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下から三番目の恋愛活動  作者: 兵衛 清彦
第一章「霜月沙織と野咲和」
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春明は和の姿が見えなくなると、緊張の糸が切れ、どっと疲れが湧いてきた。

額の汗を拭いて、大きくため息を吐く。

汐織が陰から春明のもとへ駆けてくる。

「どうだったの、うまくいった?」と早口に言った。

春明は少し間を置いて、唾をごくりと飲んでから、

「なんとか…只、絵画の話はできなかったけど」と乾いた口で言った。

「いや充分よ、ホントよくやったわ」と汐織は驚いて言った。

汐織は心の中で呟く。

――正直、駄目だと思っていたけど…。案外うまくいくものね。

「私の考えた台詞や例のノートは役にたったかしら?」と汐織は一番気になっていることを、身を乗り出して春明にたずねる。

「いや、準備してきたことは失敗、全然うまくいかなかったよ」

 春明は続けて、

「普通にスキー場の話とか、校庭にくる猫の話とか…」

「な、なるほど」と汐織は頷くと、春明に背を向けてメモを取り始めた。

――やはり父の考えてるようなアバンチュールは所詮、空想のもの、か…。

少しだけ残念そうな顔をする汐織。

「おい、汐織。何してるんだ」

汐織はびくんと体を跳ねらせて、慌てて答える。

「結果をメモっているのよ。今後にも役立つはずでしょ」とメモをしまいながら言った。

「それより」と汐織は話しを切り出す。

「次回どうするかよね。しつこいと思われないように、また声をかけなくちゃいけないわね」

汐織はぶつぶつと言葉を続ける。

「本来、友達なんて自然にできるものだと思うけど、あなたの場合は特殊だから、少し急いだ方がいいわ」

「はあ」と春明は気の抜けた返事をする。

「目標は二人でどこかで落ち着いて話すことね。昼食をとるなり、お茶でもするなり二人の場をつくることね」

春明が不安そうな声で口を挟む。

「いや、できれば汐織にも会話に入って貰いたいのだが。勿論、俺が慣れるまででいい。もう話題が無いし、汐織がいた方が落ちていて話ができるかもしれないし」

汐織は少し考えてから頷く。

「そう…ね、暫くはそうしてもいいかもしれないわね」

春明が嬉しそうな顔になる。

「ただ」と汐織がつけたして、

「ただ、私もその、友達がいないこと、知ってるでしょう」とつぎはぎに言った。

春明の視線からに逃げるように顔を背けて続ける。

「だから、そんなに期待してほしくないというか、なんというか」

「あ、ああ。居てくれるだけで構わないからお願いしていいか?」

「…わかったわ」と汐織は頷く。

それを聞いて春明の表情は柔らかくなった。

ふと汐織は時間が気になって時計を確認する。

「もう時間が無いわね。とりあえず今日はここまでね」

「ああ、また明日の昼休みにここでいいか?」

「ええ、ちゃんとノートを読み返してくるのよ」

「わかってる。それで明日はバイトが無いから、放課後も空いているから」

「そう…まあとりあえず教室に戻らないと、遅刻するわよ」と校舎に向かって駆け出す。

春明も汐織に続いて、歩き出す。

すると汐織は足を止めて振り返る。

「一緒に来ないでくれる、クラスに誤解されるかもしれないでしょ」と怪訝な表情で言った。

春明は立ち止まって、汐織が校舎に入るまで立って待っていた。


夜、汐織はベッドの上で昼休みの出来事を思い返していた。

楽しそうに話す二人、野咲さんの笑顔。

――野咲さんか…。クラスでも変わり者あつかいされていて、また、可愛がられている不思議な子。いつもふらふらとしている、掴みどころの無い子。

明日もしかしたらあの場に私もいるかもしれない。

正直、私も野咲さんと話してみたい。

上手く話せるだろうか。

いや、吾妻だって話せたんだ。私にできないはずがない。

汐織は電気を消すと、三人で楽しそうに会話している場面を思い浮かべて目を閉じた。



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