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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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20

翌日、昼休み、春明と汐織はいつもの場所、校庭隅のベンチに座ったいた。

汐織はノートを片手に春明に声高に話しかけている。

「だからね、動物の話題から入って、そのあと絵画の話に繋げていけばいいのよ」

「わ、わかった」

「私もできる限りサポートするけど…期待しないでほしいわ」

「ああ、いてくれるだけでも助かる」と心底、春明は感謝した。

「それじゃあ、野咲さんを探しにいきましょ」と汐織が歩きはじめる。

春明もそれに続こうとするが、ふと校舎の方を見つめながら歩みを止めた。

「どうしたのよ、早く行くわよ」と苛立たしげに汐織が言った。

春明は相変わらず動こうとしない。そして校舎の方を指さしながら、

「あれ、野咲さんじゃないか…?」とつぶやいた。

汐織も確認する。確かに和が二人の方に歩いて来ていた。

途端に慌てふためく二人。

「ど、どうする?」と春明がすがりつくように汐織に言う。

「ちゃ、ちゃんと予定通りにすれば問題ないわよ…多分」

「多分って…」

二人が騒いでいる間に、和はすでにベンチまで来ていた。

二人は和にちぐはぐと固い動きで向き直る。

「や、やあ、野咲さん」と春明は引きつった笑いで声をかける。

――やっぱりまだ緊張するな。

そう春明は思って、額にうっすらと汗を浮かべる。

和は普段通り、ふわふわと掴みどころの無い調子で話し始める。

「こんにちは、春明くん。やっぱりここにいたね」

そう言うと、今度は汐織の方を見て、

「ええと、霜月さん、だよね。こんにちは」

にこにことした和と対照的に汐織の表情は固く強張っている。

「こ、こんにちは」と固く答える。

「二人でなにしてたの?なにか熱心に話し合っていたみたいだけど」

二人は慌てて答える。

「いや、何でもないよ、ちょっと勉強の話をだね…」と春明が取り繕う。

「ふぅん」と和は、それ以上たずねなかった。

汐織が春明を肘で小突く。

「ほら、はやく話題をだしなさいよ」と小声で春明に囁く。

春明はごくんと唾を飲むと、意を決して話し始める。

「あ、ああそういえば、今日はまだ猫を見ていないなあ」

和は春明に振り向くと、嬉々として話に乗ってきた。

「あの猫ちゃんね、さっきグラウンドの隅で見たよ」

「そうなんだ、そういば野咲さんって昼休みはいつも、色々な所を散歩しているよね」

和は少し、考えたあとにこにことして答える。

「そうだねぇ、なんでもない風景とか草木、動物を見るのが好きなのかも」

「そうなんだ、実は僕も動物が好きなんだ」

二人の様子を見て汐織は――いい調子だ。と心の中でつぶやく。

「へぇそうなんだ。霜月さんはどう?」

急に話を振られた汐織は慌てて答える。

「わ、私も動物は好きよ」

「それじゃあ、ここにいる三人全員動物好きだねぇ」

和は嬉しそうに言った。

「霜月さんはどんな動物が好きなの?」

汐織は急な質問に慌てる。必死に言葉を探す。

「え、あ、あれよ。犬が好きよ」

「わぁ、私も犬大好きなんだよ」と汐織に微笑みかける。

汐織もつられて笑顔になる。

暫くの間、三人は犬について話し、大いに盛り上がった。

犬の話がひと段落すると、

「あのね」と和が話を切り出す、

「和も、この場所使っていいかな。日陰で涼しいし、すごく落ち着くから和もここでお昼寝とかしたいなぁって思って」

春明は急な申し出に少しの間戸惑ったが、

「も、勿論だよ。別に僕の場所って訳じゃないし。それに野咲さんともっと話せるから」

「わぁ、ありがとう」と両手を合わせて、嬉しそうにぴょんと跳ねた。

「あとね」と続けて、

「和の事は名前で呼んでいいよ。和だって春明くんのこと名前で呼んでるからねぇ」

「わかった、野咲さんがそれでいいなら…」

今度は汐織の方へ視線を向ける。

「霜月さんの事も名前で呼んでいいかな?」

「も、勿論よ。その、の、和さん」と恥ずかしそうに汐織は言った。

それを聞くと和は心底嬉しそうに笑顔になった。

そうして二人に近づくと、小さな手を伸ばして、それぞれの手を取って言う。

「嬉しいな、和たち、もう友達だね」と二人の手をきゅうっと握る。

春明も汐織は顔を赤らめる。

春明は声を震わせて言う。

「う、うん。僕もうれしいよ」

汐織は黙ったまま和の小さな手を見つめている。

二人は和の手柔らかい感触を感じながら黙っている。

和は、ぱっと手を放すと、

「それじゃ、和、もう行くね。まだ散歩したい場所があるから」

と、ふわふわと髪をなびかせながら駆けていった。

二人は手を振る事もせずに、呆然と去っていく和を眺めていた。

「友達、なれたみたいだね」と春明ぽつんと呟いた。

「そうね…」と汐織は答えた。

二人は、まだ和の温かさが残る、自分の手を見つめていた。



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