけで、こんなに学校が楽しみなるとは。

早く明日になって欲しい。

今度はどんな話をしようか。

春明はにんまりと気色悪い表情を張り付けて仕事を続けた。



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