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薄紫の空に、今さっき点きはじめた街灯が眩しい。
遠く田んぼの合間の道に、ちらほらと帰路を急ぐ学生が見える。
バイト先へ向かう春明は、昨日までと比べて足取りが軽かった。
なによりまず、理由はどうあれ今まで険悪だった汐織と普通に会話ができたこと、更には、恋人さがしに協力してくれるという大きな進展に依った。
春明は、すぐにでも汐織から渡された『恋愛活動ノート』なるものを、読みたくてうずうずとしていた。
一体このノートはどんな内容なのだろか、明日からどんな活動するのだろうか。
どんなことでもしてやろうじゃないか。大学に行くため、そしてなにより俺自身が変わるため。そうだ俺が積極的に行動しなくては…。
春明は久しぶりの充実感を胸に起こしながら、バイト先へと急いだ。
夜、バイトが終わって帰ってきた春明はシャワーで疲れと汗とを流した。
母も、弟妹たちも既に寝ていた。
春明は気を使ってそっとした足取りで自分の部屋に向かった。
卓上ライトを点けると、春明は布団に倒れこむ。
カバンから汐織に貰った『恋愛活動ノート』を取り出すと、一ページ目を開く。
そこにはまず日付と主題が書いてあった。
《女友達をつくるにあたって》と題打ってあった。
それからは《まずは友達から。身だしなみについて》と事細かく記してあった。
それを読み進めて行く春明。汐織の性格をそのまま文にしたような、理論だった文章だった。
やっぱり作家の娘といったところなのだろうか。と春明は感心する。
当たり前の様なことが並べて書かれているが、いざ自分に当てはめてみると自分には欠けている部分が多いことに気付く。
頷きながら、読み進めて行く春明はふと、一番気になる題を見つける。
《実際に声をかける時について》
春明は固唾を飲んで、読み進める。進めるが、最初の文で目の動きは止まる。
《口説き文句について「ああ、つれないあなたよ。私の心の薄氷はあなたが送る薫風と…」
「あなたが悲しそうな顔を見せる度に私の体は冴え返り…」》
春明は面食らって、何度も読み返す。
これはハードルが高すぎないか…。むしろ相手は引くだろうに。
その先をパラパラとめくると、延々と歯の浮くような詩が書いてある。律儀に引用元までびっしりと書いてあった。
春明は思い出す、できる限り汐織の指示に従うこと、という言葉を。
ふと春明は気付く。そういえば汐織も友達は殆どいないし、きっと恋人なんかいたことは無いだろうと。
やっぱり断ろうか、いや、せっかくの協力者を失う訳にはいかない。
二人で考える方が、一人で考えるよりきっといいはずだ。
それに、汐織の指示で案外うまくいくかもしれない。
もっと深い意味があるのかもしれないし、この詩だって全体の一部だろう。
うん、きっと大丈夫だ、まだ始まってもいないんだ。
目標があるんだ俺には。大学に行くため。そしてなにより自分が変わるため。
春明は卓上ライトを消して、ノート閉じた。




