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バイトを終えた春明はいつものようにシャワーを浴びて、自分の部屋の布団の上で横になっている。
春明は『恋愛活動ノート』を開いて、昨日の続きを読み始める。
《口説く為の詩を、自分でつくること》
春明はがっくりと項垂れた。予想はついていた。
これは友達になったあとの段階での行動だ。しばらくは関係ないだろう。
そう言い聞かせて、春明はぱらぱらとページをめくり読み進める。
《積極的に練習方法を考えて報告すること》
汐織を相手に練習か。なにかいい練習方法はないだろうか。
春明は、頭の中でシミュレーションしてみる。
駄目だ、頬を叩かれる以外の自分が思い浮かばない。
春明は左頬を擦りながら考える。
しばらくは汐織の指示にしたがっていこう。
ある程度したら、ちゃんと自分でも練習方法を考えよう。
春明は卓上ライトを消して目を瞑った。
芸術関係の本が乱雑に置かれた机。ライトに照らさる白いページ。
霜月汐織はかりかりとノートをとっていた。
「これでひと段落ね。あとは…」
汐織はペンを置いて一息つく。
背筋をぐぐっと伸ばし、首をこきこきと鳴らす。
ちらりと本棚を見て、父の著書『恋愛論』を手にとり読み始める。
結婚や恋愛に対する否定的な内容が主だった。
ぺらぺらとページをめくりながら、汐織は考えを巡らす。
恋愛というものは父の考えの通りなのか。
だから、父と母の関係はあんなに冷め切っているのだろうか。
《恋愛》が、どういうものだったら私は満足するのだろうか。
もっと、感情的で浪漫があるものだと望んでいるのだろうか。
ただ一つ確実なことは、私の考えは父とは違うということだ。
吾妻には悪いけど色々試させてもらおう。
吾妻にも利益はあるはずだ。ちゃんと協力はしているんだ。
汐織はまた手を動かし始める。
かりかりとペンの走る音が部屋の中に響く。




