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放課後、バイトのない春明は汐織と二人で図書室に来ていた。
ノートと資料を机に広げて、二人は向かい合って座っている。
二人は呆然として、黙ったままでいる。
開いたノートが窓から吹いてくる夕風に吹かれてぱらぱらとめくれる。
図書室には数人の生徒がいるだけで、しんと静まり返っている。
汐織が、あらぬ方向を見たままで口を開く。
「役に立たなかったんじゃない、これ」とノート指さしながら言った。
「いや、そんなことないだろ。これから活かせる機会はあるだろう」
春明は落ち着き払って答えた。
汐織は呆然としたまま話す。
「和さん、私たちの事、友達だって…」
「ああ、そうだな…」
二人とも少しにやけた顔でいる。
「なんか疲れちゃったし今日は解散しましょうか」
「そうだな、俺も疲れた」と春明は頷く。
「明日、和さん来るのかしら、いつもの場所に」
「そうかもな。だとしたら、俺たちが話し合う場所を変えなくちゃな」
「そうね…」と頷く汐織。
春明はノートをカバンにしまいながら話す。
「別に隠しているわけじゃないけど、変な誤解されるといけないから、暫くは黙っていた方がいいと思うんだ。」
「私もそれには同感だわ。捉えようによっては、和さんを実験台にしてるように思われるかもしれないからね」
「じゃあ俺もう行くわ」
「私はまだ図書室に居るわ。それじゃまた明日の昼ね。ちゃんとノートを読んで勉強してくるのよ」
春明は頷いて答えると、席を立って図書室を後にした。
夜、春明の家の居間はまだ明るかった。
帰宅した春明は食事を済ませて、風呂に入っていた。
湯船から足を出しながら、口笛を吹いている。
今日の昼の事を思い出して、にやにやとする。
――もう友達だね。
和の言葉、春明の頭の中に何度も繰り返される。
高校に入って始めて自分から話しかけて友達ができた。
俺だってやればできるじゃないか。
春明は充実感から、自然と顔がほころんだ。
同じ時刻、汐織はシャワーを浴びていた。
汐織の顔は、いつもより柔らかい表情だった。
汐織の頭には、和のふわふわとした髪と愛らしい顔が浮かんでいた。
和に握られた手を、見つめる。
――和さんの手、小さかったな。
昼休みの出来事を反芻する。
春明の友達づくりも順調だ。
それに私にも初めての女子の友達ができたのだ。
これ以上嬉しいことはない。
ただ、春明の恋人探しの事はどう伝えてよいのかわからない。
「恋人を探すために女友達をつくっています」なんて言ったら失礼だろう。
きっと踏み台にされたと思ってしまうのではないか。
そんな風に思われたくない。
理由はどうあれ、私は純粋に、和さんと友達になれたことがうれしいのだ。
どうしたらいいのだろうか…。伝えるべきなのだろうか。
明日、春明に相談しよう。今後の方針にも関わる事だ。
汐織の表情は固くなっていた。




