13
翌日、春明は呆けたように窓の外を見ながら、授業を受けていた。
授業内容など頭には入らず、ひたすら恋人づくりに頭を悩ませていた。
もう相談できる人などいない。友達をつくる?どうやって…。
春明は、それがわからなかった。根本的にひとりでいるのが好きだった。
友達じゃなくとも、周りに人がいるだけで、寂しさはなかった。
それじゃあ駄目だ、変わらなきゃ。
気持ちだけが先走って、胸を苛立たせる。
高校二年でゼロからスタート。予想以上に難しい立場だと春明は実感した。
それでも、春明は考えを続ける。
今、変わらなくてはいつ変わるんだ。
春明の熱っぽい額を、涼味ある風が撫でる。
グラウンド脇の並木がざわざわと葉を鳴らしていた。
昼休み、春明はいつもの校庭脇のベンチに横になっていた。
春明は疲れ切った体を、、仰向けに、青空を見上げていた。
午前中、考え抜いていた為だった。
春明は、空になった黒ゴマオレのパッケージをべこべこと膨らましながら考える。
――切っ掛けだ。切っ掛けさえあれば俺だって。
ぶつぶつと心の中でつぶやく。
頭を使った疲労感と、心地よいやわらかい風が春明の意識を遠くさせる。
晴れ渡った空から、程よい日差しが春明を照らす。
うつらうつらと春明の頭が前に後ろに揺れる。
今日の夜考えればいいか。今は、体を休めよう。
春明が寝入りそうな瞬間、すぐ傍に人影がある。
「吾妻」
やたら通った声で呼びかけられて、春明の遠のいた意識がはっと戻る。
汐織が両手を腰に当て目の前に立っていた。
春明は、体を起こすと寝ぼけ眼を擦る。
汐織は片手にノートを一冊持っていた。
まだ少し寝ぼけている春明に構わず汐織は話し始める。
「条件があるわ」
春明は、なんのことかわかりかねてポカンと口を開けたまま答えない。
「聞いているの?協力してあげてもいいっていうのよ」
春明は“協力”という言葉を聞くと眠けが吹っ飛んだようにしゃんと背筋を伸ばす。
「本当か、汐織」
「ええ、只さっきも言ったように条件があるわ」
春明は唾をごくりと飲んで、おそるおそるたずねる。
「条件って…」
「できる限り私の指示に従うこと。これが第一よ」と人差し指を立てながら言った。
春明はそれを聞いて少したじろいで言う。
「お、おう、できる限りなら…」
第一ということは、他にもあるのだろうと春明は次の言葉を待つ。
「次に」と汐織は手に持っていたノートを突き出して嬉々として言う。
「私が用意したノートを必ず読むこと。何度も目を通して頭に叩き込むこと」
「他には?」と春明がたずねると
「以上」ときっぱりと言った。
汐織はノートをぐいと突き出して、
「ほら、早く受け取りなさいよ」
春明はおずおずと手を出して、ノートを受け取る。
普通の大学ノートだ。丁寧に付箋が張ってある。
表紙には大きく『恋愛活動ノート』と書いてある。
春明がノートを開こうとすると、汐織は片手を上げて、
「家に帰ってから読むように」と厳しく言った。
「わ、わかった」と春明はノートをベンチに置いた。
「目標を確認するわよ。まず最終目的として《恋人をつくる》次に第一の目的の為に、《積極的な自分に変わる為に広く友人をつくる》とするわ。いいかしら」
春明は黙って頷く。
「具体的な活動予定は…」と汐織は考え出す。
「活動…」と春明は不安そうに繰り返す。
「明日の放課後はどうかしら?あなた、アルバイトはあるかしら」
「いや、明日は無いけれど…」
「じゃあ決まりね。明日の放課後、またここで」
汐織はそうと決まると、いつものようにきびきびととした足取りで去って行った。
汐織がいなくなると、春明は気が抜けて大きく息を吐く。
一体どんな方法をとるんだろうか。誰か女子を紹介でもしてくれるんだろうか。
春明の頭の中は不安と期待で渦巻いている。
春明の重たい頭に昼休みの終わりを告げるチャイムが響く。
春明は慌てて、ノートを取って校舎へと駆けていった。
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